刀剣少女は同級生の耳を舐める
2021年4月1日
エイプリルフールのネタで始まりました。
舐められる男と銀髪令嬢
刀剣少女は同級生の耳を舐める
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年頃の男子と女子が、二人きり。
他に誰もいない校舎、誰もいない室内。
「ケンジ。お願いがあります」
辺りには、刃物が突き刺さる化け物のよくわからない肉片と、血に染まる床。
今もわずかにヒクヒクと動いている。
「舐めてもいいですか?」
「……」
間近でケンジという少年の頬を見つめる女。
細い指先と、美しく長い髪の先は、どす黒い血で濡れている。
「ふふふ、放っておくと、呪われてしまうかも」
鼻息が小さいが、荒い。
誰の息か、
それは静かな目を潤ませる彼女だけではない。
辺りの腐臭を紛らわす煙臭を一瞬忘れるほどの女の子のシャンプーの残り香を嗅いでしまう彼もまた、深いため息が出そうになった。
「抵抗しないのですね」
目を細める少女の銀色の髪が、ケンジという少年の無地の制服に着いた時には、
ザラザラした生温い舌が、下から上へと頬を舐めた。
「ああ、耳たぶの方にも、ついてますわね」
囁かれるケンジは、目を見開いた。
普段から友人以外と口を開かない彼も、わずかに唇が動いて……。
呼吸が2秒止まった時には、
柔らかく温かい風が吹いた。
*****
爆音を奏でるイヤホンで、耳元を塞ぐ少年は部活帰り、
ゲームセンターに立ち寄る。
その三階にあるテーブル席に腰かけ、知り合いを待つ。
15分ぐらいして、清潔感のある坊主頭の同級生がやってきた。
イヤホンを外し、鞄から取り出されるケース。
トレーディングカードをシャッフルし対戦を始める。
流行りの音楽が流れる中、軽快なやり取りと、細かい計算。
決着、白黒はつかず、時間がやって来る。
「来週、転校生がくるらしいぞ」
来週は始業式。進級と合わせてくるのだろうか。
「へー」
「めっちゃかわいいらしい」
「……」
興味ない顔をしているが、同級生がかわいいらしいと言っているのだから、
僅かな期待があった。
どんな人なのか、当日になれば分かることだと、考えをまとめ。
マッチバトルによって入れ替わったカードを元の並びに戻し、ケースにしまう。
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少年の名は【ケンジ】
繰り返す進学進級、高校一年を終え、
春休みをバスケットボール部とカードゲームで一日を消費していた。
その二日目の夕刻、重い鞄を背負いながら、彼はある存在から逃げていた。
「……、……、はぁ。ぜぇ……」
誰もいない広場、階段の手すりを足で滑り、跳躍。
パイプから、室外機へと、上昇していく。
身体が軽い。だが、息は荒い。
『鬼ごっこはおしまい』
『おまえの心臓、くれよ?』
「…………」
無理に決まっているだろと、彼はそう言いたげに睨んだ。
周囲には、獣。
犬や狼、鳥を歪めたような異形がケンジを狙っている。
一匹が、彼に襲い掛かる。
パスされるボールをキャッチするように、その顎をがっしりとつかみ、
ケンジは投げ飛ばした。
汚物をつかんだような不気味な柔らかさを我慢し、逃げ道を探す。
今の身体の軽さならば、隣のビルへも移れるはずだと考え、
向かい側へと歩き始めた。
------まだ、死ぬわけにはいかん。
瞬間、屋上は青く燃え上がった。
透き通る青空のような炎が、獣の肉を焼いていく。
驚くも、チャンスだと冷静になって、
助走をつけ、1メートルもない隣の屋上へと、彼は跳んだ。
「!?」
勢いあまり、着地した瞬間、躓き転がる。
「……イっ」
痛む身体を起こすと、既に、炎は無くなっていて。
彼が先ほどまでいたいた隣の屋上には、
長い銀の髪が印象的な、長い刃物を持った女がいた。
ケンジの方へと振り向く。
その返り血でも隠せない美しい輪郭と眼差しを彼は忘れなかった。
二人が再開するのは、同級生がいった通り、一週間後だろう。
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続きは気が向いたら書きます。