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61.光魔法は素敵


 マリジアの考えの最も受け入れられない部分。

 それは彼女がゼノビアそのものになろうとしている点に尽きる。

 変身魔法を得意としているが故に思考もそれに寄っているのだろうが……しかし、私になる必要など欠片も存在しないのである。

 私はマリジアにはマリジアになって欲しい。

 

「その可憐だとか淑女だとか、とてもゼノビア様のお言葉だとは思えません! 何故そんなものに傾倒するのですか!」

「そんなもの呼ばわりは心外だが……君も知っているはずだろう。私はモテたいんだ」

「ぜ、ゼノビア様がそんな軽薄なことを言うわけありません!」

「おや、変身魔法の使い手らしくない言葉だな。事実だけを受け入れ、粛々と変身するのではないのか?」


 少し様子がおかしいとは思っていたが、やはり彼女はいつもの彼女ではない。

 私という存在を、ゼノビアを重要視しすぎているのだ。

 そしてその幻想に取り憑かれている。良くない事だ。


「ですがあまりにも……!」

「私はな、誰かを、何かを傷つけるばかりの存在ではなく、癒せる存在になりたいんだ。回復魔法という意味ではなく、心を癒す意味でな。今はセピア・ミーティアムという身分だがいずれはゼノビアとしても、誰からも愛される淑女になりたい……それが夢なんだ」

「…………」

「そしてあわよくばモテたい。モテ散らかしたい」

「もー! そういうところですよー! 全く分かりません!!!!!」


 どういうところなのか分からないが、どうやら完全に怒らせてしまったらしく、マリジアは剣を──ダーインスを構える。

 交渉決裂らしい……であれば戦わなければならないのが古代から続く生物の不幸なところである。

 

「私がゼノビア様を上回った証拠を見せれば、ゼノビア様も納得せざるを得ないはずです」


 そう言いながらマリジアの体は怪しげな白煙に包まれていき……煙が晴れた時、そこには私が、いや、ゼノビアが堂々たる佇まいで存在していた。

 まるで本当に私の中からゼノビアが出てきてしまったかのような光景に、思わず息をのむ。

 いやはや、何度見ても見事なものだ。


「さあ、始めようか」

「口調まで真似るのだな。うーん、少々ややこしいから……私はこちらで対応させてもらいますね」


 こちらもゼノビアらしい態度で行くのは相手の望むところでもあるだろうし、私は普段の、セピアとして話すことにした。


「……これから戦おうというのだぞ」

「私だって戦う時は戦います。儚げでお淑やかな私ですが、淑女たるもの、道を外れた友人を導くのも大事なことですから」


 それに、彼女が怒っているのはセピアとしての私の姿のようなので、セピアの感覚で向き合うのが一番良いだろうとも思った。

 ゼノビアで勝利しても、更に信仰を深めるだけで終わりそうな気もするしな。


「そんな平和ボケした者に負ける私ではない!」


 いよいよ堪忍袋の緒が切れたように、ダーインスを大きく振りかぶるように構えるマリジア。

 あれがレイヴと同じならば放つのは当然、魔力の大放出、所謂ビームだ。

 私も首にかけられたレイヴを手に取ると、レイヴを元の大きさに戻し、同じように振りかぶる。

 そして魔法は放たれた。

 

「「『魔剣魔法・終焉の赫』」」


 2人言葉を揃えて発動された魔剣を触媒とする大魔法の激突は、地面には巨大な地割れを発生させ、雲を見事に割り、そして空気を長らく振動させた。

 赤の奔流を伴う魔力のぶつかり合いは、どうやら全くの互角のようで、打ち消し合ったために互いにダメージはない。

 ダメージはないが、このまま戦いが続くと周囲一帯が終焉を迎えてしまう。


『うーん、本当に魔法の威力は同じかも』


 レイヴの見立てには私も同意見だ。

 内面はともかく、その強さは確かに私に並んでいると見える。


『多分、マリジアも七勇血の1人だと思うな!』


 その謎過ぎる『七勇血』という存在については忘れようと頑張っているのだが、ともかく、マリジアはそれほどまでに強い。

 間違いなく彼女は南方の英雄だ。別に私の姿でなくても……という注釈が必要だが。


 で、あれば、同じ力がぶつかり合っているうちは決着が付かないだろう。

 少なくとも長引くことは間違いなく、そんな悠長に戦っていてはこの地に甚大なダメージが残ってしまう。

 ……やり方を変えるか。


「マリジア、学校が何をする場所か分かりますか」

「学ぶところだろう?」

「その通りですが、加えて、成長するところだと言って欲しいですね。私もこの1か月、ただモテモテを意識していただけの不埒な淑女ではないのですよ!」


 そう、私も1人の学生として、学び、競い、そして成長してきたのだ。

 その成果を今、彼女に見せるとしよう。


「これが私の学生生活の成果です! 『光魔法・煌めきときめき』!」


 魔力を練り、私の手から放たれた巨大な光の玉は、綺麗な白色の輝きを放ちながら私の頭上に停止する。

 おーーーーーーーーー! 成功した! 成功したぞ!!!!

 うん、ちゃんと白い! すごい! かっこいい!


「どうです! 綺麗でしょう!」

「綺麗なのはいいが、それでどうなるんだ」

「?」

「なんでそこで困惑するんだ!」


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