『森に咲く一輪』
深き森――かつて精霊と人の声が交錯した地。
そこに住まうエルフの里には、代々語り継がれる英雄譚があった。
「千年前、魔王を討った伝説の勇者。その傍らには一人のエルフがいた。森の加護を受け、千の矢で悪を貫いた女神のような射手――」
幼いころから、その物語に心を焦がしていた少女がいた。
フィリス・ミリェル。
長い銀髪を編み、森と共に生きるエルフの弓使い。
小柄な体を震わせながらも、彼女の瞳は鋭く前を見据えている。
「……500メートル、偏差風速1.2、呼吸……止めて……今――」
「……必中。」
放たれた矢は風を切り、森を越え、奥の奥の的のど真ん中を貫いた。
だが、少女の顔は曇ったまま。
「……これで、パーティーに入れてもらえる、かな……?」
数日後。リアンがとある掲示板の依頼を見ながら呟く。
「『森の奥に棲むエルフの少女を保護せよ』……? なんですかこれ、依頼文のくせに主語も報酬も曖昧すぎますね」
ヴァイスは腕を組みながらあくび。
あの日から行動を共にする様になった2人。
生活資金の為ギルドの掲示板で依頼を探していた。
「森に潜む弓使いが魔王軍に狙われてるとか何とか……。ま、面白そうじゃねぇか。暇潰しにはちょうどいい」
「あなたの“暇潰し”で森が燃えるのは自重してくださいね」
ギルドを出た2人はゆっくりと森へ向かって行く。