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第3話

 魔王を倒した。



 私は魔法でシステルに合図を送った。

 私たちよりさらに後方で待機していたシステルが、転送魔法でやってきた。



「お疲れ様です。私は今から彼らに話がありますので、どうぞ先にお帰りください。アデルもすぐに来ます」


 他の人には聞こえないよう小声でそう告げ、志願者のほうへ行った。生き残ったのは22人だった。




「皆様、お疲れのところ恐縮ですが、少しお話があります」


 志願者たちはどこか上の空という感じだった。たった5分のシールドを張ったとは思えないほど疲弊していた。



「この討伐についての情報は他言無用です。念のために、魔法による契約を行います。今後、討伐の内容について話すことはもちろん、書き記すこともできません」



 ぼーっとしていた志願者たちが「うん?」という顔をする。


「なんで……そこまでするんだ?」


 志願者の一人が聞いた。


「志願者の中に、他国からの偵察が目的の者が紛れている可能性があります。魔王に関する情報は、悪用されればまた同じ悲劇をうみかねません」



 他国にとっても魔王は脅威だった。万が一、魔王の矛先が自国に向いたときのために、少しでも情報を集めたいと思うのは当然だ。



「ご存知だと思いますが、この国からは誰も出ることはできません。この国の周りには、上空を取り囲んでいる魔王たちが張る結界のようなものがあり、入る分には問題ありませんが、出ることはできません。魔法を使い脱出を試みようとも、その結界に阻まれ、消されてしまいます」


「それはまあ、知ってるけど」

 

 国はこの結界の分析を急いでいるが、未だに解除のめどはたっていないようだ。結界のせいで、他国との交流はほとんど遮断されていて、閉ざされた国となってしまった。


「命をかけて偵察に来たとしても、得た情報を持ち帰るすべはありません」


「それなら、わざわざ魔法で契約する必要があるのか? どこにも情報を持って帰れないなら、そんなことしなくてもいいんじゃねえか?」


「理由は他にもあります。国内で暴動が起きるのを防ぐためです。みなさん、始まる前に、討伐方法について異論があったはずです。それと同じことが国中で起こった場合、作戦を続けることが難しくなります」


 この魔王討伐作戦は、みなが賛成しているわけではない。民間人を集めての討伐をよく思わない人々もいる。それに対し抗議活動を行っている者や、国王に反感を持つ者がいる。

 また、魔王の意思に従い自らの命を差し出そうとする者や、謎の集団が暗躍し、よからぬ計画を立てている、という噂もある。


「だがあんな上空でやり合ってたら、誰かに見られてるだろ? それはいいのか?」


「問題ありません。魔法で周りからは見えないようにしてありますから」


「あ……そうなのか」


「我々の敵は魔王です。今は人間同士で争っている場合ではないのです。契約の印として、手首にリング状の模様がでます」


「ほんとーに、誰にも言えないのか? もしも王様になんか聞かれても、言えませーんっていうのか?」


 男性が皮肉っぽく聞いた。


「一つ例外があります。その場に王がいる場合のみ、この契約は無効化されます。王は志願者の話を聞きたいと仰っています。そのときに話せなくては、元も子もありませんから」


「あ……さようですか……。ってか、そんな機会あんのかよ……」


 誰かがぼそっと呟いた。


「話せない、というのはお辛いかもしれませんが、どうかご了承願います」



 ここにいる生き残りの中に密偵がいたとして、今抵抗しても仕方がない。どうしたって、魔王の結界からは出られず、魔王がいなくならない限り、故郷へ帰ることも情報を渡すこともできない。


 他者へ情報を渡す方法がないわけではないが、その魔法を知る人間がここにいるだろうか。



 システルは志願者たちを見渡してから、抵抗しそうな人がいないことを確認し、魔法の契約を始めた。契約には、私がシステルに教えた魔法を使ってもらっている。そのほうが確実だからだ。




「お疲れ様。先にあたしと帰ろう。転送はあたしがするよ」


 後ろから声をかけてきたのは、私の側役であるアデルだ。転送魔法で来てくれた。



 彼女は数年前から私の側を任されている。年齢はシステルと同じく40歳だが、彼女も年齢を感じさせないほどパワフルだ。

 身長は高く、日に焼けた肌にキリッとつり上がった目尻。瞳は赤く、肩にかかる髪は瞳と同じ赤色だ。魔法の腕は一流で、特に治癒魔法においてはこの国トップレベルだ。



「あいつが『城の関係者と感づかれないような服装で来てくれ』っていうから、黒のズボンに黒の上着で来たのにさ」


 そう言ってアデルは自分の格好を指差す。


「私を見るなり『もう少し違う格好はできなかったのか』ってさ。四六時中甲冑しか着ない男が、私と同じ年のくせに偉そうに言ってきたの。あいつの頭を坊主にしてやりたいわ」


 アデルの格好は城の関係者と思えないほどカジュアルだったので、システルの要望通りにはなっている。だが二人は話をするたびに何故かお互い嫌味の言い合いになってしまう。相性は良いはずなのだが。



「それはそうと、1体目の討伐から1年以上たったけど、成功してなによりね。あなたの考えた作戦が間違ってない証拠ね」


 アデルは力強く言ってくれた。


「あたしいいこと思いついたんだけどさ。その本って絶対に傷つかないでしょ? だからさ、万が一攻撃があたりそうになったら、こう、さっと本を前に構えて」


 アデルは私が詠唱のときに持っていた本を取って、前に構えてみせた。子供の私には、この本は片手で持つには大きすぎるのだが、アデルは軽々と掴んでいる。


「攻撃が来たらこれではじき返すの。あなたならあの速い攻撃でも余裕で見えるでしょ」


 ニコッと笑って冗談を言うアデルを見ると、少し心が和んだ。


「さ、あとはあの騎士に任せよう。あ、今夜は詠唱の続きはせずに休むこと! わかった?」


 私はもちろん詠唱をするつもりでいた。だがそれを言われると思わなかったので、反応に困った。


「い・い・か・ら! 休むの!」


 私の頭をマントの上から両手でもみくちゃにしてくる。私は、うんうんと頷くしかなかった。


「まったく。あなたこうでも言わないと永遠に詠唱するじゃない。大事なことだけど、きちんと休まないと」


 などと話をしていると、すぐ近くに転送魔法陣が現れた。遺体の回収班だ。遺体は、家族や知り合いの希望があれば引き渡すことになっている。ここにいては邪魔になるだけだ。



「あ、回収班来たわね。あなたのことあまり見られても困るし、さっさと退散しましょ」


 アデルが転送魔法を発動し、私はその魔法陣の中に入る。



 私はもう一度向こうに転がっている遺体を見た。討伐が始まる前に話をしていた二人の男性の遺体が目にはいった。彼らの足は、魔王の攻撃で吹き飛ばされていた。


 あの人の家族は、悲しむだろうか。死んでも報酬はもらえる。そのお金で息子の病気を治すことができるなら、少しは救われるだろうか。


 私は移動する寸前まで、その光景を目に焼き付けた。みな、私のせいで死んでいったのだ。




 この討伐作戦を考えたのは私だ。こんなやり方でよかったのかと、考えない日はなかった。私がもっと強ければ、もっと賢ければ、他の方法があったのかもしれない。



 死なせてごめんなさい。


 殺してごめんなさい。




 魔王との戦いは何万年も前から続いている。何度死んでも、また生まれてしまう。


 今回それが起こったのは、今から12年前。

 8体の魔王がこの大陸の南西に突如現れた。8体は円を描くように等間隔で浮遊しており、この国と、近隣の小さな村が円の中にすっぽりとおさまっていた。  

  

 今回の討伐により残りは6体となったが、魔王たちは日に日に国の中心へと、つまり城へと進んでいる。



 魔王はそれぞれ黒い糸でつながっており、その糸が国の周りを囲う結界となっている。その結界が通った後には、何も残らない。森や川はなくなり、岩も丘も建物も崩れ、平らになる。安全な土地は減り続け、国の周りにあった村の住人たちは、早々にこの国に逃げてきた。だが、このままではいつかこの国もなくなってしまう。



 魔王が現れたとき、国王はすぐさま討伐作戦を実行した。騎士だけでなく、国中の戦える者を集め、魔王の討伐に向かった。


 だが、それが成功することはなかった。力のある者はほとんど死んでしまい、戦力は減少する一方。今となってはきちんと魔法を扱える者はごくわずかとなってしまった。



 だからこそ、今回の成功は大きな一歩だ。



 私はこの国の王女。

 どんな手を使ってでも成し遂げる。

 すべての魔王をこの世から消し去るために。











 ―――――――――



 夢をみた。


 泣いていた。


 周りから蔑んだ目で見られ、『化物』と呼ばれていた。


 だけど、二人は優しく抱きしめてくれた。


 どれだけ辛くても、一緒にいれば大丈夫なんだ、そう思った。



 それ以外、何もいらなかった。


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