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28.南方は不思議なところ

「ラッキースケベにいきなり出くわすとは、ラッキーやな」

「誰ですか彼女は!?」

「うちも分からんが、鍵を持ってるってことは、同室の子やろ」

「あ、ルームメイトの人ですか」


 言われてみれば自分の部屋の先客なんて、家族かペットかルームメイト以外ありえない。

 私に家族はいないしペットもいないので、必然的に部屋の中にいる彼女はルームメイトである。

 しかし、新入生として案内された私より先に着いているルームメイトとは一体……。

 つまり、上級生ということか?


「し、失礼しまーす」

「はーい」


 私が遠慮がちにノックすると、中から可愛らしい声が響く。

 その声は物凄く聞き覚えのあるもので……。

 再度ドアを開けると、部屋の中にいたのは先ほどまでの半裸だった少女ではなく、そこにいたのは動きやすそうな部屋着に着替えたアリスの姿だった。


「あ、アリス!」

「遅かったわね、入学式で校長先生が長話でもした?」


 相変わらずの可愛らしい微笑みでベッドに腰かけるアリス。

 まさか彼女の方が先に寮についていたとは……お叱りを受けた後、式に寄らずにこっちに直帰してきたということだろうか。


「い、いえ、楽しいショーをしていました……アリス、南方出身だったんですか」

「まあね、どうせ南方からの新入生なんて少ないだろうから、同じ部屋になると思ったわ」

「なるほどー」


 保健室で意味深に同じ部屋になるだろうと言っていたのは、こういうことだったのか。

 うん? しかしそれは私が南方出身(嘘)であることを前提とした言動である。

 どうしてそのことが分かったのだろうか。


「でも来てみたら思った以上に人が少なくて個室かもなぁとか思っていたのに、結局同室制度だったわね。ちょっとケチじゃないかしら? ねえ、寮長さん」

「学園の規則として同室は避けられんのや。どれだけ部屋が余っていてもな」

「なんだか非合理的だわ」


 不満げに頬を膨らませるアリスの顔はもはや可愛いの化身だった。

 私が頬を膨らませても、あれほどの可愛さを出せるだろうか……ただの変顔になりかねない気がする。


「学園と言うのは非合理を学ぶ場所でもあるんやと思うしかないなぁ」

「ケットルにもルームメイトがいるんですか」

「うちは寮長やから1人部屋やで」

「それってずるじゃない!」


 もしかするともう1人くらい新入生がいるのかもしれないと期待する私だが、残念ながらそれは儚い期待だった。

 寮長だけは個室を貰える仕様らしい……まあ、それくらいの特典がないと誰もやりたがらないと言うのもあるかもしれないが。


「寮長権限や、つーか、うちはどちらかと言えばルームメイトが欲しいタイプやで」

「立場、交換するってのはどう?」

「それは規則違反やから駄目」

「案外お堅いのね」


 寮長としてきっちり締めるところは締めるケットル。

 確かに軽い第一印象に比べるとお堅いところがあるが、しかし、公私にメリハリが付いていると考えると、非常に好感が持てる。

 ぜひ上官に持ちたい人材だ。


「というか、アリス、ケットルとは知り合いなのですか?」

「いや、初対面よ」

「南方は特区におらんと、あんまり顔合わせることないからぁ」

「しょ、初対面でその仲の良さ……」


 特区……特別行政区の略だが、要するに独自の行政機関を持ち国の中であっても特殊な地域のことを指す。

 南方には魔物の侵略に打ち勝てるほどの強靭な防衛を備えた町がありその街が通称特区と呼ばれているのだ。

 そして、そこの生まれでなければ、同じ南方育ちでも顔馴染みとはいかない。

 

 とはいえ、南方育ちの大抵はそこの出身だし、アリスの口調もケットルの口調も羽のように軽かったので知り合いかと思ったのだが、まさかまるっきりの初対面とは……。

 コミュ力の違いをありありと見せつけられてしまったな……。


 一応、社会経験はこちらの方が積んでいるはずなのにー!

 悲しいかな、社会で必要なコミュニケーション能力と同世代で必要とされるコミュニケーション能力は別物らしい。

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