『灰の谷、ふたりの異端』リアン
騎士団の訓練場。
それは若き騎士たちが剣を振り、技を磨き、強さを競い合う場所だった。
だがその隅で、一人の青年が嘲笑を受けていた。
「おいリアン、お前のその細腕で何が守れるってんだよ!」
「また模擬戦で吹っ飛ばされたんだってな? 騎士のくせに体力テストすら落第とは情けねぇ!」
彼――リアン・フェインは、騎士団の“落ちこぼれ”だった。
持って生まれた体は華奢で筋力もなく、重い剣や鎧を装備すればまともに動けない。
そのくせ頭だけは切れ、戦術や戦略に関しては軍の上官ですら舌を巻くレベルだった。
だが、それは“強さ”とみなされることはなかった。
「力無き者が口を挟むな」――それが、この国の“常識”だった。
落第の烙印を押されたリアンは、前線に出ることを許されず、後方支援要員として配置される。
だが彼はその役割を最大限に活かした。
――敵の動きを数手先まで読む。
――味方の動線を整理し、最小の犠牲で最大の勝利を導く。
――必要ならば、自ら潜入して要人を暗殺する。
そのために彼は、騎士らしからぬ武器――小刀とトンファーを身に着けるようになった。
それは隠密行動と奇襲に特化した戦い方。華やかな剣戟ではない。だが、確実に“勝てる”戦いだった。
ある日、派遣された辺境の任務で、彼は奇妙な魔法使いと出会う。
「《焦熱雷閃陣》ッ!!」
圧倒的な火力、だが無駄が多すぎる。
雑でいい加減な戦闘だ。
気まぐれにもつい指摘したくなってしまった。
「無駄弾が多すぎます。弾道計算も甘い。あれでは群れの後列は焼け残りますよ」
振り返る奇妙な魔法使いはまるで狂犬の様だった。