スパイレラの実力
施設の扉が開き、星流一行が出てくる。
レリアが健人と遭遇してからあまり時間は経っていないようで、まだ外は暗い。
「あれ? まだ結構暗いな……」
「そうだな。今は……深夜一時ってとこだな」
健人は自分の腕時計を見て、そう言った。
「あ、時計なんてあったんすね」
「そうだな……っと、あれが俺のスパイレラだ。よく見ろ?」
健人は施設を出て、右に曲がるとその向こうを指さした。
「おお、すげぇ! カッコいいなこれ……」
星流はそこにある黒く輝く機体を見て、そう声を上げて、近づいた。
コックピットは開いており、中が見えるようになっている。
中には特にこれといった機構はない。強いて言えば紐のついたリング状の物体がある程度だ。
「だろ? スラスターもついてるんだ。さあ捕まれ、これに乗ればひとっ飛びだ」
健人は星流に向かって何となしに言った。
「……うん? 掴まるってどういうことすか?」
「そのまんまの意味だ。これで飛んで、お前は掴まる」
「いやいやいや! 流石に無理っすよ! 掴んでとか無理なんですか?」
「あれ? 無理か? 掴んでは飛ぶ時のフォームとか、他にも色々操作が必要だから無理だな」
困った様子の健人。
「そこの白髪がクソ強そうだったからお前もそれくらいいけるかと思ったんだが……」
星流の実力を、どうやらとてつもなく身体能力が高いらしいレリアと同じだと勘違いしたようだ。
「いや、星流は量産型の生物兵器だから、そんな強くない」
レリアはなんでもない様子でそう言った。
「そうそう……ってえ?」
星流は予想外の回答に疑問の声を上げた。
「あ……今のは忘れて」
「え? いや、もしかして俺人間じゃないんすか?」
「……それ、何言われても驚かない覚悟があるなら言ってもいいよ」
「えっ、そう言われるとちょっと……うーん」
少し考える様子を見せる星流。
「……やっぱり自分のことは流石に知っておきたいので、話してください」
覚悟した様子でそう言う星流。
「……分かった。あなたは多分私の量産型モデルの生物兵器。言うタイミング見極めてたんだけど……口が滑っちゃったな」
「おお……ってことはもしかして自分結構凄いんすか?」
期待した様子で言う星流。
「……あれ? 意外と平気なの?」
少し驚いた様子のレリア。
「そりゃ、自分がなんか生物兵器って……カッコよくないすか?」
嬉しそうな様子で言う星流。
「……そうだったらいいね」
レリア小さな声でそう言った。
「え? 今何か言いましたか?」
「いや、なんでもない……ともかく、普通の人の数十倍は強いよ」
「なるほど、そうだったんすね……」
「で、話は終わったか?」
健人が二人の横からそう言った。
「あ、はい」
「うん」
「それじゃ、移動方法は俺が担ぐんでどうだ? これなら比較的安全で、結構早いぞ」
「あ、じゃあそれでお願いします」
「あとリレイもな」
『了解です』
「私は普通に走ってくかな」
「……さっきから思ってたんすけど、レリアさんもしかしてめっちゃ凄いんすか?」
「……まあそうかもね」
「おお、流石です……」
「よし、じゃあ俺は搭乗するから、行くぞ」
健人は機体に乗って、紐のついたリング状の物体を頭にはめて、コックピットを閉めた。
『さあ、出発だ』
◇
すでに廃墟と化したビル街を走り抜ける二つの人影。
「ああ……ようやく慣れてきたかも」
『私も少しだけ予想外でしたね……これほど早くて、それで揺れるとは……』
車と同じか、それより少し遅いくらいの速度で走るスパイレラは、揺れも相当なもののようだ。
『すまんすまん、忘れてたわ。揺れないよう頑張って入るんだがな』
そう言って健人は笑った。
「そういえば健人さん、これってどうやって操作してるんすか?」
『それはだな、コックピットの中に神経信号感知装置だったか……ともかく頭にはめれば思ったとおりに動かせるようになる装置があるんだ。それで動かしてる』
「もしかして、俺でも動かせたりします?」
少し期待混じりに聞く星流。
『ちょっと厳しいな。動けないことはないが、やっぱり慣れは少しいるからな』
「そうなんすか……人型兵器はロマンなのにっ……!」
少し悔しそうにする星流。
『おっ、そろそろつくぞ』
健人は何の変哲もない場所を見て、そう言った。
『……もしや、興生って馬鹿には見えなかったりするんですかね?』
リレイは少し冗談っぽく言った。
『あん? んなこたねぇよ。まああらゆる手段を尽くして隠蔽してるから、普通は見えないもんだ。かく言う俺も、目印を見てるだけだしな』
『へぇ、そうなんですね』
「……あの光ってるビルね」
レリアは健人と同じ場所に目を凝らし、数秒後そう呟いた。
『……まあそこのダッシュしてる白髪はちょっとおかしいから見えてるらしいが』
「それで、どうやって入るの?」
『扉の場所があるんだ。そこでパスワードを入れれば開く」
そう言ってキョロキョロと辺りを見渡した後、健人は少し走った先でブレーキをかけた。
『っと、この辺だな』
「どわぁぁっつ!」
『おぉっと』
その反動でリレイと星流は吹き飛んでしまった。
止まった場所は、他となんら変わりないようなビルの前だ。
『あ、すまんすまん』
半笑いで健人は言った。
「いてて……」
健人はその後、スパイレラのコックピットを開け、そこから降た。
「よっと。よし、ついてこい」
剣とはその後、そう言ってビルの中に入った。
『さて、行きますか。一体ここに何があるのかサッパリですがね』
リレイは先程ふっ飛ばされたはずなのに余裕の様子だ。
「そうだな……」
星流は背中をさすって痛そうにしている。
「そうだね」
レリアはあれだけ走ったというのに、息切れもしていないようだ。
「あ、そうだ忘れてた、お前ら。これは読めるか?」
そう言って健人が出したのは、ホログラムのようなものだった。
そこには『私達の都市へようこそ! 奥の施設の突き当りを曲がり、右に見える施設に入って手続きをしてください!』と書いていた。
「えっと……『私達の都市へようこそ、奥の施設の突き当りを曲がり、右に見える施設に入って手続きをしてください』で合ってますか?」
星流は戸惑いつつ、そう答えた。
「うん、そう書いてるね」
『私もちゃんと読めますよ』
「おー良かった良かった。たまに文字が読めないやつがいるもんでな」
「えぇ、そんな人……確かにこのご時世ならいるのか……」
星流は戸惑いつつそう呟いた。
その後、健人は何やらビルのエレベーターを操作していた。
「何やってるんすか?」
『このエレベーターさ。あと少ししたら来るぞ』
すると、何やらエレベーターは動き出したようだ。少しした後、ボタンの隣のディスプレイが付いた。
「おおっ! まだ動くエレベーターがあったのか!」
『まあそんなもんここだけだけどな』
その後しばらくすると、エレベーターが降りてきて、扉を開けた。
外は植物に侵食され、塗装は剥げ落ち壁も一部崩れているにも関わらず、そのエレベーターの中は綺麗に掃除されており、明かりもしっかりとついており、傷一つなかった。
「すげぇ……まだ全然綺麗だな」
『じゃあ俺はこのスパイレラがあるから別口から入るぜ。お前らはそこから行って、案内に従ってくれ。もしなんかあっても健人の推薦を受けたって言えば融通も聞くだろうよ』
「推薦?」
『まあそういうことにしといた楽って話だ。お前らは結構特殊だからな、じゃ、二層で会おうな』
「そうしたら楽……え? 二層ってどういう意味ですか?」
健人は星流の言葉が聞こえなかったらしく、そのまま行ってしまった。
「行っちゃった……まあいいか、案内あるらしいし」
あまりエレベーターを放置するわけにもいかないと判断したのか、星流はエレベーターに乗った。
『これは凄いですね……さ、レリアさん、行きましょうか』
リレイはレリアにそう促すが、レリアはどこか上の空といった様子でエレベーターを見つめている。
「興生ね……」
『? どうしました?』
「なんでもない。行こ」
少し長めになります。
「ここがよくないかも」「ここが面白いかも」などのご感想等あれば頂けると幸いです。