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第8話 萌夏の過去

区切るとこなかったよ

「実は私ずっと探している人がいるの」


 昼休み、俺たちを屋上に集めた萌夏は開口一番そう言った。


「探していた人?」


 悠人がそう聞くと、萌夏はポツリポツリと話し出した。


「もう私が言うまでもないと思うけど、私の家はささはらグループ創業者一族。だから私は……佐々木原萌夏はお嬢様ってことになるわ」

「ああ、それはこの前萌夏の家に行ったときに知ったよ。もっと早く教えてくれても……」

「……なら私が、私がお嬢様って見られることを嫌っているのは分かってるでしょ?」

「……ああ」「……そうだな」「……」


 萌夏はお嬢様であることを嫌っている。だからこそ自分から家のことは話さないし、誰にもお嬢様に見られないように振る舞っている。


「実は私小学生の時までお嬢様であることを皆に言いふらして、周りの人を下に見てる時期があったの」

「え? そうなのか?」

「うん」

「(初耳だ。本当に今までそんなそぶり無かったし、なんなら友達思いで周りをよく見てるいい子だと思ってた)」


 悠人や光輝だけでなく、一番近くにいた心でさえも口を開いて驚いている。


「……だ、だったらなんで萌夏はお嬢様を気取らなくなったんだ?」

「ある男の子と出会ったのよ」

「男の子?」

「そう。授業参観があった日、私はいつものように周りに接していた。それをお父様に見られちゃってね……。家ではおとなしい女の子を演じていたから。だからものすごく怒られたわ。それはもう小学生には耐えられないくらいね。それで私は家を飛び出して、公園に逃げ込んだのよ。そこでずっと泣いていたわ。どのくらい経ったときだったか分からないけれど、突然私の目の前に男の子が現れたのよ。そして私に言ったわ……お前は弱いって」

「弱い?」

「ええ。弱いから自分を強く見せることしか出来ない馬鹿野郎だって」

「ずいぶんキツい言い方ね!」

「え? 花楓? どうしてここに!?」

「そんなもの教室から後をつけたに決まってるでしょうが」

「……ストーカー……」

「う、うるさいわよ神城さん! 付けてきたのは謝るけど、今はその話じゃないでしょ。佐々木原さん。その男の子に言われてあなたはどうしたの?」

「……最初は反発したわよ。何言ってんの! って。でもその後男の子は私の横に座って、お前の心を強くしてやるよ。だから俺と話そうぜって、言ってきたの」

「ずいぶんまた急な話だね」

「私はきつい言い方でその男の子に当たったりもした。でも顔色一つ変えないでずっと私の話を真摯に聞いてくれた。それからあたりが真っ暗になるまでその男の子と話し込んだわ。楽しいことや悲しいこと。アニメの話や学校の話まで。そしたら私、自分の弱さに気づいたのよ。いや、気づかされたのね」


 悠人たちは黙ってその話を最後まで聞くことにした。


「そしてとうとうお父様が公園にやってきた。ずっと探していたのでしょう。息をあげて肩で呼吸をしていたわ。そしたらその男の子は私にこう言ったのよ」

〈お前は強くなったよ。だから今までの行いを反省できるはずだ。分かったか?〉

〈うん!〉

〈じゃあ俺は帰るわ〉

〈ま、待って! あなた名前は?〉

〈俺か? ……お前気づいてないのか〉

〈え? どういうこと!?〉

〈俺はお前のクラスメイトだよ。いや正確にはだっただが〉

〈え?〉

〈萌夏!!〉


「そこでお父様が私に気づいて駆け寄ってきた」


〈じゃあな。いつかまた会えるといいな〉

〈あ! 待って!〉

〈萌夏! 探したんだぞ! お父さんはもう怒ってない。さあ家に帰ろう〉

〈ま、待って! 今男の子と〉

〈……誰もいないが〉


「その時男の子は姿を消していた。そして私はお父様に引きずられる形になって家に帰った。次の日先生に話を聞いた。男の子は転校したと。でも私には知らせなかったと。知らせても分からないだろうからと。その日から心を入れ替えた私は時間はかかったけど今みたいな性格になった。いつか再会したときに恥ずかしくないようにね」

「佐々木原さんの過去は分かったわ。あなた変わったのね」

「うん」

「それで探してる人って言うのは……その男の子?」

「そう。実はね。お父様に探してもらったの。男の子。そしたら見つかったらしくて。急だけど明日会うことになったのよ」

「ええ! そうなの!?」

「うん。お礼……言わないとって」

「そうね! 今のあなたを見せてあげな!」

「うん!」

「ねえ萌夏ちゃん……」

「なに心?」

「転校しちゃうの?」

「ああそうだよ! 佐々木原! お前転校するってマジか!?」

「ええするわよ」

「なんでだよ!」

「明日会う男の子が県外に住んでるのよ。それでお父様も事情を知っているし、私が恋心を抱いていることもね」

「萌夏ちゃん。その男の子のことが好きなの?」

「私は助けられたからね。もし向こうが良ければ……ね。だからその子が通う高校に転校しようかなって思ってるってこと。それはもう先生にも話してあるからね」

「そうかよ。お前が好きな相手なら応援してやる! 転校はしてほしくないけどな」

「私も応援するよ! でも転校したら遊べなくなる?」

「家は引っ越さないから休日とかは遊べると思うわよ」

「なら少し安心」

「……っておい悠人! さっきっから何黙り込んでるんだよ! 佐々木原が転校しちまうかもしれないんだぞ」

「あ、ああそうだよなごめん」

「悠人?」

「俺も応援するよ萌夏」

「ありがと」


 その後も4人(悠人除く)は昼休憩が終わるまで色々なことを話した。

 しかし、悠人には気になる点ができたようだ。


「萌夏」

「何悠人?」

「俺も、昔話をしていいか――――」

長くなってしまいましたが、今日も最後までお読みいただきありがとうございました。

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