ポーションの試練
衛兵によって火は消し止められた。
異常を察知したお父様も駆けつけてきて、わたしを心配してくれた。
「フラビア、怪我はないか! 大丈夫か?」
「は、はい……幸いにも外にいたので。それより、これは放火です! コリンナが犯人なんです」
「コリンナ? あの伯爵令嬢のコリンナか。だが、彼女は歩くこともままならないほど病弱だと聞いたが」
嘘だ! それは真っ赤の嘘。
わたしの前では普通に動いている。
……あぁ、そうか。
思えば、イグナティウスを振り向かせる為の策略。今回の放火も、自分が犯人ではないとバレない自信があるからこそ、わざわざ、わたしの目の前に姿を出したんだ。
でも、そうはさせない。
「お父様、コリンナは嘘つきなんです! イグナティウスを騙し、わたしを騙し、お父様さえ騙そうとしているんです」
「……まったく、フラビアは何を言っているんだ」
「え」
「あのコリンナが人を騙すとか、そんな子には見えない。それに言ったろう、彼女は足が不自由なのだと。そんな可哀想な子を貶めるとは、フラビア……お前には失望したぞ」
そ、そんな……お父様まで騙されて。コリンナ、ここまで想定していたというの。だとしたら、わたしは……わたしは。
この次にはきっと、わたしは全てを失う。それはだけは嫌。
「お、お父様。お願いですから信じてください」
「なら、錬金術師としての務めを果たすのだ」
「えっ……」
「ポーションだ。この帝国に認められるほどのポーションを作るのだ。それが出来れば、お前の言葉を全て信じよう。期限は三日後の朝まで! いいな!」
「え、え……ええッ!!」
ま、またポーションを作らなきゃいけないの? しかも、お店も燃えちゃって道具とか設備がないのに、どうやって作れっていうの。
でも……お父様を信じさせるには、この試練を乗り越えるしかない。
「どうする、やるのか……やらないのか?」
「や、やります! やりますよ、お父様。美味しいポーションを作ればいいのでしょう!?」
「美味しいだけではない。ポーションの回復能力や回復速度が重要なのだぞ。成分や配合をひとつでも間違えれば“くそまず”となる。
いいか、もう一度言うぞ、フラビア。帝国に認められるようなポーションを作るのだ。それが出来ねば家を出て行ってもらう!」
それだけ言い残し、お父様は去っていく。
あまりにキツイ試練だ。
帝国に認められるようなポーションなんて高レベルの錬金術師でも難しいと言われている。けれど、生き残る道は、それしかない。
でもいい、わたしは諦めたくない。
あのイグナティウスに一泡吹かせたいし、嘘つきのコリンナにもギャフンと言わせたい。絶対に、絶対に……!