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魔王JKイチカ  作者: NOMMY
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第57話 三つの答え

 視界が一瞬、白に塗り潰され――次に瞼を開けた時、そこは無限に続くような平面の空間だった。

 床も天井も、壁すら見えない。ただ、一定間隔で虚空に浮かぶ光の柱が淡く周囲を照らしている。

 音はない。空気の流れもない。世界そのものが止まったかのような、異様な静けさ。


 その中央に、ブロンドの髪を後ろでまとめ、スラックススーツを纏った女が立っていた。

 片目は人工の紅い光を放つ義眼。残る片方の瞳は冷ややかな青。

 背筋をまっすぐに伸ばし、まるで無駄を感じさせない立ち姿。


 対するは、赤い瞳の高校生イチカ。

突然の転移にも狼狽えず、真っ直ぐ女を見据えていた。


「……見えているわ」

 感情の抑揚を感じさせない声が空間に響く。

「魔力の流れが、ね。寸分違わず」


 イチカは表情を崩さず、相手を値踏みするように一瞥した。

「なるほど。視えるからこそ、対処も容易だと言いたげだな」

「事実よ。あなたがどんな術式を組もうと、その構築を視覚化できれば対応はたやすい」

 女は淡々と答える。その声音からは、誇りや侮蔑といった色が一切抜け落ちていた。


「私はシエラ・アーカイブ。感情は記録として保存してある。喜びも怒りも、必要な場面にだけ取り出す」

 

「……笑うべき時も、怒るべき時も、理屈で判断するか。温度のない目だ」

 

「温度は不要。判断に曇りが生じるから」

 義眼がわずかに光を強め、イチカの周囲を舐めるように走査する。

 

「そして、あなたの魔力――人類の上限を大きく超えている。だからこそ、排除する価値がある」


 イチカはわずかに口元を吊り上げた。

「私を仲間と分断したのは失敗だったな。もっとも……気付いた時には遅いが」


 二人の間に、張り詰めた空気が走る。

 静寂の空間に、わずかな魔力の揺らぎが広がり――戦闘が始まった。



 光の柱が、二人の間を隔てるように並んでいる。

 次の瞬間、イチカの足元から雷光が弾けた。詠唱もなく構築された雷槍が、音を置き去りにしてシエラの心臓めがけて突き進む。

 だが――


「……見えている」


 シエラは一歩も動かず、左肩をわずかに引き、その軌道を紙一重で外す。雷槍が背後で爆ぜ、閃光と爆風が空間を揺らすが、彼女の金色の髪は乱れすらしない。


 すかさずイチカは構成術式アルケミアで床を鋭い槍に変形させ、下から突き上げる。

 シエラは義眼の光を強めると、槍の伸びる角度を正確に予測し、つま先で床を蹴って側面へと滑る。

 その動きは寸分の狂いもない――本当に、最適化された軌跡。


「やはり正確だな。無駄がない」

 イチカは低く呟き、左手をひらりと返す。瞬間、六つの火球が花弁のように展開し、旋回しながらシエラを包囲した。

「全方位攻撃……だが」


 シエラは義眼を動かし、六つの軌道のうち一つを一瞬で“安全な道”と見抜く。

 次の瞬間、その空白を正確に抜け出し、手にした短杖から蒼い魔弾を撃ち込んだ。

 直撃――と同時に、イチカの肩が浅く抉れる。黒い髪がふわりと揺れ、血の飛沫が空中に散った。


「なるほど……」

 イチカはわずかに眉をひそめたが、その声色に怒りはない。

「良い目を持っているようだな」


「分析結果を行動に移すだけ。それが私の強み」


 再び距離を詰めたイチカは、風属性の刃を複数同時に発動させ、螺旋状に収束させながら放つ。

 しかしシエラは、その発動の瞬間に刃の収束点を読み切り、ほんの半歩だけ動いて全てを無効化する。

 回避直後、反撃の魔弾がイチカの頬を掠め、皮膚を薄く裂いた。


 ――この世界に来てイチカに傷を負わせた者は、これまでグラハムただ一人。

 この世界出身の者ではこの女が初めてであった。

 その事実から、イチカは心の奥で認めざるを得なかった。

「確かに、お前は他とは違う」


 義眼の赤が鋭く輝き、シエラは淡々と告げる。

「見えている限り、あなたに勝機はない」


 イチカは、唇の端をわずかに吊り上げた。

「ならば――視えぬほどの速度と数で、埋め尽くしてやろう」


 次の瞬間、空間全域に雷と炎が奔り、全方位からの攻撃がシエラへと殺到した。


 床も天井も、壁すらも魔力で覆われ、逃げ場は完全に失われる。


 シエラの義眼が一瞬、鮮烈に輝いた。

「……これだけの同時制御……? 人間の範疇を、遥かに超えている……」


 だが、彼女の瞳にはまだ迷いはない。全方位攻撃の中に、ごくわずか――一箇所だけ、死角がある。

 そこが唯一の生存ルート。義眼は迷いなくそれを“答え”として弾き出した。


「私を仲間と分断したのは失敗だったな」

 イチカの低い声が響く。

「仲間がいれば、巻き添えにしてしまう。だから今の私は、空間を丸ごと焼き払える」


 炎と雷の奔流の中を、シエラはその“穴”めがけて駆け抜ける。

 嵐のような熱と閃光の中、唯一安全な道筋を読み切ったその瞬間――


「見えていると言ったはずよ!」


 勝ち誇った声と共に、シエラは光の裂け目を抜け出した。

 だが――


「……動きが見えているのは、私も同じことだ」


 そこに立っていたのは、イチカ。

 全方位攻撃に“あえて”作られた逃げ道――そこから出てくることを、最初から計算していたのだ。


「しまっ……!」


 シエラが反応する前に、イチカの掌に迸る雷球が間合いゼロでシエラの胸部に撃ち込まれる。

 轟音と共に稲光が炸裂し、衝撃波が床を割った。


 シエラの身体が宙を舞い、背後の壁に叩きつけられる。義眼の赤が一瞬だけ明滅し、やがて光を失った。


「……見事……」

 その言葉を最後に、シエラは意識を失い、床へと崩れ落ちた。


 イチカは短く吐息を漏らし、肩の血を拭う。

 

「次だ」






 白光が弾け、足元の感覚が一変する。

 翔は振動が収まるのを待たずに、目の前に立つ男を見据えた。


 迷彩色に近い戦闘服、軍人のように無駄のない姿勢。

 切れ長の目に宿るのは、鋼のような揺らぎのない光。


「……スレイン・ヴァルハートだ。名乗る義務はないが、戦う者として筋は通す」

 低く、しかし明瞭に告げる声。


 翔は短刀を抜きながら、スレインを見据えた。

「じゃあワイも……知ってるかもしれんけど、遠坂翔や。裏切り者ひとりに幹部ひとり当ててくれるとは、えらい手厚さやなぁ」


 翔は口角を上げ、肩を軽く回した。

「しかし、やっとやな。突入してからずっと結界張って、仲間の盾ばっかやったからよ……そろそろ暴れたかってん」


 刃を軽く払って構える。

「遠慮せんでええやろ? 相手は幹部様やしな」


 「ほう……口は達者だな。だが……俺は口だけの弱者を何人も見てきた」

 スレインはゆっくりと首を回し、肩を鳴らす。その動きひとつで、空気が重くなった。

「揺らぐことのない強さというものを、教えてやろう」


 次の瞬間、爆ぜるような踏み込み音。スレインの巨体が一瞬で翔との間合いを詰めた。

 迫る拳を、翔は結界で受け止める。

 

「っ……重っ!」

 結界がきしみ、亀裂が走る。


 スレインは眉ひとつ動かさず、二撃目を放つ。

 その瞬間、翔の姿がふっと視界から掻き消えた。

 ――消えた?

 常人ならそう錯覚する速度。だがスレインは眼だけで追い、背後から迫る気配に反応する。


 短刀の切っ先が閃き、脇腹を狙う。

 

 「遅い」

 振り返りざまの肘打ちで、刃は弾かれた。


 着地した翔は、口元を歪める。

「ほぉ……やっぱり簡単にはやらせてくれんか」

 再び地を蹴る。姿がぶれ、残像が数体現れる。


 スレインは無駄を削ぎ落とした動きで、拳と蹴りを正確に叩き込みに来る。

 翔は結界を瞬時に展開して攻撃の軌道をわずかにずらし、その隙に短刀で一閃。

 刃と拳が交錯し、火花が散った。


 ――やっぱり格上や。でも、速さなら……負けへん。

 翔は歯を食いしばり、さらに加速する。


 翔の姿が掻き消える。

 床を蹴った瞬間、彼の身体は常人の目には残像すら捉えられない速さでスレインの懐に迫っていた。

 短刀が閃く――が、その刃は無駄なく動く腕に受け止められ、即座にカウンターの肘が飛ぶ。


「……っ!」

 間一髪で退くが、ほんのかすり傷でさえ鈍い衝撃が肩を走った。

 ――速さで押し切るつもりやったけど、全部見切られとる……!


 スレインは一歩踏み込み、拳を打ち下ろす。

 翔は足元を滑らせるように回避し、背後に回る。しかし振り向きざまの蹴りが風を裂き、肋骨に直撃した。


 「がっ……!」

 息が詰まり、翔は床を転がる。肺の奥まで痛みが突き刺さり、血の味が口に広がった。

 立ち上がりながら見上げたスレインは、まるで揺るがぬ壁のように仁王立ちしている。


「言ったはずだ……これが、揺らぐことのない強さだ」

 その声は淡々としていながら、圧倒的な自信と実績に裏打ちされていた。


 ――このままじゃ負ける。スピードだけじゃ、この人は崩せん……。

 翔は奥歯を噛み締めた。脳裏をよぎるのは、仲間を守るために幾度となく展開したあの結界。

 

 防御のための力……せやけど、もしかしたら……攻めにも使えるんちゃうか……?


 息を整え、翔は目を細めた。

「……まだ終わっとらん。こっからや」



 呼吸を整えながら、翔は距離を取った。

 スレインの構えに一切の隙はない。動きは無駄がなく、わずかな重心の移動すら完全に制御されている。

 ――体格も経験も、地力が違いすぎる。普通にやったら、まず勝てへん。


 スレインが一歩踏み込む。

 視界が一瞬、圧迫されたように感じた。全身を覆う殺気と重圧――その瞬間、翔は地を蹴る。

 刹那、視界から姿を消し、背後を取った……はずだった。


「遅い」

 背後から声が響き、同時に肘が背中を抉った。

 肺の空気が押し出され、翔は前につんのめる。床に手をつきながら、必死で踏みとどまった。


 ――見られとる……! ワイの速さ、全部……!

 胸の奥で悔しさが燃える。だがその炎の奥に、ひとつの閃きが生まれた。


 翔は片手を前に突き出す。

 空間に淡い光が瞬き、半透明の結界がパネルのように現れる。

「防ぐだけやない……これで道を作るんや」


 彼は疾走しながら、足場や壁のように結界を次々と展開する。

 宙に浮かんだ結界を蹴り、角度を変え、反射的に別の結界へ飛び移る。

 直線的な速さではなく、不可解な軌道でスレインの視界を翻弄する。


 「ほう……」

 スレインの目がわずかに細まった。


 その瞬間、翔は結界をスレインの真正面に出現させる。

 反射的に拳を叩き込むスレイン――しかし、それは受け止めるためではなく、翔が回り込むための“踏み台”だった。


 背後に回り込んだ翔の短刀が、スレインの左肩を裂く。

 金属音と共に、赤い線が走った。


「……やるじゃないか」

 初めて、スレインの声にわずかな熱が混じった。


 左肩から血を流しながらも、スレインの構えは崩れない。

「同じ手を繰り返せば、次はないぞ」

 低く、重い声が響く。


 翔は口の端を吊り上げた。

「せやろな。せやから……もう一段、進化させるわ」


 再び疾走――しかし今度は、先ほどのように一直線には動かない。

 翔は宙に幾重にも結界を展開し、それらを瞬時に角度と位置を変えて張り替える。

 足場、壁、盾――役割を次々と変える結界が目まぐるしく入れ替わり、空間そのものが変形しているかのようだ。


 「……空間の構造そのものを、戦いながら組み替えているのか」

 スレインの目が鋭く光る。

 だが、対応の速さはさすがだ。踏み込みの瞬間、翔の進路を読むように拳を繰り出してくる。


 衝撃が鳴り響き、結界が砕け散った。

 同時に翔の短刀が閃き、スレインの胸元を狙う――が、スレインの拳もまた翔の脇腹を抉った。


 「ッぐ……!」

 「……ぬうっ!」


 互いに後退し、床を蹴って再び踏み込む。

 

 もう一度同時に放たれる渾身の一撃――


 短刀と拳が交錯し、金属音と肉の裂ける音が重なった。


 数秒後、膝をついたのはスレインだった。

 胸元には深々と短刀の切り込み、息は荒く、足元に血が滴る。

 翔も脇腹から大量の血を流していたが、まだ立っていた。


 「……揺らぐことのない強さ……見せてもらったぞ」

 スレインの口元がわずかに歪む。


 翔は口元を歪め、息を吐く。

「揺らがへん強さ? そんなもんあるかい。……揺らぎがあるからこそ、人は進めるんや。それが……ワイの答えや」


 スレインの体が静かに崩れ落ち、翔はその場に片膝をつきながらも、まだ前を見据えていた。


 翔は息を荒げながら、笑みを作る。

「さ、あいつらと合流せんとな……」


次の瞬間――口の端から鮮血がこぼれ落ちる。


 「!?……ッ、げほっ……!」

 勢いよく血を吐き、翔は壁際までふらつきながら下がると、そのまま背を預けて座り込んだ。


 「あかん……脚に力が入らへん……」

 額から汗を滴らせ、荒い息の合間に弱々しい声が漏れる。

 

 「悪い、ダイキ……ちょっと……休んでくわ……」


 握った短刀が、力なく床に落ちた。

 それでも翔の目だけはまだ、次の戦いに向けられているようだった。





  白い光が揺らぎ、視界が切り替わった。

 次の瞬間、俺とミサキ、そしてグラたんは見知らぬ部屋の中央に立っていた。無機質な壁と、低く唸る換気音だけが耳に届く。


 足音。

 正面の暗がりから、スーツ姿の男がゆっくりと姿を現す。黒髪を整え、表情は穏やか。しかしその目の奥には、言い知れない影が宿っていた。


「……ヴェイル・エスト。財団幹部の一人だ」

 自ら名乗った声は落ち着いていて、挑発も威圧もない。

「ここから先へは行かせられない。……お互い、望んでいない戦いだろうがな」


 口調は静かだが、俺の感覚が告げていた。――ただの言葉じゃない。背後には重苦しい感情が渦巻いている。


「あなた……迷ってる」

 ミサキが思わず呟いた。テレパスが反応している。

「戦いたくないって……声が、聞こえる」


 ヴェイルの目がかすかに揺れた。

「……そうか。やはり読まれるか」

 

 一瞬だけ、自嘲めいた笑みが浮かぶ。

「私はどうやら財団にとって優秀だったようだ。それだけの理由で幹部にまで引き上げられた。……従う限り、家族に危険は及ばないと信じてきた。

 だが――最適化計画が完遂すれば、彼らも“誤差”を失う。そんな未来に……私は賛同できていない」


 その声は苦く、言葉の端に“人間”の匂いが確かにあった。


「それならっ……!」

 

 ミサキが一歩前に出て呼びかけようとする。

 だが同時に、彼は右手を掲げる。


「だが……君たちが私にすら勝てぬようでは、ザイラスは止められん。

 だから私は、立ちはだかる……!」


 音もなく、空間に白銀の槍が展開された。

 一本ではない。分節構造を持ち、節ごとに宙を走る鎖で繋がれている。まるで蛇の群れが絡み合ったように、しなやかで軌道の読めない槍。


分節槍スネークランス……!」

 俺の目がそれを捉えた瞬間、空気が裂けた。


 弾丸のような速度で伸びた槍の先端が、俺の頬をかすめる。

 即座にハイパーセンスを解放。感覚が世界をスローに変え、死角から襲い来る軌道をかろうじて回避する。

「……っ速え……!」


「良い“感覚”を持っているな」ヴェイルの声は感情を殺した響き。

 

「だが、この槍は曲がる。いくら先を読めても、次の瞬間には別の死角から来るぞ」


 背筋に冷たい汗が伝う。

 本当に――ただの直線攻撃じゃない。動きの予測を外すために設計された槍だ。


 

 ヴェイルの分節槍が大きく唸り、しなる軌跡を描きながら壁を抉る。金属の火花が散り、硝煙の匂いが鼻を刺した。


「はぁっ……!」

 俺は肩で息をしながらも、ハイパーセンスを全開にして死角からの一撃を見切る。耳の奥で、刃が空気を裂く音が膨らみ、脊髄に警告の電流が走る。――右上、来る!


「グラたん、上だ!」

「了解ッ!」

 俺の声と同時に、グラたんの《デビルズ・レプリカ》が展開され、巨大な腕が分節槍を受け止めた。火花が弾け、衝撃波が床を砕く。


 だがヴェイルの攻めは止まらない。槍が分節して空間を縫うように蛇行し、次の瞬間には俺の背後を狙っていた。


「……っ、ダイキ!後ろ!」

  俺は咄嗟に身をひねり、刃を紙一重でかわす。だが振り抜いた風圧だけで頬が裂け、血が滲んだ。


「危なかった……」

 思わず吐き出した俺の声を、隣でミサキの瞳が真剣に捉える。

 彼女の手の中、ワンドの先端が震えていた。だがその震えは迷いではなかった。


「……私も、戦える!」

 叫んだ瞬間、魔術弾がワンドから解き放たれる。

 青白い光が一直線に走り、ヴェイルの腕をかすめた。分節槍の一節が弾け飛び、火花が散る。


 ヴェイルがわずかに目を見開いた。

 「……なるほど、戦い慣れていないが悪くない」


 ミサキは息を荒げながら、それでもワンドを構え直す。

 その声が、今度は直接俺の脳裏に響いた。


『……ねえダイキ。今なら……たぶん、できるかもしれない』


『できるって……?』


『あなたの動きを……私の力で、グラたんと繋げる』


『そんなこと……可能なのか!?』


 息を詰める俺に、彼女は必死に訴えかける。

『無茶かもしれない。でも、このままじゃ……勝てない』


 心臓が一瞬で熱を帯びる。

 けれど俺の答えは決まっていた。

『……やろう。ミサキ、お前を信じる』


 次の瞬間、俺の感覚が“二重”になった。俺の動きに呼応して、グラたんがデビルズレプリカを繰り出す。拳が、腕が、まるで俺の意思を代弁するように出現し、ヴェイルの槍撃を相殺した。


 俺とグラたんの一体化――まるで自分の四肢が拡張したかのような感覚。槍の軌道も先読みできる。


「……いける……! これなら!」

 反撃の手応えが指先に宿る。


 ヴェイルの瞳がわずかに揺れた。

「……これが、“誤差”の力か。まるで理を乱すノイズ……いや、違うな」

 その声は震えていた。

「これは……羨望だ。私にはもう……届かないものだ……」


 一瞬だけ、その声に生身の“人間”の痛みが滲んだ。


 だが次の瞬間、ヴェイルの表情は再び冷たく硬化する。

「――ならば証明してみせろ。私を超えられると!」


 分節槍が暴風のように巻き上がる。金属の咆哮が廊下を震わせ、鋭い突きが矢の雨のように俺たちを襲う。


「っ……! グラたん、合わせろ!!」

「任せろ!」


 俺の前でデビルズレプリカの拳が展開、鋼の槍を弾き返す。

 その隙を逃さず、ミサキがワンドを掲げた。


「これならっ!!」

 赤い光が膨れ上がり、凝縮された魔術弾が放たれる。

 直撃。爆ぜる閃光がヴェイルの身体を揺らし、装甲スーツの片肩を吹き飛ばした。


「ぐあ……っ!」

 呻き声と共に膝をつくヴェイル。だが、分節槍を突き立て、まだ立ち上がろうとする。


 その姿に、ミサキが震える声を漏らした。

「なんで……もう戦いたくないって、心の中で叫んでるのに……!」


 俺は一歩踏み出し、槍の穂先を正面から見据える。

「だったら……俺たちが証明する! お前を倒せる“誤差”がここにあるって!」


「……来い」

 ヴェイルの目が、一瞬だけ救いを乞うように揺れた。

「それができるなら……ザイラスも、止められる……!」


 最後の突きが振り下ろされる。

 俺はミサキとグラたんと感覚を一つに重ね、渾身の拳を繰り出した。


 轟音。

 衝撃が空気を割り、ヴェイルの槍が砕け散った。

 次の瞬間、後方へ吹き飛び、壁に叩きつけられる。


「……見事、だ」

 ヴェイルは血を滲ませながらも、わずかに笑った。

「お前たちなら……“誤差”を……未来に変えられる……」


 そう言い残し、意識を手放した。

 


 俺たちはしばし、その場で息を整える。

 ミサキは無言で、倒れたヴェイルを見下ろしていた。その目には、ほんのわずかな同情が滲んでいた。

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