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24.けったいなケットル

「こちらが南方の寮ですか?」

「おお、あっとるで。あっとるというか、あっと驚くことになるやろうな」


 赤髪褐色の少女は愉快そうに笑いながら私を出迎えてくれる。

 アリスとは違うが、快活そうで実に元気が感じられるし、なおかつ可愛い。

 魔法学校、可愛いレベル高くないか?

 それとも戦場の可愛いレベルが低すぎるのか?


「驚くほど豪華な寮であることを願っています」

「はっはっは、儚い願いやな。うちは一応南方女子寮の寮長やっとるケットルや。キミは?」

「私はセピア・ミーティアムです」


 看板をくるくる回しながら立っている彼女は、ケットルというらしい。

 ケットルの背は低めで私の胸ほどの位置に顔があった。

 ロリ系の先輩だろうか……うーむやはり可愛い。

 可愛いが、これからは彼女が先輩だ! 私はこれからお世話になるであろう彼女に頭を下げる。

 

「よろしくお願いします!」

「そんなかしこまらんでええで。同級生やから」

「そうなのですか!?」

「南方寮は今年からの新設なんやけど、新設された理由はうちが入学するからなんよ。やから、必然的に新入生ながらうちが寮長いうことになる」


 苦笑いを浮かべたままにケットルは信じられないことを言う。

 ケットルが入学するから南方寮が作られた?

 1人の生徒の為にそこまでの労力がさかれるなんて、そんなことがあるのか。

 彼女の家がそれほど巨大なものだということ?


「でも、元々南方育ちだった先輩もいるのではないのですか?」

「あー、新設言うても使ってない建物貰っただけやから、待遇が悪いねん。南方育ちも今は他の寮で仲良くやってるし、それをわざわざ引き裂くのもおかしな話やから、希望がない限り先輩方も元の寮に居座っているわけや。そして、希望してこっちに来た先輩は要するに元の寮に馴染めてない変わり者やから、そんな人が寮長を務めるわけもないわな」

「なるほど、理論的ですね」


 もう一年はその寮で過ごしてきたわけだし、新設寮も新品そのもの……みたいなことはなさそうなので、強制されない限り、わざわざ移動する理由もないという事か。

 なんだかその情報を聞いているだけで、南方寮そのものに不安が生まれてくるのだが。


「納得していただけたところでいこか」

「私1人なのですが!?」

「いや、うちも新入生やから2人やな」

「ケットルはほぼ例外枠のような話しぶりに聞こえますが……」


 ケットルの持つ看板の前に並んでいるのは、セピア・ミーティアムただ1人である。

 これでは厳密には並んでいるとは言えない!

 セピア騎士団、総勢1名参陣!!!!! みたいなことになっている!


「一応、もう1人南方育ちが新入生としてこの場にいるはずやったんやけど、問題起こしたから遅れてくることになっとる。戦争も終わったから南方の新入生も増えるんやないかと思ったけど、それはまだまだ先の話になりそうや」

「増えるのは来年くらいですかね」

「そのころにまだ南方寮が残っていたらの話やけどな」

「消える可能性があるのですか!?」

「それはこれからのうちら次第や! さあ、寮へ案内するで!」


 そうして、2つの結んだ赤い髪を揺らしながらケットルは看板片手に先を行く。

 なんだか変わり者な彼女の後を、くるくる回る『みなみん』の看板を追うように、私も急いで付いていった。

 それにしても、不祥事を起こして遅れている女子生徒とは……何となく知り合いな気がしてならない。

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