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56.非常に真面目な戦い


 決闘は開始直後から激しさを見せていた。

 アスクが『ひれ伏せる魔法』を練習通り連発しているからだ。

 舞台ではその魔弾がまるで横殴りの雨のように降り、それを見た観客は思わず歓声を上げている。

 このレベルの魔法を1学年で見られるとは思っていなかっただろうからな。

 ふふ、少し鼻高々。


 対するケイスは前回同様、杖で魔法を切り裂いているが、前回との大きな違いは受けきれずに回避も多用しているところにあった。

 当たり前だが、いかにケイスが強かろうとさばき切れる数には限界が存在するのだ。

 修行してきた魔法の回転率の向上、その努力が今ここで活かされている。


「おいおい……思ったより鍛え上げられてるじゃんかよ!」

「滅茶苦茶走ったからな……」

「マジかよ俺も明日からもっと走るわ!」

「素直か!」


 という会話が舞台でなされているが、普通は観客席に聞こえるほどの声量ではないので、これは耳の良い(耳はない)レイヴに教えて貰った内容である。

 この様子を見るにケイスはまだ軽口を叩く余裕はあるようだ。


「だったら今回は俺も遠距離攻撃やらせてもらおっかなっと!」


 余裕どころか、ケイスは回避しつつ魔法を放ってみせる。

 その魔法の光には見覚えがある……と言うか、今もまさにアスクが放ち続けているものと全く同じ魔法をケイスは放っている。

 それは『ひれ伏せる魔法』だった。

 彼がこの一か月修業を重ねていたのは新魔法だったか!


「パクリだなんていうなよな!」

「言うかよ、そんな甘いことを」


 アスク得意の『ひれ伏せる魔法』を使ってくることは予想外だったが、しかし、遠距離からの攻撃そのものはこちらの予想の範疇である。

 いくらか余裕を持ったままに魔法をかわすアスクの姿は美しく、そして気高い。

 流石、光魔法(闇)と跳ね返された自身の魔法を避け続けただけのことはあるな。


 こうして戦いは互いに回避と攻撃を繰り返すことになった。

 攻撃は魔法を連発できるアスクに分があるが、回避しつつ魔法を放つという行動自体はケイスの方が得意としている。


「拮抗しているわね」

「はい、均衡が保たれています。このままだと長期戦になりますね」

「長期戦になるとどちらが有利なのかしら」

「普通に考えれば魔力量の多いアスクですが、アスクは魔法を連発しており消費が大きく、ケイスは急所急所で魔法を使っている為、消費が抑えられています」

「つまり長期戦も五分五分ってことなのね……」


 そう、長引けば長引くほどどちらが有利というわけでもなく、この戦いは先にどちらが崩れるか……或いは均衡を壊すために新しい手を出すかが重要になる。

 そして先に動いたのは──ケイスだった。


「くっそ、やっぱり性に合わねぇわこれ! 埒が明かねぇし、やっぱり男の戦いは接近戦だろ!」


 ケイスはアスクとの間に開いていた距離を詰めるべく、一気に疾走を始める。

 長引いても互角という話ではあるがそれは私視点での話であり、ケイスの視点ではアスクがどれほどの魔力量を有しているかなど分かるはずもない。

 であれば、魔力切れを恐れて早期決着を望むのは普通の話。

 そうじゃなくてもケイスの得意分野は間違いなく接近戦なのだ。


 だから、このケイスの行動を読むのは簡単だった。

 当然、これは想定通りの事態。接近戦の対策もしているに決まっている!


「悪いが、お前のウザイノリに付き合うつもりはない」

「うっ……あっぶね!」


 アスクはケイスの突撃の瞬間、その開始にピッタリ合わせるように『ひれ伏せる魔法』を三発同時に放つ。

 出足をいきなり潰されてケイスは大きく横にかわすが、更に魔法を重ねられ、なかなか前に出られない。


「近寄らせろよー!」

「暑苦しいんでな、距離は保たせてもらう」


 涼しげにそう言い放つアスクの表情には余裕があるが、逆にケイスは接近に失敗し、少し熱くなっているようだった。

 これが作戦失敗の代償である。

 戦いに置いて近付く行為は大きな危険を伴う……直線的な動きは予想が容易であり、カウンターを喰らう可能性が高いからだ。


 そしてカウンターを決めるための予測力を高めるべく、私は鎧姿で何度もアスクに突撃するという訓練を繰り返し、この状況の対策を重ねた。

 淑女的にあれは辛い修行だった……なにせアスクを何回も何回も押し倒していたからな。

 むしろ押し倒されたいと言うのに!!!!!!

 

『真面目な空気を淑女脳で崩さないで!』


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