触らぬ神に祟りなし?
外の暗闇の中、二人……と一つは進んでいた。
周りに照明は一切なく、照らしてくれるのは淡い月明かりのみだ。
先程は丸腰だった星流の手には拳銃が握られている。
リレイは武装する方法もないため、丸腰のようだ。
彼らは今、リレイと星流が起きた施設に向かっていた。
そこにリレイの体があるそうだ。星流だけで体の移植をするのは厳しかったが、レリアならどうだろうか、ということで戻っているようだ。
「さっきから思ってたんすけど、この暗い中はっきり見えてるんすか? めっちゃするする進んでいきますけど……」
「まあ私も一応兵器だからね」
「……え? 初耳なんですが?」
『なんと、私も知りませんでした』
足を止めて聞き返す星流。
「あれ? そうだったっけ? まあ生物兵器で、身体能力、再生能力とかが普通の人間より高くて、あとは色々できる。こんなのとか」
そう言って指先からポッと小さく炎を出した。
「え!? どうやってやったんすか!? もしかして……魔法とか?」
驚愕と歓喜の混じった声を上げる星流。
「普通に科学。魔法っぽいのは否めないけどね」
火を消して冷静な声で答えるレリア。
「そうなんすか……」
星流はその言葉に少し残念そうに肩を落とす。
「ってあれ? あの犬みたいなのの死体燃やしてたとき、普通にマッチ使ってませんでした?」
「んー、まあこれ使ってもいいんだけど、別にマッチでもできるしね。ないときはこれ使ってるけど。まあ申し訳程度の理由として、これだとたまに機械獣……まあ犬が寄ってきたりするからってとこかな。前真後ろで使ったらすぐ気づかれてね」
星流は「なるほど」と相づちを打った。
『見えてきましたね。私の目覚めた、そして私の身体がある場所です』
すると、前方に一際大きい施設が見えてきた。
壁は他の建物同様植物に侵食されていたが、他の建物とは違いその形は綺麗に残っていた。
正方形に煙突と質素な形をしている。
近づくと、そこには鉄製らしき扉があった、その横には端末がついているようだ。
ふよふよとその施設の扉らしきところに近づいていくリレイ。
「これ、そう簡単には開けられないんじゃないの? それともパスワードでも知ってるの?」
コンコンと扉を叩きながらリレイに聞くレリア。
『いえ、案外いけますよ。物理的には強固ですけどね』
レリアのにそういったさせたのち、端末に向き直るリレイ。
端末に表示させられた数字がチカチカと動いているところを見るに、操作できるようだ。
数秒後、ピッという電子音が鳴り、カシャンという音とともにドアはスムーズに開いた。
『まあ、ハッキングってヤツですよ』
「リレイってそんなこともできたのか」
『もちろんです。フェニックス部隊の技術担当でしたから』
すぐに施設の扉の方へ向かっていった。
レリアはその言葉に少し肩を揺らした。
「フェニックス部隊……なんか強そうだな」
『結構強かったと思っていますよ。さ、入りましょうか』
施設の中は白い壁に白い床、天井には点滅する照明と、コードが張り巡らされていた。
その道は真っ直ぐに続いており、先はよく見えず少し不気味な様相だ。
「あれ? 暗いな……前はこうじゃなかったよな?」
不思議な顔をして星流はリレイに聞いた。
『うーん……そうですね。少し妙です』
少し奥の方に進み、覗き込みながら呟くリレイ。
『原因解明も悪くありませんが、触らぬ神に祟りなしです。まずは用事を済ませましょう』
「うーん、まあそうだな。それで目的の部屋は確かすぐそこの扉だよな?」
『そうです。今開けますね』
そう言って扉の前へ飛び、横の端末を弄るリレイ。
『おっ、開きましたね』
カシャンと軽い音が鳴り、中の部屋から通路へ光が漏れてくる。
「部屋の中の電気は生きてるのか」
星流は部屋を覗き込んでそう言った。
リレイも部屋の中に入り、辺りを見渡した。
中は酸素カプセルのようなものと、それに付随する画面の消えたコンピューターが複数設置されていた。
他には様々な機械のようなものが入ったかごが置かれていた。
『ここに私の体が――』
リレイはあるカプセルを見つめ、止まってしまった。
それは他のものと同様何も入っていなかったが、その隣のコンピューターだけは画面がついていた。
「ここに体が……ないみたいだね」
『……二度目の記憶喪失ですかね?』
「俺も前にちゃんと入ってるのを見たぞ?」
リレイは困った様子でそのカプセルの周りを飛び回っている。
レリアはそのまま部屋の周りを探りに行ったようだ。
「やっぱりあの時俺が体の移行をやっといた方が良かったんじゃないか?」
『流石に初対面の方に、そこまでのお願いはできません』
「そうだったのか? 俺は全然やってもよかったぞ」
『私が死んでしまいます』
「おいつまりそれ俺を信用してないだけだろ」
『ははは、冗談ですよ』
『でも実際、方法は複雑ですから』
『星流さんにやれるか怪しいですよ?』
「うぐっ、それは確かに……」
『ともかく、痕跡があるかどうか……』
「今体を泥棒したヤツを追跡できるような痕跡がないか部屋を探してみたけど、追跡できるような跡はなかったよ。何かを持ち去ったのは確かみたいだけどね」
部屋の中を散策していたレリアが、戻ってきてそう伝えた。
『……仕事が早いですね。ともかく、追跡も無理だと』
少し考え込むように下を向くリレイ。
『うーん、それでは諦めますか』
リレイはあっさりとそう言った。
「えっ、それでいいのか?」
『まあ元より、自己防衛のためにそうしたかっただけですから。レリアさんは強そうですし、大丈夫かと思いまして』
「そうだったのか。確かにレリアさんは強そうだもんな」
「……別にそうでもない」
レリアは少しだけ恥ずかしそうに二人から目を逸した。
『とりあえず、この施設を調べてみましょうか』
「……さっき触らぬ神に祟りなしとか言ってなかった?」
『ま、まあそうなんですが、目的は達成できずじまいで、原因も気になりますから……』
「それでいいのか……」
「まあ私も気になるしね、行こっか」
「ここがよくないかも」「ここが面白いかも」などのご感想等あれば頂けると幸いです