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23.炎の匂いしみついてむせる

 既に式も終わりかけなのか、壇上で学院長のお爺さんが入学を祝うための魔法文字を宙に描いている。

 そんな中でこっそりと身を屈め、空席に着席するのはかなりの緊張感を必要とした。

 気分はまるでスニーキングミッション。

 ゴブリンの巣に単身で侵入した時に比べれば、まだマシなミッションであると言えたが、しかしそれでも大分気を使って、もう私はへとへとだった……。


『厳かな空気って、魔物相手とは違う緊張があるのは分かるよ』


 そう、私のような戦場が日常なものからすると、こういうたまにある式典の方に緊張したりするものなのだ。

 まだ竜と対峙している方が気が楽……なんてのは割と戦場あるある話だったりする。


 まるでショーのような校長の演武に生徒たちは集中していたので、あまり目立たずに侵入出来たのは幸運だった。

 魔法学園の式ではお馴染みの光景だと聞くが、話で聞くのと実際に見るのとでは大違いで、なるほどこれは目を奪われるのも納得の技だと思わされる。

 こういう華やかな魔法は私の憧れであり、夢でもある。

 アスターに対しても思っていたが、私の魔法は少々無骨すぎるのだ。


 戦場にいるときはもう仕方がないと完全に割り切っていたが、こうして日常へ帰って来てみればやはり憧れは強まるというもので、うん、私もああいった魅せる魔法が使いたい!

 私のは、なんかむせる魔法なんだよな……炎の匂いとかで。


『鎧に炎の匂いしみついてたもんね』


 しかし、あの匂いにさよなら言ったはずだ!

 別れたはずだ!

 むしろ、今度は華の匂いでいっぱいの生活を送りたい。

 そんなことを、周囲の若者たちの心地よい匂いを嗅ぎながら思った。


『またちょっとオジサン化してるよ!』


 おっと、悪い癖が。

 あまりにも若い子と共に時間を過ごしてこなかったせいで、どうにも私には自分も若い子だという自覚が薄いらしい。

 年下扱いもされなかったからな……。

 むしろ立場は目上であることが多かったくらいだった。

 やはり、若いうちから偉くなるものではないな。


 そんなくだらないことを考えていると、頬の横を光る蝶がかすめていく。

 光魔法の応用だろうが、実に見事なものだ。

 私はしばしその光景に見惚れていたが、気付けば光も収まっていき、周囲もまた薄暗さを取り戻していく。


 そして校長から話を受け継いだ教頭の女史が、先ほどまでの華やかさとは打って変わったお堅い口調で、実務的な連絡を告げる。


「──新入生一同は各々の寮へと移り共同生活を送ってもらうことになります。各寮の寮長についていってください」


 どうやら本当に終わり際に私は着いてしまったらしく、式はもう終わり、寮へと出向く時間のようだ。

 寮生活……これもまた私の憧れだった。

 共同生活自体はテントで日夜行っていたのだが、寮はそんな危険を枕に寝るような生活とは一線を画する。

 同年代の子たちと寝食を共に出来るなんて、本当に感動しかない!


「女子で西方寮の子はこちらに並んでくださーい」


 周囲に寮長の声が響き渡る。

 寮は西方、東方、北方の3つに分かれていて、更にそこから男女で別れるらしい。

 西、東、北はそれぞれの出身地を基準に選定されるそうだが……私はこれ、南って書いたんだよな。


 何度も何度も言っているが、南方は戦場を意味しており、魔物の侵攻が激しかったので、基本的に人が住めるような土地ではなかった。

 しかし、どんな危険な場所でも土地に限りがある以上、そこに住むしかない者もいるわけで、民族が皆無なわけではない。

 身分を偽造する上で最もやりやすいのは南方という地域だったこと、そして事実として日々を南方で過ごしていたことから私は出身地を南と書いたが……そうか、寮の区分けに入っていないのか。


「南方の子はこちらやでー」


 ガヤガヤと各々の寮へと移動する生徒たちに取り残され、どうするべきか悩んでいると、南方なまりの混じった声が聞こえてくる。

 おお、南寮もあるじゃないか!

 嬉々としてその声の聞こえて来た方へ急ぐと、赤い髪をした褐色の女性が『みなみん』と書かれた看板を手に、やる気なさげに立っていた。

 何故、みなみん。


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