婚約破棄とくそまずポーション
「ぐぁ! まず! このポーションは、泥のように不味すぎるよ、フラビア……! もういい、婚約破棄だ!!」
一週間必死にポーションを作って、なんとか上手くいったものを試飲してもらったけれど、イグナティウスはポーションを吐き捨て、瓶を地面へ投げ捨てた。
「そ、そんな……必死にがんばったのに」
「うるさい、黙れ! こんな“くそまずポーション”はこうしてやるッ!」
怒り狂った彼は、わたしの目の前でポーションの残骸を足で踏み、侮辱した。
「なにがいけないんですか?」
「味も匂いも、何もかもダメだ! これなら、子供か町娘の作ったポーションの方がマシだ。フラビア、お前のポーションは絶望的にまずい。こんなものは人間が飲むものではない。農地の肥料にでも使え!」
ギッとわたしを睨み、彼は庭から立ち去ろうとする。でも、わたしは止めた。
「ま、待って下さい! もう一度チャンスを……」
「残念だが、チャンスを与えるに値しない。お前のポーションそれだけ“くそまず”だったのだ。もういい、俺の前から消えてくれ! その顔を二度と見せるなッ!!」
憤慨して彼は去っていった。
……わたしは、何もかもを失った。
たった一本のポーションで。
*
カーネリアン宮中伯のお屋敷を出て、わたしは自分のお店へ戻った。誕生日祝いにお父様に作っていただいた大切なお店。
でも、まずいポーションしか作れないし……もうおしまいね。
両手両膝を地面につけて絶望していると、焦げ臭いニオイが漂っていた。……え、わたしのお店の方から? ボヤ?
「うそ……まさか」
一気に火の手があがった。
お店が……燃えている。
うそ、うそ、うそ……!
信じられなかった。
火の気配なんて全くなかったというのに、どうして。……あれ、一瞬見覚えのある顔が通り過ぎた。あれはイグナティウスを慕っていた伯爵令嬢のコリンナ!
ま、まさか彼女がわたしのお店に放火を?
彼女はわざわざ、わたしの目の前に立ち邪悪に笑った。
「フラビア、あなたってばイグナティウス様に振られてしまったようね! しかも、自慢のお店も燃えちゃって……あはは! いい気味ね!」
「ちょっと待って下さい。どうして、わたしのお店の前にいたんですか!?」
「偶然よ、ぐ・う・ぜ・ん!」
嘘だ。コリンナの手は煤で汚れていた。何かで燃やしたんだ。許せない……! 掴みかかろうとすると、彼女は軽快に避けて逃げていく。
「ちょ! コリンナ!」
「お間抜けさんは、もうイグナティウス様に近づかないことね!」
追い駆けようにも、コリンナはどんどん先へ行ってしまった。逃げ足の速い……。これでは、捕まえられない。
……あぁ、もうお店もなくなっちゃった。婚約破棄させられ、お店さえ失ってしまった。もう、わたしはどうしたいいの……。