53.決戦前夜
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「それでもう魔闘大会は明日やけど、修行の方はどうなんや?」
夜の寮の部屋ではいつも通りにケットルがゴロゴロとくつろいでおり、逆にアリスは机に向かい今日の授業の復習に励んでいる。
ケットルはルームメイトではないのだが、この一か月ほどでもはや自分の家のようにこの部屋に入り浸っており、南寮の絆の強さ窺えた。
……強まったのは絆ではなく緩さかもしれないが、まあ、似たようなものだろう。
「うーん、そうですね……10点満点中7点と言ったところでしょうか」
「なんとも微妙やな」
「というか、セピアは騎士さん呼ぶといつも消えているのによく分かるわね」
振り返りつつアリスは痛いことを言う。
「か、影で見守っているんですよ!」
「なんで影やねん。堂々と見守ったれや」
流石に怪しすぎてアリスとケットルから訝しむような視線が向けられてしまう。
仕方がないとはいえ、毎度意味不明な理由で消えていたので怪しまれてしまっていた。
一生ちょうちょを追いかけられてればなぁ!
「ええっと、き、騎士の人が実は苦手で……」
「あー、確かに威圧感あるわよね。怪しいし」
「そんな人によくコンタクト取ったものやな」
「し、知り合いの知り合いみたいな人で……一応、学園の生徒なのですが、素性は秘密です!」
私こと騎士さんは学園の生徒であり素性が秘密だと言うのも事実なのであまり嘘は言っていない。
そう、嘘を付くときは真実に織り交ぜるのが最も効果的なのだ!
……セピア生活によってすっかり嘘のコツを掴んでしまっている私である。
ま、まあ、嘘もモテの技術だと思うことにしよう。
「それで10点中7点で大丈夫なん? 明日やで」
「人に寿命がある限り、何事も10点満点で挑むというわけにはいかないものです。大事なのは今できる武器でどう戦うかですよ」
「謎に含蓄があるわね……」
「残りの3点は根性とかで埋めるんか?」
「いえ、残り3点は戦略で埋めます」
「現実的やなぁ!」
実際、非現実的なことを言っていても仕方がないのである。
やるからには全力で勝ちに行く必要があるし、全力で勝ちに行くなら不確かなものに頼ってはいられない。
そして確かなものとは努力と知力である。
「大事なのは努力に基づく自信。ピーちゃん様もそう思いますよね?」
「ピー」
「小鳥に理解できるとは思えへんけど、なんにせよ勝てるとええな」
夜中だと言うのに部屋に来ていたピーちゃんの頭を撫でつつ、私は明日のことを考える。
魔戦大会はトーナメント戦なので場合によってはアスクとケイスが当たるのは相当先になる可能性もあるが、当たらない可能性はないと私は思っていた。
学年別に分かれている以上、同学年にライバルは限られているのだが、今のところ有力そうな生徒は見つかっていないからだ。
とはいえ、世の中には爪を隠すのが上手な人もいるので絶対大丈夫とは言い切れないのだけど。
私の知り合いにも変身が上手い子がいたが、その子はどんな雑魚にもどんな恐ろしい魔物にも慣れたので恐れられていた。
今、何してるんだろうなぁ。
「まあ、うちと初戦で当たる場合はそこでジエンドやけどな!」
「あら、ケットル出場するの?」
「優勝賞品が美味しいから当然やで」
「へー、優勝賞品なんてあるんですか」
「いや、一番大事なところやろ!」
アスクとケイスの戦いの行方と、それに伴う偽ゼノビアの情報にしか興味がなかったので、優勝賞品なんて完全に忘れてしまっていた。
まあ、それに関しては私が受け取るものでもないから、忘れていて構わないのだが。
そう、大事なのは偽ゼノビアの方である。
今にして思えばアリスの持っていると言うサイン、あれも偽ゼノビアの仕業ではないだろうか。
とすれば、偽物は私の立場そのものを奪おうとして偽物をやっている可能性が高まり、非常に危険な存在だと推測できた。
まあ、単に金になるからやっているだけかもしれないが……。
それもこれも明日になれば分かることである。
そう、明日の戦いの後には……。




