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飼育部!!  作者: 掃晴娘。
ずっと昔の回想【彼女と僕と河川敷】
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ずっと昔の回想【彼女と僕の河川敷】①

あほな話を描いてみたくなり執筆しました。

ネタ満載なので、楽しんでもらえればうれしいです。

 僕が“彼女”と出会い、そして分かれてしまった世界は、どちらも蝉が忙しく鳴いていた夏の河川敷だった。

 確か、黄昏時の、蒸し暑い日。

 山の稜線が燃えるような夕日に照らされいて、その隙間から差し込むオレンジ色が、穏やかに流れる川の水面を優しく染め上げていた。

 ぼうっと景色を眺めていると、彼女の弱弱しい涙声が震えた。

『もう、お別れなの?』

後ろを振り向く。

『うん……ごめんね。ぼく、とおくにひっこさなきゃならないんだ』

 顔を俯かせ、淡いピンクのスカートを、ぎゅうっと握りしめていた。

『会いに行っても、いい?』

 上目遣いに僕を見上げた彼女は。眉を八の字に下げ、訊ねた。

『また、うーちゃんに会いに行っても、いい?』

『すごくとおいから、———ちゃんは来れないよ』

『そんなにとおいの?』

『うん、とおいよ』

 きっとね、と申し訳なさそうに答えると、泣きそうな顔が、さらにくしゃっと歪む。

 この顔が、僕はなぜがひどく苦手で、この子にはいつも笑っていてほしかった。それなのに、今、大好きな女の子を僕が悲しませている。

 つぶらな瞳から、この子には不釣り合いな大きな涙が雫となり、ぽろぽろと零れた。

 悲しい思いが、彼女の目から溢れ出すたびに、僕の胸も締め付けられるような痛みに襲われた。

 なんだこれ……。

 すごく苦しい。

 鼻の奥が、ツンとした。

 次第に息苦しくなってきて、僕もズボンをぎゅうっと握りしめた。

 すると、掌に何かをつかむ感触が伝わった。

 その時、いいことを思いついた。

『じゃあさ、———ちゃん、こうしよ?』

 喉をひっくひっくと鳴らす小さな女の子に、内緒話をするように囁く。

『なあに?』

『ぼくね、必ず帰ってくるから、ちょっと待っててね。それでね……』

 いつになるのか、そもそもこの街に帰ってくるのかさえ分からなかった。

 だけど、目の前で震えている彼女を笑顔にさせる方法もまた、分からなかった。

 だから———

 だから、小さな嘘をついた。

 ポケットに手を入れる。

『それでね、このハンカチを預かってて? 帰ってきたら返してもらうからさ』

 しわくちゃな水玉模様のハンカチを取り出し、涙でびしょびしょになった顔に押し付ける。

『ほ、ほんふぉに? ふぉんほにふぁえっへふるの?』

『ははっ! 何言ってるかわかんないよ!』


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