44.大モテ魔導士のメチャモテ魔法が見たい!
しかし、まるで大丈夫に見えなくても続行されるのが修行というもの。
その後、30分ほど走らせたところで私は彼に終了の声をかけた。
「よくがんばりましたねー」
「お……おわりくぁ……」
「あっ止まらないでください。超ゆっくりでいいのでしばらく歩いて歩いて」
「何故……」
グデグデのアスクを座らせずに更に歩かせようなんてなかなか鬼畜な所業に見えるかもしれないが、一応は意味のある行動のはずである。
何故かは私も良く分からないが、走った後はしばらく立ち止まるなと教わっているのだ。
疲労が足に溜まらないようにとかそんな感じだったと思うが……まあ、先人の経験則には従って置く方が無難だろう。一番非効率なのは効率を求めて何もしない事だと、師も言っていたし。
「それで光魔法についてですが」
「少し休ませろ……」
「では10分ほど」
「みじけぇ!」
容赦なくきっちり10分後、再度私はアスクに尋ねる。
「それで光魔法ですが、アスクは得意なんですね」
「マジで10分かよ……まあ、クソ親父に子供の頃習っていたから」
「なるほど、確かに得意でしょうねアスター──様は!」
「でも、光魔法は実用性皆無だし、別の魔法を習った方がいいと思うぜ?」
「人に感動を与えられるならそれは十分実用性がありますよ。それに、えっと、うーん、まあ、アスクには言っておきますか」
これから仲良くやっていく上であれを黙っていると、色々と行動に制限が掛かってしまうので、私はあのことについて話しておくことにした。
それにアスクは如何にもモテそうだしそこから習いたいものも多い……。
「私はですね──超モテたいのです! だから無骨でも攻撃的でもない魔法を身に着けたいのです!」
「はぁ? モテてもなんの得もないぞ?」
意を決して話したのだが、恵まれすぎた美しい容姿を持つアスクのモテに対する反応は実に冷ややかだった。
これだから富める者は! 民草の気持ちが分からなければ立派なモテ王にはなれないぞ!
「それはアスクがキングオブモテキングだからです! むしろ私もその境地に至るまでモテたい……!」
「お前は想像の5倍くらい変な奴だな」
「光魔法と一緒にモテ魔法もアスクからは学んでいきたいですね」
「知らねぇよモテ魔法なんて!」
否定するアスクだが、しかし、私が知らないだけで世には存在していそうな気はするモテ魔法である。
何故なら。生物の本懐とはどれだけモテるかというところにある、と言っても過言ではないからだ。
つまりモテは世の道理に沿っており需要も大きい。きっとモテを極めた大モテ魔導士がいてモテ魔導書でモテ魔法唱えてモテ範囲攻撃しているはず……!
『嫌だよ! そんな大魔導士は!』
絶対いると思うんだがなぁ……。
「まあ、モテたい気持ちそのものを否定する気はないが、光魔法ってモテるか?」
「えっ、絶対モテますよ! ピカピカ輝くものにこの世の全存在惹きつけられるものなのですから! 輝きこそ最も優秀な求愛行動ではありませんか?」
「モテを求愛行動に変換している時点でお前にモテる要素ないぞ」
「そうなのですか!?」
「やっぱりお前、世間知らずなところあるな……」
どうにもズレたことを言ったようで、世間知らずを指摘されてしまった。
いや、世間は学生より知っているつもりなのだがな?
ただ、私の生きていた世間があまりにも狭すぎただけで……。
『戦場は世間とは言わないから!』
しかし、この戦場思考を世間知らずと思われる分にはお嬢様感があって非常に気分が良い。
お嬢様設定は案外、戦場育ちを隠す優秀な隠れ蓑なのかもしれなかった。
やあやあ我こそは世間知らずでお淑やかで儚げなお嬢様ぞ!
『ボロが出ないことを祈るばかりだね』




