第二話 武器屋の実情
俺はあの白い部屋から出た。そこはファンタジーのゲームに出てくるような街だった。建物も異世界ものではありふれたデザインで、所謂創作での中世といった感じの街だ。ぱっと見ただけでは特筆するべき箇所は見つからなかった。
「そういえば、名前聞いてなかったねェ。」
「人不 力量だ。」
「人不 力量かァ…そのほっそい体には似合わない名前だねェ。」
「どうだっていいだろうそんなこと。」
私は少し怒ってしまった。ここまで書いていなかったがこの物流神は女性の声をしている。姿はわからないが、女神という認識でいいんじゃないかと思う。
私はそのままさっき言われた情報館に入った。この世界におけるシステムやこれまでの歴史などが展示・紹介されている。公民館と博物館が合体した様な内装だった。内容は追い追い関連する場面で説明していく。
「ふーむもとの世界とはかなり違う歴史を辿ってきた様だな。」
「まあそうだよ。」
物流神は私に近づき、囁き声でこんなことを言った。
「まあ実際は2ヶ月くらい前に作られたばっかりなんだけど」
衝撃!
私を固まらせるほどの衝撃だった。あの博物館のような展示室には4時間ほどいた。それほど「昔」というものがあった様に見せることができるというのかここの神たちは!
私は今感じた衝撃を伝えた。
「苦労したのよ。これら考えるのに半年かけたんだからァ。」
にしても早いわ。そう思わざるを得なかった。
「それより、外に出たが、どこにいけばいいんだ?さっぱりわからないぞ。」
「ここは結構複雑だからねェ。迷うのも仕方なしだよォ。
まずは武器屋に向かってェ。話はそれからだねェ。」
その言葉通りに俺は武器屋らしき場所へ向かった。街の中では目立つ位置にある建物だった。
その建物は「武器屋」というよりは「武具屋」と言った方が正確なような気がした。
店先にぶら下がっている木製の看板には、盾の後ろに剣が交わっているイラストが描いてあった。
店に入ると、やはり武器と防具が両方置いてあった。
「ねぇ〜これ見てよォ〜。わかるでしょォ〜武器の種類が少ないことォ〜」
その声は力無く聞こえた。
「あぁ、これはいくらなんでも少なすぎると思う」
そう。武器が3種類しかない。
ショートソード・ロングソード・グレートソードの3つしかない。
「これじゃァ戦術の幅もへったくれもないでしョ〜? だから人の助けが必要だったってわけェ」
「今やっと理解した、そんなに急いでいる理由が」
「本当にさァ〜神は直接介入できないんだよねェ〜。人に頼もうにもこの世界の元からの住人は話も聞いてくれないしィ」
「今は練習用の武器を買わせてくれ。物流とか以前にこの世界の仕様を確認したい」
なぜか俺はここが自分の生まれ育った世界ではないと知っていた。理由は自分にもわからない。
それどころか自分の名前以外の自分の情報は覚えていない。やったことや知識は覚えているが。あの忌々しい何もなかった時間に削り取られたか。
「練習用だったらショートソードだねェ。軽いし技の判定も甘いし」
「技の判定ってことは動きに合わせて何かが発動するタイプの世界なのか?」
「まぁ、そういうこったねェ」
俺はショートソードを購入し、次に進もうと思った。チュートリアル的な意味で。
「じゃあ、手頃な敵がいるところで練習させてほしい」
「それならこの街出たすぐそこがおすすめだよォ」
俺は移動した。街を出ると、平原があった。斜面がなくてもひとりでに動く青い粘性のある流動体や紫色をした上空1メートルぐらいで停滞しているコウモリなんかがいた。ここはどうにも元の世界にあったことは通用しないらしい。
「あのスライムに試してみればいいんじゃないかなァ。」
あの青い奴がスライムだろうか。思ってたスライムよりシャバシャバに見えるが。
「スライムとはあんまり相手したくないな…」
俺はスライムと戦うとほぼ死ぬようなゲームをやったことがある。そのゲームでは、剣や防具がスライムが纏っている消化液によってやられてしまい、使い物にならなくなるという特殊能力を持っていた。というかほぼ最強モンスターの一角だった。それに見た目が似ていた。
「大丈夫だよォ。そんな変な能力とか持ってないからさァ。」
「それじゃあ遠慮なく。」
俺はスライムに近寄り、剣を振る。
剣は普通に何の変哲もなく振り下ろされ、スライムに当たった。3ダメージだった。
「ダメージは数字で出る世界か。にしてもダメージ低いな。」
「えーっとね。一応の一応呪いであり祝福でもあるような何かを君にかけさせてもらったョ。」
「どんな呪いだ。」
「人気が一定以上ある武器の基本性能が下がる代わりに人気が一定以下の武器は基本性能が強化されるって呪い。」
「つまり、元からある武器は使えないってわけか。つまりあの武具屋に置いてあった3つは。」
「そうだよォ。確かに今ある武器は結構洗練されてるしィ、そのままでも強いは強いんだけどォ、これだとあんまりにもあんまりだからねェ。」
俺はその戦闘から逃げた。話の流れからして武器変更だろうし。
「ま、使いたい武器があったら言ってくださいなァ。予定だと普段日の光浴びてない武器とか入れるつもりだったんだけどォ。」
「じゃあなんで剣だけになったんだ?」
「全然思いつかなかったからだよォ。」
私はこの世界の企画段階でアイデア出ししておくべきじゃなかったかと思う。今となってはすでにあるのでこれから作るしかないが。
「そうか。ならまずハンマーなんてのはどうだろうか?打撃武器といったら人気がない武器の筆頭じゃないか。」
「いいんじゃないかなァ、よし、使ってみよゥ。」
そう物流神が言うと、現実において戦鎚と呼ばれていた物が出現した。某ハンティングアクションに出てくる様なものではない。頭に工具の金槌がついている、長い鉄棒だ。短くもてば普通に釘なんかを打つのにも使えそうだが。
「なんか、こんな長いもんなんだな。」
「剣に対抗するためだよォ。」
「ふ〜ん。」
「あッそうだ、重さは別に考えなくていいからねェ。カバンに取り付ければ一緒だからァ。」
「そういえばバックパックずっと着いてるな。」
「それに色々入れとけばいいよォ。中四次元ポケットだしィ。」
「そんなもん背負ってて大丈夫なのか?異世界転生ものでアイテムボックスが主人公だけってのは良くある展開だろ?」
「いやいやァ、この世界の住人は全員持ってるもんだからァ、問題ないよォ。」
「じゃあ、普通にカバンとして使って、この中に食料とか武器とか入れときゃいいってわけか。」
「そうだよォ。」
「それじゃ、この戦鎚使ってなんかするか。」
「だったらギルド行って依頼受けた方いいんじゃない?依頼受けないと出現しないダンジョンとかあるし。」
「あーまあそうするか。他にやることもないしな。」
「依頼受けるときはどっかのパーティに参加してェ。」
「どうして?」
「ソロだと紹介にならないでしょォ?」
「そうか?」
私はギルドへ向かった。そこはなぜか西部劇風の建物になっていた。ここは特筆すべきところといえば、クエストボードの存在だろう。他の人が受けた依頼が貼ってあり、そこに書き込むことで参加することができる。
ちなみに通貨はメリと言い、Mで表される。価値は店を見た感じでは1Mで10〜15円と言ったところか。
いかにも初心者向けっぽい攻略系依頼が発注されてあったのでそれに同行することにした。
塔の攻略。報酬は3000M。日給でみれば十分な額だろう。出発日は明日だ。
「明日か、この依頼」
「普通即日出発ってのはなかなか出ないねェ。締め切りが前日になってることがほとんどだよォ」
「じゃ、今日は適当に宿とって寝るかな」
俺は最安値の宿を見つけた。そしてそこで眠りについた。
おまけ
この世界でなぜ武器が3種類しか存在しないのか、なぜ物流神が武器を生み出せるのか。
その答えはただ一つ、武器の神が不在だからだァー!




