55.愛と勇気と友情と努力と智謀
「あっ、決着ついた。あの枠から出ると負けなのよね」
「はい、決闘に置ける大抵の決着はあれです」
一回戦は着々と進んでいくが、その決着の殆どは場外負けである。
まあ、それ以外で相手を倒そうとするのは非常に大変であり、また非人道的にもなるので大抵はああなる。
ただし、アスクとケイスはそんな決着にする気は毛頭ないだろうが。
「横に回復術師の人もいるんだから、派手にやればいいのに」
「いやいや、怪我はしないのが一番ですよ!」
「血が見たいわ」
「発想が怖いですよ!」
可愛い顔して血の気が荒すぎるアリスだが、決闘において観客が求めるものは血だと言えるので、その感性は一般的と言えなくもない。
実際、円形の舞台の横にはあのドジっ子ながら元南方医療班のホイップが待機しているので、確かにある程度の怪我は問題ないのだが、それはそれとして怪我はしない方が良いと私は思う。
無事之名馬とも言うしな。
「おっ、ついに馬鹿たちの番ね……って、うわぁ、緊張し過ぎだわ」
いくつかの決闘が終了し、ついにやって来たのはアスクとケイスである。
しかし、まあ、なんというか……アリスの言葉通り、二人とも滅茶苦茶緊張しているらしく、その両手両足は揃ったままに歩行している。
観客も多いので無理からぬ話ではあるのだが……。
「いや、確かあの歩き方には体力を温存する効果があったはずです。まさかそれを狙って……?」
「ただの馬鹿よ。見ているこっちが恥ずかしくなるわね」
「かちこちになってますか」
「もはや岩ね。人前に出る訓練も積んでおくべきだったかも」
そうか、緊張に対する修行もやって置くべきだったか。
戦場では緊張なんてする暇がないので、こういう競技特有の緊張感のことは意識から抜け落ちていたな。これは私の失態だ。
といっても、私も緊張には弱いので教えられることはないかもしれないが。
しかし、当然と言うべきか、2人ともただの緊張しいなわけではない。
ガチガチな動きで舞台に上がりカチカチな動作で杖を取り出すと──それだけで気合が入ったのか、2人の表情には生気が戻って来た。
いよいよ戦いとなって、緊張よりも戦意や高揚が勝ったのだろう。互いになんと熱いことか。
「あのチャラそうなのが強いなんて、なんだか信じられないわ」
「そんなにチャラいですか? 若者なら普通だと思いますが」
「若者へのイメージが酷すぎるでしょ」
「それに強さも本物です」
「そう……アスクは本当に勝てるのかしら」
アリスのその言葉には心配の色が見て取れて、婚約破棄をしてなおも存在する2人の絆も同時に感じられた。
以前に婚約破棄仲間だなんて思ったこともあったが、私の破棄とアスクとアリスの破棄とではまるで話が違うらしい。
全く羨ましい話だった。
「勝てますよ! 愛と勇気と友情と努力と智謀を信じましょう!」
「その4つと智謀が並んでいるのは初めて見たわ」
「とにかく、応援しましょう!」
少しの静寂と、観客にも伝わってくる緊張感。
決闘は真ん中に立つ審判の先生の掛け声によって……いよいよ開始された。




