『血戦の聖者(ブラッド・セイント)』
場面は変わり、教会の地下懲罰房。
そこに座り、笑っていた男が一人。
セレス・グランディア――教会所属の神官。
だがその実態は、命のやり取りを何よりも愛する戦闘狂。
彼は、傷だらけの手で血まみれの槍杖を拭きながら、神に祈っていた。
「今日も戦いの中にあらんことを……神よ、私に殺し合いを……正義という名の殺戮を……!」
そこへ扉が開き、教会の上層部の神官が現れる。
「セレス。命令だ。“あるパーティー”の監視と援護に向かえ。……お前にしか制御できまい」
「ふふ、やっと来たか……“パーティー”ねぇ……いいね、たまには面白い奴と殺り合えるかも」
セレスはにやりと笑い、血塗れの白衣の裾を翻す。
ヴァイス、リアン、フィリスの三人は、王都へ向かう街道を歩いていた。
フィリスの依頼書の件について探りを入れる為だ。
リアンは依頼書は王族が貴族が絡んでいると読んでいた。
リアンが小声で言う。
「この辺り、尾行されています。足音が不自然に消えております」
「魔物か?」
「いえ、人間です。しかも、かなりの手練……」
その瞬間――上空から降り注ぐ光。
「光柱……!?」
地面に突き刺さる光と共に現れたのは、白衣の男。
槍のような杖を手に、狂気じみた目でこちらを見ている。
「こんにちは、冒険者諸君。いや、“異端の英雄候補”って呼ぶべきかな?」
「……何者だ」ヴァイスが一歩踏み出す。
「名乗ろう。私はセレス。回復魔法と戦闘狂を両立する、“教会の異端児”さ」
突然、セレスが槍杖を構えて跳躍。ヴァイスに向かって斬りかかる。
「オラァッ!!」
「チッ……いきなりかよ!」
仕込み刀で受け止めた刹那、槍杖の穂先から爆裂の聖光が炸裂。
リアンが叫ぶ。
「彼の魔力は……“聖属性”と“物理爆発”の複合!? 回復と攻撃を両立している……!」
「つまり……ウザいってことだなァ!!」
ヴァイスが一閃し、フィリスが木陰から援護射撃を放つ。
「当たって――!」
だが、セレスは矢を避けずに受ける。受けながら、回復魔法を自分にかける。
「痛い……最高だ。やっぱり、生きてるって実感するには“これ”だよなァ!!」
「本格的にイカれてますね……!」リアンが冷静に分析。
「でも――あれだけの魔法を使っても、息が上がらない……!」
セレスの猛攻に押される三人。だが、徐々に攻撃パターンを読み始めたリアンが戦術を立てる。
「ヴァイス、正面からぶつかって彼を左に引きつけてください。フィリス、同時に右から一矢放ってください」
「おう。全部任せろ!」
「……はいっ!」
連携攻撃が決まり、ついにセレスの槍杖が吹き飛ぶ。
セレスは笑った。
「……くくっ、いいね。やっぱり、君たちは“正しい混沌”を持っている。気に入ったよ」
セレスは臨戦態勢を解いた。
「仲間にしてくれないか? もちろん、気に入らなかったら殺してもいいよ?」
「バカかよ……」
リアンが、深いため息をついた。
「はっきり言いますが……あなた、気持ち悪いです」
「……褒め言葉として受け取っておくよ♪」
「ヴァイス、どうしましょう?」
「いいんじゃねぇの?気に食わなかったら殺してもいいんだろ?」
こうして、“血を愛する聖者”セレスは、ヴァイスたちの仲間となる。
最悪の相性と思われたその存在は、やがて戦場において異様な安定感を生むことになる。
だが――
彼の背には、常に“教会の目”が光っていた。
そして、セレス自身もまた、何かを隠している。
この出会いが、のちに訪れる“教会との因縁になることを、彼らはまだ知らない。