29.私よりも詳しい…
「私は特区の育ちよ。つまり、貴女たちの方がおかしい。一体、南方のどこにいたのよ」
「えっ、えーっと……」
「うちは商人の娘やから、色々旅していた感じや」
言い淀む私に代わり、ケットルがしれっと自分の素性を明かす。
なるほど、商人の娘か。
南方に置いては資源不足が重大な問題になりやすいので、そこに商売のチャンスを覚えやって来る商人は多く、戦場においても彼らの姿を見かけることは多かった。
そうなると、学園は商人におもねって寮を与えたということになるが……大口の寄付金などを出しているのかもしれない。
「へー、何っていうか商人っぽい感じが既に出ているわね」
「なんやねん商人っぽい感じて」
「何となく分かります」
「えっ、うちそんなに商人なん!?」
単に南方鈍りのせいかもしれないが、細かいところでもきっちりしているその性格は確かに商人と言われれば商人らしい。
いかにも金勘定にはうるさそうだ。
「家業には否定派なんやけどなぁ……まあ、ええわ。そんじゃあうちは失礼するで。飯時になったら呼ぶけど、それまで自由時間やから身支度でも何でも整えてや」
「はい、ありがとうございました!」
「ちゃんと美味しいものなんでしょうね?」
「飯用意するんはうちやないんで、不味かったら学園に文句言ってくれな困るわ。ほなまた」
ひょうひょうとした態度のまま、ケットルは部屋を去っていく。
後に残った私とアリスだが……いざ2人きりなると謎の緊張感が!
「ええっと、いいベッドですね!」
「そう? 安物じゃない?」
「ね、値段が全ての良しあしではないんですよ!」
「それはそうね……」
物の価値の分からない成金なことがバレかけたが、何とか良識の押し売りで誤魔化す。
お、お嬢様ってそうか、その辺の知識もないとなのか。
学園で習うかなぁ……。
「そういえば、アリス、何で私が南方だって分かったのですか?」
先ほどの失態を隠すように先ほど感じた疑問を口にすると、アリスはそれはねと口にしてにっこりと微笑む。
「貴方の銀髪から漂ってくる香り、それは南方の花のものでしょ? それを嗅いですぐ貴女の育ちは分かったわ」
「なんと匂いですか」
驚くことにアリスは私の髪の毛を整えるために使われた花のエキス、その匂いで南方育ちだと察しがついたようだ。
それだけのヒントでよくもまあ……なんと聡明なことか。
というか、私自身はその花が南方の物だとは知らなかったので、彼女はもう私より私に詳しいとさえ言えるだろう。
エキスそのものはアスターからプレゼントされたものなのだが、彼女は戦場で採取できるものを用いておしゃれを極めていた為、当然そこで得た花のエキスも南方由来の物になり、巡り巡って、弟子の私も気付かないうちに南方の香りを身にまとっていたということらしい。
なんだか因果があって面白い。
これを想定して南方育ちだと偽っていたら、私もなかなかの知能派だと言えたのだが、偶然なんだよなぁ……。
「それに戦争が終わるまで箱入り娘になっていたというのも、他の地域ならやや過剰な話だけど、特区以外の南方の生まれなら分かる話だわ。事実としてそばに魔物がいるのだから」
「おー! そういうことになるんですか!」
「……なんで自分でも今気付いた風なのよ」
「お、お父様とお母様がそんな考えを持っていたなんて、考えもしませんでした!」
「なかなかお嬢様な言動ね」
「お嬢様ですから!!!!! というか、驚きましたよ! アリスは推理力がありますね!」
実際は嘘の経歴なので推理が当たっているとも言い難いのだけど、しかし、犯人が想定していない謎すら解き明かしてしまうのは、逆に一流の探偵っぽい!
なるほど、私の経歴にそんな理屈があったとは……。
『まるっきり考えてなかったゼノビアに僕は驚いたよ』
呆れた声を上げるレイヴに、私はただ無言で押し黙るしかできなかった。
妄想過多な恋愛小説好きの癖に、浅い設定しか作れなくて申し訳ない……!




