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47.ゼノビア時代の方がモフみはあった

「と言うようなことがあったんですよ」

「あいつ、相変わらず女心が何一つ分かってないわね」


 ところ変わって自室、放課後修行も終了して帰って来たは良いものの、私の憤りは収まっていなかった。

 乙女心は短時間に修復できるようになっていないのだ!


「まあ、話が合う子がおったらそんな風に思ってしまうのもうちは分かる気がするな」


 一体何処から持ってきたのか分からない謎のお菓子をつまみながら、そんなことを口にするのはケットルである。

 ゴロゴロと床を適当に転がっているが、ちっこいので非常にその姿が似合っている。

 私もするべきか……? いや、床が抉れかねないか。


「セピアもわざわざ放課後に優しいわね」

「いえ! 代わりに光魔法のことは教わりましたし」

「てかアリスも寛大やなぁ。うちやったら婚約破棄された男の名前を出された時点でブチ切れとるで」

「た、確かに……!」


 憤りに任せて話してしまったが、言われてみればスゴイ失礼なことをしている気がする!

 しかし、アリスは何一つ切れていない平静な顔をしていて、むしろ何処か楽しげですらあった。


「別に気にしないわよ。前にも言ったけれど私は一度バトったからもうそれでスッキリしてんの」

「アリスもたいがい男らしいメンタルしとるな」

「私もセピアも超女の子よ! ね? セピア?」

「その通りですアリス! アリスより可愛らしく女子らしい女子はいません!」

「セピア!」

「アリスー!」

「仲がええなぁ」


 ひしっと抱き合うアリスと私。

 互いに可愛らしさに対する思いれは強く、そこは似た者同士のようだった。

 ただし私の方は、今はまだ似非な可愛さである、アリスの方は真の可愛さといういかんともし難い大きな違いはあるが。

 

「考えてみれば、セピアの指導でアスクが強くなれば寄りが戻る可能性もあるんやないか」


 ふと思いついたようにとんでもないことを言うケットル。

 さすがにアリスも驚いたようで、ジト目で彼女の方を睨んでいた。


「どういう理屈よ。いや、戻す気は欠片もないのだけど」

「そもそもアスクが婚約破棄言い出したのは自分が強くなりたいからやから、その目的が叶えば一旦落ち着くんやないか?」

「な、なるほどー!」


 私のような人の機微に疎いものはまるで思いつかない発想だが、なるほど、それはなくはない可能性に思える。

 だとすれば私がアスクを鍛えるのにも、偽ゼノビアの正体を探るという理由以外の意義が得られるので、より一層気合が入ろういうものだ。

 ただ、アリスとしてはそんな気は毛頭ないようで面倒くさそうにケットルに言葉を返す。


「婚約破棄ってそんな簡単に翻せるものじゃないわよ」

「まだ学園内での、しかも直近の出来事なら誤魔化せる気がするで」

「それでもやっぱりあり得ないわ。だってアスクは一度言い出したことを、軽々しくなしにする奴じゃないもの」

「あー、そうか……しかし、別れたとは思えんくらい信頼が深いやん!」

「長い付き合いだもの。それくらい分かるわ」


 遠い目をしてそんなことを言うアリスの姿は、何処か憂いを秘めていて、まるで一枚の絵のように美しい。

 どうやら婚約という関係が切られてなお、アスクとアリスの間には目には見えない深い絆があるようだった。

 それは二人と友達をしている私からすれば喜ばしいことで、なんだか嬉しく思えてしまう。。

 もしかしたら婚約破棄も表面上の理由だけでなく、私が見えてない他の理由があるのかもしれないな。


「それに、今はアスクとセピアが仲良くしてるって聞くとアスクの方に『セピアを取りやがって!』って嫉妬しちゃうのよね」

「は、はい!?」


 すすっとこちらに近付いて来て、じゃれ合うようにこちらの腰を抱いてくるアリス。

 あ、あまり強く抱きしめられると腹筋の鋼鉄さが伝わってしまわないか心配なのだが……。


「私にも遠慮なく魔法のこととか聞いて欲しいわ! 友達でしょ?」

「あっ、そ、そうですよね! ごめんなさい!」

「罰としてこのまま犬になって貰おうかしら」


 わしゃわしゃとこちらの頭を撫でてくるアリスの動きは手慣れていて、本当に犬を飼っていただろうことが窺えた。

 なるほど、友達同士にも嫉妬と言うのはあるものなのだな……。

 加えてアリスは寮生活によって現在ペットロスなのかもしれない。

 モフモフの毛並みではないのが申し訳ないが、ここは友として大人しく罰を受けるとしよう。


「頭だけならいいですわんよ!」

「やったー! モフるわよー!」

「ほんま仲がいいなぁ」


 そんなこんなで南寮の夜は更けていくのだった。


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