59.失った唯一の友
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衝撃的ひらめきから翌日、魔闘大会1年の部門は今日で2日目、決闘場ではきっと今頃、にぎやかに決勝戦が行われていることだろう。
準決勝にはアスクとケットルが勝ち上がっていたので、決勝では二人の戦いが見れるかもしれないと思うと、非常に興味をそそられるがそれはさておき。
私はと言えば観客席に収まることなく、それどころか学院の敷地に収まることもなく、学院から少し離れた広大な草原の上を歩いているところだった。
決勝の戦いは気になるのだが、生徒一同が集まっているこの時間帯の方が色々便利なので仕方ない。
そう、マリジアと決着をつけるには、そして戦うには便利だ。
『おー、本当に背後をついて来てるよ』
目的の存在は狙い通りにこちらの後をつけてきている。
偽ゼノビアとして私を観察すると言う使命を持っている為、後を付けないという手は存在しないのだろう。
しかし……よくもまあ、あんなに完璧に変身できるものだ。
元々の面影はゼロである。あの違和感がなければ絶対に分からなかったと言い切れる。
そして広い草原の真ん中まで辿り着いた私の元に、彼女はやってきた。
ひらひらと、パタパタと、彼女は私の指先に舞い降りる。
紹介しよう……彼女こそがマリジア・フォルディナ、この学院でも変身し私を観察していた『変身魔法』のスペシャリスト。
今の姿は──青い小鳥のピーちゃんである。
「マリジア、非常にがっかりしたぞ。希少な動物の友人を失ってしまった」
冷静に考えれば初めからおかしかったのだ。
この私に懐く動物がいるなんて……!!!!!!!!!!
正直滅茶苦茶恨みたい気分である。ピーちゃん様とは唯一仲良く出来るアニマルだと思っていたと言うのに!
『いや、ショックを受けるのそこなの』
そこ以外に何があると言うのか!
本当の本当にこれは悲しい話だぞ!!!!!
理屈としては人間に化けるよりも、動物に化けた方が小回りが利くし、観察していても怪しまれないと言うのは分かるのだが、それでも私は信じたかった……!
小鳥と遊ぶ光景なんてまさに私の理想とする儚げな淑女で最高だったと言うのに、まさか罠だったとはなぁ!
「さすがゼノビア様ですね」
小鳥の口から、冷たい声色の言葉が聞こえてくる。
その無機質な雰囲気は、以前に話したことのあるマリジアの印象と相違ない。
「いえ、私が甘かったと思うべきでしょうか。そばで観察したくて、少し気が急いていたかもしれません」
「確かに観察には入念な注意をはらう君としてはらしくないミスだったな」
「いえいえ、私らしいミスですよ……おバカですから」
そう言いつつマリジアは私の指先から飛び立つと、空中でボフンと煙を吹き出し、ピーちゃんの姿を解除する。
現れたのは私の見知った青髪でほっそりとした矮躯を持つマリジア・フォルディナの姿だ。
ただ、1つだけ慣れ親しんでいない部分もあって、それはその顔に刻まれた大きな傷である。
マリジアは負傷により戦線離脱を余儀なくされたが、あれがその傷なのだろう。
しかし、変身魔法を持つ彼女なら傷なんていかようにも消せそうなものだが。
「どうして傷を残しているのか、そんな顔をしていますね」
「私はそんなに表情に出るタイプだったか」
「ずっと貴女のことを見ていたのですから、それくらいの心情は見抜かなくては……この傷はですね、消せなくなったのです」
傷を撫でながらマリジアは話を続ける。
その口元に綻ぶ笑みは非常に闇を秘めていた。
「傷を受けた時のショックが大きかったのでしょうね。その光景が記憶から離れないので、変身魔法で私の姿を想像しても、この傷も一緒に想起してしまうのです」
「なるほどな……」
魔法は意思の力で行使する。
故にその意思が歪んでしまうと、望んでいない結果も生み出してしまう。
なんとも痛ましい話である……。
「私はこの傷で学びました。魔物に変身している程度では駄目だったのだと。もっともっと強い存在に変身するべきだった」
「君が十分に強かったがな」
「いえいえいえいえ、もっともっともっと強くなければならないのです! あの戦場で最も強い存在にならなければいけなかった!」
マリジアは興奮したように言葉を吐き出したと思えば、急にすっと落ち着きを取り戻し、私の方へ向き直る。
「そして、あの戦場で一番強かったのは、ゼノビア様、貴女でした。だから貴女になろうと思ったのです」
「強さを追い求めた結果が私に行きつくのはものすごーく心外なんだが!?」
可愛い女の子なんだが!?
というか、何度も言うが私は別にあの南方で最強を誇っていたわけではないから!
私より優秀な人材はいっぱいし、あくまで私は派手だっただけだ!
『いやぁ、目立つと大変だね』
私の悪目立ちの原因の九割を占めているであろう剣は、他人事のようにそう呟くのだった。
レイヴがビームとか出すのが目立つ理由だからな?




