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ホワイトポーション

 それから、わたしはポーションを沢山作り上げていった。もっと精度を上げる為だった。今のままでも十分に美味しいけれど、まだまだ練度は上げられる。

 今まで“くそまず”と言われた分を超えるように徹底的に美味しいものにしてやるんだからッ。


 ロス様のアドバイスもいただき、わたしはどんどん上達していった。



 期限の三日後には『ホワイトポーション』が完成してしまった。それはロス様も認めてくださった究極のポーション。


「ついに完成したね、フラビア」

「はい、ここまで大変でした」


 両手に肉刺(まめ)ができるほど努力した。これできっとお父様も納得するはず。いえ、絶対に納得させる。


 ホワイトポーションをそっと鞄に入れて、わたしはロス様と共に、お父様のいるお屋敷を目指した。


 少し距離があるので、馬車で向かった。


 どんどん距離が近づくにつれ、わたしは不安に襲われた。大丈夫、かな。


 視線を落としていると、ロス様が手を重ねてくださった。



「フラビア、君のポーションはもう僕の技術を遥に凌駕(りょうが)している。君は最高の錬金術師だよ」

「そんな、わたしなんてまだまだ……」


 誇っていいとロス様は、笑顔を向けてくれた。その笑顔にわたしは救われ、不安も取り除かれていた。

 お屋敷に到着して、お父様の元へ向かった。


 お父様は面倒臭そうな顔をして“どうせ不味いポーションを持って来たのだろう”と、そんな表情をして出迎えてくれた。


 今に見てなさい、お父様。


 わたしは一歩前へ出て、ポーションを大切に取り出して両手に乗せた。



「あれから三日が経過した。たった三日だったが、ポーションをマシなものに変える時間くらいはあったはず。果たして、フラビア、お前の作ったというこのポーションは美味くできているのかな」


 半信半疑――いえ、それ以下の期待しかなさそうな口ぶり。それもそうね、今まで散々、わたしの“くそまずポーション”を口にしてきたのだから、期待なんてないはず。でも、今日はもう違う。


 わたしは、自信を持って飲ませられる。



「どうぞ、お父様」

「あ、ああ……」



 お父様は、渋々ポーションの蓋を開けた。まずはニオイ。くんくんと嗅覚を利かせてポーションのニオイをチェック。



「いかがですか?」

「な、なんだこれは! イイ香りではないか! まるで高級な紅茶を思わせる優雅な香りだ」


「では、飲んで下さい」


 意外なニオイに驚きを隠せないお父様。そして、ついに口をつけて一滴飲んだ。これで今後の未来が決まる。でも、大丈夫。絶対に言わせてやる。あの言葉を!


 直後、お父様は涙をボロボロ流していた。


「……おっ」

「お?」


「美味しい!! 美味いっ! 美味すぎる!! なんだこのホワイトポーション!! あまりの美味さに涙を流してしまった!! フラビア、お前は天才だ!!」


 やった!!

 とうとうお父様が“美味しい”と言ってくださった。わたしを認めてくれたんだ。やった、やった、本当に嬉しい。


 お父様は最後までポーションを飲み干した。そして、これは『帝国にも認められるポーション』だと断言さえしてくれた。


 わたしは、その言葉を待っていた。



「良かった。これでわたしの疑いは晴れましたね」

「あ、ああ……すまなかった、フラビア。娘を疑う方がどうかしていた。それに、コリンナが逮捕されたとも聞いたよ。あの子が放火したんだな」


 そう。わたしは彼女に騙されて材料を偽造されてた。お店だって火をつけられて失ったんだ。それが真実だった。


 これをお父様に認めさせただけでも、わたしは満足感があった。これでやっと前へ進めるけど、まだひとつだけ問題が残っていた。



「お父様、あとはイグナティウスです」

「あ、ああ、それなんだが」



 焦るお父様。いったい、どうしたのかなと首を傾げていると、部屋の隅から、イグナティウスが姿を現した。意外な人物の登場に、わたしはドキッとした。どうして、彼がこの屋敷にいるの!



「ひ、久しぶりだね、フラビア」

「なぜ、お屋敷に」


「実は、コリンナのことを聞いたんだよ。お店が大変だったそうだね。それに、材料も不味いものに変えられていたと聞いた。それは不運だったな」


「それで、どうするつもりです?」


「まずは、君のポーションが本当に美味しくなったか確認にしたい、貰っても?」



 わたしは、うなずいてホワイトポーションを手渡した。そして、彼はゆっくりと口へつけ飲み始めた。


「いかがですか」

「う、うまい……! こんなに美味くなっていたとは!」

「そう、その言葉を耳にできて清々しました」


 もう彼に未練はない。

 もう婚約破棄だってしてるし、関係のない男。わたしはもう捨てられた存在。だから、彼が今更ポーションを認めようとも元の関係に戻るつもりはなかった。



「す、すまなかった、フラビア。やり直さないか」

「イグナティウス、残念ですけど、わたしには好きな人がいるんです。この人です」


 ロス様を紹介した。

 彼は、ヘリオドール聖界諸侯だから立場もイグナティウスよりも当然上。意見するなど出来るわけがなかった。


 けれど、イグナティウスは食い下がった。


「ロ、ロスだと! お前、俺の女を取る気か!!」


「イグナティウス、久しぶりだね。悪いけどフラビアは、君のものでもないよ。彼女には自由意思がある。決めるのはフラビアだ」


 そう冷たく言い放つロス様。

 イグナティウスは激昂し、いきなり殴りかかった。けれど、ロス様は華麗に避けた。凄い綺麗な動き。


「くそっ、避けるな!」

「諦めろ、イグナティウス。君は、フラビアに婚約破棄を突き付けた。この事実はもう変えられないよ。それに、彼女は僕と一緒にいたいようだし、僕もそれを望んでいるんだ」

「貴様ぁ!!」


 また殴りかかるイグナティウスだったけれど、ロス様はポーション瓶を握り潰して魔法を付与した。あ、あれは……身体能力を極端にアップさせる『バーサークポーション』だ。

 身体への負担は物凄いけど、一時的に常人の三倍の力を得るという秘薬ポーション。あまりに強い力を発揮できるから、その値段も高価であると同時に、作れる錬金術師も限られていた。


「これで最後だ、イグナティウス!」


 ロス様は、あっさりイグナティウスの背後を取り、彼の首へ手刀を入れた。ドンっと鈍い音が響いて、イグナティウスは白目を剥いて気絶した。



「……かはっ」



 パタッと倒れてしまった。

 何事かと衛兵が駆けつけてきたけど、ロス様は、ヘリオドール聖界諸侯の権限でイグナティウスを連行した。



「お待たせ、フラビア」

「はい、ロス様。わたしたちのお店へ帰りましょう」

「ああ、だけど君のお父様に挨拶をしたい」


 呆然と立ち尽くすお父様に対し、ロス様は丁寧に挨拶をした。これから、わたしと共にお店を経営していくということ。

 婚約を交わしたことを報告した。

 そう、わたしとロス様は婚約した。


 今日、このお屋敷に来る前に。


 だからもう、わたしは何があろうともロス様と共に暮らすと心に決めていた。



「お父様、わたしは行きます」

「フ、フラビア……だが」

「わたしはもう、ロス様なしでは生きていけない。彼を愛しているんです」

「そ、そうか。分かった……私は今までお前に厳しくしすぎていた。すまなかったな」


 お父様と別れ、お屋敷を出た。

 玄関を出たところで、ロス様はわたしの手を優しく握ってくれた。


「フラビア、改めて僕と一緒にいて欲しい」

「はい、喜んで」


 まずいポーションしか作れなかったわたしだったけれど、今は最高のポーションを作れるようになったし、最高の錬金術師が傍にいてくれた。

 これ以上の幸せはない。


 わたしは、これからもポーションを作り続ける。美味しいポーションを――。

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