第4話「青空の約束」
プロペラの轟音が響く。
小型機の扉が開き、青い空と眩しい光が広がった。
父・隆司は深呼吸をひとつし、隣で不安げに座る息子・大翔の肩を抱いた。
「怖いか?」
「……ちょっと。でも、楽しみ」
小さな声に、隆司は笑みを浮かべた。
「大丈夫だ。父さんがついてる。空は……最高だぞ」
約束だった。
仕事にかまけ、家族との時間を疎かにしてきた自分。
せめてこの日だけは――息子と夢を分かち合いたかった。
合図とともに、二人は空へ飛び出した。
猛烈な風が体を叩きつける。
視界には限りない青、足元には白い雲の大地。
「わぁぁぁ!」
大翔の歓声が風に消えていく。
その声を聞きながら、隆司は胸の奥に熱を感じた。
――来てよかった。
しかし、異変はすぐに起きた。
開いたパラシュートの一部が絡まり、布が裂ける音が響く。
制御不能のまま、二人は激しく回転を始めた。
「父さん! これ……どうするの!」
必死の声に、隆司は瞬時に状況を判断した。
このままでは二人とも助からない。
だが、自分の装備を切り離せば……息子だけは生き残れる。
隆司は大翔の目を真っ直ぐに見つめ、叫んだ。
「大翔! 信じろ! お前は降りられる!」
迷いはなかった。
彼は自分のハーネスを外し、絡まったラインを切り離した。
次の瞬間、大翔のパラシュートが大きく広がり、空へと安定して漂い始める。
「父さん! 一緒に……!」
伸ばされた手は、風に引き離されていく。
隆司の体は急速に落下していった。
凄まじい風圧、地面が迫る恐怖――それでも、視線はただ一つ。
青空を舞い、安全に降りていく息子の姿。
「……よかった」
微笑みながら、口の中で小さく呟く。
全身を包む風の轟音が、言葉を誰にも届かせることはなかった。
ラストシーン
青空に散った父の命。
その最期の選択は、息子の未来を守る翼となった。
地上へと消えていく影を見上げながら、大翔は涙の中で誓った――「父さんの空を、俺が生きる」と。




