ずっと昔の回想【彼女と僕と河川敷】②
手を離すと、ばっと顔を上げ、目を丸くして言った。
『ほんとに⁉ うーちゃん、帰ってくるの?』
笑顔だった。
僕が大好きな、花が咲くような、笑顔だった。
『う、うん……、もちろんだよ。 そのハンカチはめちゃくちゃ大事だから、絶対なくさないでね!』
嘘だ。
どうでもいい、お母さんに無理矢理持たされた安いハンカチ。
だけど、真っ白い歯を見せ笑う彼女は、まるで、この世で一番の宝物を授かったようで。
愛おしそうにハンカチを見つめ、ぱっと笑顔になる。
『約束だよ、うーちゃん。ぜったい帰ってきてね!』
バンザイをするように手を大きく振り上げ『ぜったい約束』と、顔をくしゃくしゃにする彼女の笑顔。
その顔が見たくて。
でも、どこか申し訳なくて。
お別れの言葉とか、感謝の言葉とか。
言うべきことはいっぱいあったはずなのに、口が縫い付けられたように開かなくなっていた。
だから僕は。
僕は、サヨナラとか、アリガトウの代わりに、小指を差し出した。
『ほら———ちゃん。指切りげんまんしよう!』
『うんっ、する!』
短い小指が『ぜったい約束』の形になっていく。
僕がついた小さな嘘を『ぜったい』にするための、ささやかな約束。
———吐く息が、小さく震えた。
鼻の奥はツンとしたままで、力一杯、眉根を寄せる。
心臓が握りつぶされたように苦しくて、苦しくて、苦しくて。
やっぱり、
すごく、
苦しくて……。
続きを歌えずに俯く僕に、女の子は鈴を転がしたような晴れ渡る声で言った。
『あたしね、うーちゃんが帰ってきたら、いっぱいいっぱい、いーっぱい照る照る坊主を作るんだあ。そしたら、そしたらね、うーちゃん———……』
彼女の言葉の終わりを待たずして、僕は、泣いた。
恰好悪いぐらい声を上げて、わんわん泣いた。
ぽろぽろ涙を零して、わんわん泣いた。
自分でも笑っちゃうぐらい自然と涙が出て、こんなにも溜まっていたんだと思った。
恥ずかしくて格好悪かったけど、それでも涙は止まらない。