【もう1回】逆ハー部屋担当侍女の日常
第3弾です。
今回も魔術師がすぐ侍女を頼る、
侍女の前世は男3人育てた母ということだけ頭におけば前作を読まなくても大丈夫です。
2022.6/27 不揃いなところを揃えて、文章も一部分変更しましたが、内容は変わっていません
王太子は正統派だけど自分本位
団長息子は体力馬鹿で果てがない
宰相息子はドSの鬼畜
大司教息子は道具大好きの変態
魔術師様は……箸休め?
私は彼らを分かりやすく説明するなら……とずっと考えているがこれ以上はコンパクトに出来そうにない
そんなことをつらつらと考えている現在、目の前ではあわや刃傷沙汰!?をギリギリで回避した後の茶番劇が繰り広げられている。
「ああ! 君の前では僕はただの愚かな下僕でしかない! だが君を傷つける者を許す訳にはいかないのだ」
「ああ……殿下! そのような事を仰られてはなりません! 彼らも反省しております。ワタクシは大丈夫ですから彼らを許して差し上げて!」
「ああ! なんと慈愛に満ちた言葉……!! だが罪は裁かなければならない。何があったか教えておくれ!!」
「もういいのです! 至らないワタクシが悪いのです!!」
――ローズちゃん、バレたくなくて必死か
ローズちゃんを表すなら性に奔放の一言に尽きる。
あとKY、鈍感魔王、無自覚風だけど計算高い
あ、一言じゃ尽きなかったわ
この茶番劇、王太子の目を盗んで宰相息子と大司教息子の鬼畜コンビをローズちゃんが誘ったのが事の発端。
もう一度言う。ローズちゃんが、鬼畜コンビを誘ったのが発端。間違えないように。
ローズちゃんは彼らの真の実力(鬼畜さ)を見誤っていたため返り討ちに遭い、耐えきれずほぼ裸の格好のまま部屋から飛び出し、廊下の真ん中で王太子の名を叫んだ。
それがこの茶番劇に繋がる。
私は鬼畜コンビを守るふりして部屋に戻し証拠隠滅を指示。手早く現状回復してもらい一安心。
茶番劇はまだ続いている。
「ワタクシは抵抗したのですが、力の強い男性相手なので……」ワッと泣くローズちゃん。
――はいアウト。お母さん、人の為につくウソは好きだけど、人を不幸にするウソは嫌いだな。
……あ、このセリフ、前世で次男を説教した時に自分でも名言でた!って思ったやつだ……こんなスッカスカのセリフをまだ覚えてるあたり中身のない人生だったなぁ……
「そうだったのか」
先程の茶番演技はどこにいったというくらい、王太子の声はすでに落ち着いている。
――えっ!? ここはもっと鬼畜コンビにキレるとこじゃないの?
「あいつらはローズが抵抗したのをそういう趣向かと勘違いしたのかもな。私も無粋な真似をしてしまった」と王太子は笑う。
――そっちにとって笑う? 王太子、器でかい……
あっ! まさか最初から全てをわかっていてのパフォーマンス!?
(それはナイか、さすがに)
逆ハーだけど主導権は王太子にある。ハーレムの存続も彼の心次第。
今回の件は確信犯だ。王太子抜きだからこそ、王太子のいる夜にはできないことをしようとしていた。これが王太子にバレるとヤバイ。ハーレム解散の危機だよ、ローズちゃん。穴だらけの言い訳だけど頑張れ。
――茶番劇も終わりそうだし仕事に戻るか。 いつも以上にくだらない事に気を回したから疲れたな……
「また兄が世話をかけた」
いつのまにか真横に第2王子がいた。
――見ない間に大きくなったなぁ……
私が遠方に住む甥っ子を見るように眺めていると、彼はほぼ騒ぎが収まった場を見渡し、嫌がる王太子を回収すると、流れるように去って行った。
――第2王子は温厚で争い事は好まないらしいけど怪しいな……クーデターとかやらかしそう。
王太子は大穴かと思いきや、やっぱりバカな子ほど可愛い派が増えてオッズが下がるかもなぁ……
結局、王太子が剣を抜いた事が問題となり、ハーレム部屋は1週間立ち入り禁止、当事者は3日間の自宅謹慎となった。
「大変だったな」
私が洗濯する横で、体育座りで桶を眺めている魔術師様。
――絶対なんか頼みに来たよこれ。私は青いロボットじゃないから、いつも頼みを聞くわけじゃないよ?
「私は大変ではありませんが……魔術師様はローズ様と会えなくて寂しいのでは?」
「うん、それは仕方ない。謹慎中だからな。それより君も時間が空くだろう?だから……」
*****
「ご厚意はありがたいのですが、わたくしにとってはもう忘れたいことなのです。謝罪は不要です」
目の前でバンッと音を立てて扉が閉じられた。
――だよね〜ありえないよね〜
「すまない」
背後から、か細い謝罪の声。
いま私が相手をしていたのは魔術師様の元婚約者。高らかに婚約破棄した相手だ。
なんでも、もうすぐ隣国に嫁ぐことになったそう。魔術師様のお願いは、謝罪もこめて、渡せなかったイヤリングを渡してほしいと……
――私も当然速攻で断ったよ? でもお母さん、泣く子には勝てないんだよ昔から。
「でも元気そうだった」
魔術師様は満足げな表情。
――せっかくの幸せ気分に水を差したけどね。
「さすがに魔術師様の瞳の色のイヤリングはつけられませんよ」
「欲しがっていたから渡すつもりだったのだが……」
――元婚約者様、汚点は忘れて隣国でお幸せに。
「理由はどうあれ、真実の愛を見つけられたのですから、他の女性に宝石を贈るなどもってのほかですからね。ローズ様がお気を悪くしますよ」
「……彼女がいらないなら、ローズに渡すつもりだったがダメか?」
「……名前入りでなければ良いのでは」
わざわざ馬車を借りて、元婚約者の顔を見て怒られただけの午後だった。
くだらないもここに極まれりだ。
――ここまでくだらない日は人生初だわ
帰りの馬車では魔術師様はすぐ寝てしまった。気を張って疲れたらしい。
――それ、私のセリフだよね?
恨めしく思い当人を見れば口を開けて寝ている。
――ああ、でも寝てる子はみんなかわいい。癒しだ。
私は前世の我が子も思い出しながら、今日の夜は初めてゆっくり寝られるなぁとやっとひと息ついた。