第6話 萌夏の家
今日もありがとうございます。
悠人と心は昇降口を一緒に出た。
「心。萌夏の家はバスで行くのか?」
「それでも行けるけど遠回りだし、バス停から少し歩くから」
「そうなのか」
「うん! それに悠人と一緒にいたいし(ボソッ)」
「え? 何か言ったか?」
「ううん、なんでもないよ!」
「顔も赤いぞ?」
「っ!? だ、大丈夫だよ!」
「そうか? じゃあ行くか!」
「うん!」
そして心は悠人と並んで歩いた。
心の顔はいつもより赤く、鼓動も早まっていたが、幸いにも悠人に気づかれることはなかった。
途中2人はコンビニに寄って肉まんを買い、食べ歩きをしながら1時間ほど歩き、とうとう萌夏の家の近くまで来た。
「そこの角を曲がったら見えてくるよ」
「おっ、やっとか。思ったより遠かったわ」
「まあ普段は車で送迎だからね」
「え? そうなのか?」
「知らなかったの?」
「ああ……と、見えてきたな……って、おい心、まさかあれだって言うんじゃないだろうな」
「そうだよ」
「だって、あれはどうみても家じゃなくてイギリスとかヨーロッパにある屋敷だろ!!」
「それはそうだよ。萌夏ちゃんはお嬢様だから」
「や、やっぱりそうなのか!?」
「ささはらグループって知ってるでしょ」
「ああ、その名前を聞かない日はないくらいにはな」
「それが萌夏ちゃんの家だよ」
「お嬢様かもとは思ってたけど、まさかあのささはらグループだったとは……。心はいつから知っていたんだ?」
「5月。私が萌夏ちゃんと2人で買い物に行った日に」
「そうなのか」
「教えてくれても良かったのに」
「なんでも萌夏ちゃんが自分から言うから言わないでって言ってたから」
そして門の方へ歩いて行き、塀に設置されたインターホンを鳴らす。
「はい佐々木原です。どちら様でしょうか?」
インターホンからは男の人の声が返ってくる。
「あ、俺、いや私は萌夏さんのクラスメイトの笛吹悠人と神城心です。学校のプリントを届けに来ました。萌夏さんはいらっしゃいますか?」
「笛吹様、神城様。遠いところわざわざありがとうございます。萌夏様は旦那様と外出されております故、私奴が代わりにお預かりさせていただきます。ただいま門を開けさせていただきますので、少々お待ち下さいませ」
通話が切れると、門が音を立て、自動で開く。
「おお、自動かよ」
「すごいよね。私も初めて来たときは驚いたよ」
そして門を抜け、中に入ると、モーニングコートを着た40歳くらいの男性がこちらにやってくる。
「おまたせいたしました。私はこちらで執事をしております古戸研と申します。神城様はお久しぶりでございます。旦那様、萌夏様は本日お出かけになっており、まだお帰りになられておりませんので、私奴がプリントをお預かりさせていただきます」
「ありがとうございます。じゃあこれを萌夏さんに」
「確かにお預かりいたしました。何かお伝えすることはございますか?」
「また学校で、とだけ」
「承りました」
「古戸研さん」
「はい、何でしょう?」
「昨日から萌夏ちゃんと連絡が取れなくて……萌夏ちゃん元気ですか?」
「はい、本日も体調は万全でおられましたよ」
「なら安心です」
「それでは俺たちはこれで」
「はい。それではお気をつけて」
2人は古戸研さんに挨拶をしてから、佐々木原家を後にした。
「それじゃあ心。また明日学校で」
「あ……うん。バイバイ」
「じゃあな」
そして2人はいつものバス停まで他愛もない会話を交わした後別れた。
その時、心が何か言いたげに悠人を見ていたが、悠人は気づかずに背を向けてしまった。
「また明日。悠人」
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