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43/66

43.よく言っても辛勝では?


 終わりが見えない訓練にドン引きするアスクだが、それくらいは受け入れて欲しいものだ。

 生ぬるいことをしていては一か月なんて短い期間では間に合わないのだから。

 それに、この訓練は気力を鍛えるのも目的なので、あえて終了条件を教えないのもミソなのである。


「いいですか、アスクの素晴らしいところは魔力の多さです。ですが、今はそれをガバガバと使っているから魔力切れを起こしてしまっています。いわば穴の開いた桶ですね」

「俺は穴が空いてたのか!?」

「この訓練では体力バテバテの状態で紙切れを浮かべることで、効率よく魔力を操る術が身につくはずです。つまり、穴を小さくしたり閉じたりする方法を覚えましょう」

「なるほどそういう意味が……」


 本当に厳しい師なら、そもそも修行に疑問を挟むことを怒るだろうが、私はそこまで厳しくするつもりはない。

 あくまでも互いに学生の身分、態度は緩く、修行は厳しくいかせてもらおう。


「それでは始めてください。私はベンチに腰かけて今日の授業のおさらいをしています……はぁ」

「なんでお前の方が気を重くしてるんだよ!」

「それは私が落ちこぼれだからです。アスクはこうはならないようにしてくださいね」

「なんだか分からないが、元気出せよ……」


 むしろ私が励ましか発破をかける立場だろうに、逆に励まされてしまった。

 だが、顔の良い男に元気出せよと言われたら勝手に元気が出てしまうのも淑女なので、否応なく元気になってしまう私である。

 そう、落ち込んでいる暇などない! 青春だって短いのだから!


「ありがとうアスク、そして行ってらっしゃいアスク」

「ああ、(地獄へ)行ってくるよ」


 こうして私は光魔法のおさらいを、アスクは無限紙浮かべランニングを開始した。

 互いに同じ場所で努力をするさまは実に青春をしている気がする。

 おや? これはもしや放課後に友達同士で勉強するという夢にまで見た光景と酷似しているのでは?


『いや、全然似てないから。片方これから死にかけるからね』



 ★



 1時間後、レイヴの言う通りアスクは死にかけていた。

 もう全身から汗を流しまくり、紙切れの浮遊力も衰えているようで、もはや手のひらからわずかにしか浮いていない。

 普通に1時間走るだけならアスクもここまで疲労困憊にはならなかっただろうが、魔力を常時働かせ続けるだけでこれだけ疲れるものなのである。


 そして一方の私はと言えば……こちらも死にかけていた。


『なんでこっちも死にかけてんのさ!』


 なんでだろうな……落ちこぼれだからかな……。

 もう汗水垂らして、殆ど涙目で光魔法の練習に励んでいる私だが、全く光魔法が光り輝かないのである。

 私の手から生み出されるものは全て謎の暗黒物質であり、攻撃力を伴うそれを生み出すたびに握りつぶすので大変だった。

 これ、攻撃魔法として優秀かもしれないな……。


『さすがゼノビア、新たな魔法を生み出すなんて、戦闘魔法の大天才』


 なんと嫌味な愛剣か! 攻撃魔法には困っていないと言うのに!

 

「光ぃ……魔法のぉ……練習かぁ……」

「あっはい、なかなかうまくいかなくて……」


 横から話しかけて来たのはグルグルとグラウンドを周回し続けているアスクである。

 もう息を切らし、呂律もうまく回っていない様子だが、それでもこちらに話しかけて来たのは、よほど私の生み出し続ける闇が気になったのだと思われる。

 もしくは少しでもランニングから思考を逸らしたかったのか。


 一瞬すれ違うだけなのでアスクは再び遠くへと走り去っていくが、1周しもう一度戻ってくると、再度こちらに話しかけてくる。


「ぐはぁ……はぁ……光魔法教えてやろうか……」

「えっ、本当ですか?」


 私は立ち上がり、アスクと並走するように走り出す。

 その速度は婦女子でも追いつける程度の軽いものになっていた。

 

「あぁ……光魔法は得意な部類だし……」

「相互に教え合うのは出てこない発想でした! 大変素晴らしいと思いますが、アスクは大変じゃありませんか?」

「楽勝に決まってるだろぉ………………ゴッホゴッホ!」

「まるでそうは見えませんが!?」


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