お嬢様はxxxXを八つ裂きにしたい
【お嬢様はxxxXを八つ裂きにしたい】
《崩界》という場所に日々迷い込む少年ケンジ。
その場所は彼の記憶と認知によって形成される。
彼を襲う化け物も、彼の恐怖のイメージから形を与えられ、
彼が駆ける街並みも、通学路を起点にして歪んだものだ。
崩界が形成するのは、主となる者の全てから。
他者が直に崩界へ干渉することは出来ない。
基本的には、だ。
「……」
長い銀髪の少女。
ケンジを襲う異形の群れを、他に人が誰もいないマンションのベランダから眺めている。
『数は31匹。タギリマスゼ。ジークお嬢様』
耳元に囁くのは、金髪の侍女。
『何モードで行きますか?』
言動が不安定なそのシルエットは、お嬢様と呼ぶ銀髪の少女に絡みついた。
「八つ裂き」
『たまには弾丸をぶち込みたいんですがねえ』
蒼い蒼い炎が、マンションのベランダから、燃え上がり、群れへと、延びる。
その軌道に、銀髪の令嬢と白銀の刀剣が飛び乗る。
******
転校生の名前は『チヒロ』
黒く長い髪は丁寧に手入れされていて、空いている席へと向かう際に香る甘い匂いが、
生徒たちの、彼女への意識をより強いものにさせた。
------あの女に違いない。
ケンジは確信があった。
化け物に追いかけられる世界で出会った、刀を持ったドレスの女。
髪の色は違えど、輪郭、目つき、背丈。
口元はマスクで分からないが様々な部分が一致している。
------デカい、よな……。
健全な少年のイメージが緋色に染まっていくのを遮るように、
次の授業の鐘が鳴った。
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ケンジの崩界
『獣の屍-ビストグル、攻撃力は1800』
メイドの解説とともに、一閃。
獣の首を切り、べちゃりと落ちたそれを、ジークはぐぐぐぐっと、踏みつぶす。
燃え上がる肉塊はゆっくりと融解し、靴底が地に着いた。
最初の獲物の声に、振り向く、ケンジが心に秘めた恐怖の姿達。
新しい人間、安直な考えから、涎を垂らし始める。
笑う獣は、恐怖の貌と変わる。
『ぎゃははははっはははははっはははっはははははっはは』
ジークの握る銀色の剣先が嗤う。
深紅の血に染まりながら、裂き続けた。
ビシュツ。
断面からゆっくりと血が溢れるものや、血管をなぞられ激しく吹き出し、消えていくもの。
鮮やかな血の惨劇を、蒼い炎によって打ち消す。
悲鳴が、荒れる炎の豪音にのまれる最中、
とどめを刺した異形の血を、白銀の髪の彼女は平然と浴びた。
22日ぶりのエイプリルフールです