62.光魔法は無敵
綺麗であるのが一番大切だろうに。
そして、まだまだこの魔法の本領は発揮されていない。
私が日々妄想に妄想を重ねた光魔法……その神髄はここからである!
「ふっふっふ、ここからが本番ですよ」
「なにっ!?」
「さあ、これがこの魔法の正体です!」
私の宣言を合図に頭上で輝く光球はやがて形を変え、光り輝くティアラの姿に変身する。
そして光り輝くティアラは私の頭に装着されると、その光は私の全身を包み込み、やがて現れるのは光の布で作られた煌めくドレス!
で、できた! これが私の妄想の結実! 光魔法による変身!
これがセピア・ミーティアムの光魔法ショーの第一弾だ!
「どうです! 感動したでしょう!」
「…………それで、何か変わるのか」
我ながら超すごい魔法を使ったのだが、マリジアの反応は非常に鈍い。
というか、何もかも変わっているだろうに!
「え? 見た目が姫姫しているでしょう!?」
「いや、戦闘力的な面がだな……」
「そういう目的はないですね」
「………………もういい、貴女を倒す!!!!!!」
癒しを与えるはずの光魔法で、何故かマリジアは怒り心頭に発している。
ば、馬鹿な……これで見惚れている隙に勝つ予定だったのに。
『計画が雑魚すぎるよ!』
だが、まだこのドレスにも機能はある。
ドレスから光の玉を放てるのである。
「光弾!」
「だからそんなものなんの意味も──グウッ!」
適当に放った光弾を無視するように突撃してくるマリジアだが、そこにダメージ判定があるとは思いもしなかったのか、激突した瞬間、足を止める。
そう、見た目は綺麗になったが……まだダメージは健在なのである。
そしてこれで分かったが、やはりマリジアの観察は不十分であり、同時にそれは彼女の問題を示していた。
「やはり、マリジアは私のこの魔法は観察していなかったようですね」
「ひ、光魔法なんて戦闘には何も……」
「その考え方そのものが、貴女が病んでいる証拠ですよ。普段の貴女なら見逃すはずのないものです」
「でも、こんな魔法を真似るなんて、そんなのはもうゼノビア様じゃない!」
もはや私らしくも何ともない口調で声を荒げるマリジアは、その姿がゼノビアなだけに非常にシュールである。
光魔法を使うのは私らしくないと言われても、困ってしまうな。
どうやら、彼女は私を、ゼノビアを力の象徴のように扱っているらしい。
うん、ただ倒すだけでは彼女は同じようなことを繰り返しかねないな。
だったら、もう荒治療しかないだろう。
「マリジア、これから貴女を抱きしめます。そしたらこの戦いは終わりということにしてください」
「は、はい!?」
驚く彼女に向かって両手を広げて一歩踏み出す。
「いいですか、行きますよ」
そしてドレスを纏ったままに私はゆっくりと歩き始める。
最初か戸惑っていた彼女だが、すぐに覇気を取り戻すとこちらを睨み、剣を構えた。
「わ、私は無防備な相手にでも剣を振るえるからな!」
「そんな忠告をしてないで、早くしてくださいな」
「──いいだろう、喰らえ!」
少し躊躇するように放たれた『魔剣魔法・終焉の赫』は先ほどと同じ赤い煌めきでこちらに襲い掛かって来る。
しかし、もう避けたいはしない。
今、私はドレスを着ているのだから。
魔法は私に直撃するが……ドレスは欠けたりはしなかった。
『す、すごい! このドレス硬いんだね!』
いや、硬いのではなく修復速度が速いのである。
要するに壊れた端から直っているのだが、問題点としては、別にこちらの防御にはならないということである。
そんなわけで今、普通に頭から血を流している。
『えええええええええええ!?』
「えええええええええええええ!?」
普通に出血しつつ歩く私の姿にレイヴと、そしてキャラを忘れたマリジアが大驚愕していた。
ちなみに血の温度は体温と同じだから、自分ではいまいち血が流れているかどうか分かりにくかったりするぞ。
『そんな豆知識言ってる場合!?』
なぁにこの程度の怪我はかすり傷だ。




