萌夏side 萌夏の用事
今回は2話、3話の萌夏視点になります。
♢ ♢ ♢ 悠人たちと別れた後 ~萌夏~ ♢ ♢ ♢
萌夏は父親に呼ばれていた。悠人たちと別れた後、学校から離れた場所に止まる車へと足を運んだ。
「――――お帰りなさいませ萌夏様。お荷物をこちらに」
萌夏は車のドア横に立っていた執事に荷物を渡し、車へと乗り込んだ。
「ありがとう」
「本日のこと、ご学友の方たちにはお伝えいたしましたか?」
「伝えようとは思ったけど、先に話すより、後で伝える方が伝わるかなと思って言わなかった」
「そうでしたか。それでは屋敷の方に向かいましょう」
「屋敷って言わないでよ」
「失礼いたしました萌夏様」
「分かればいいのよ」
――この会話で分かったかもしれないが、萌夏は歴としたお嬢様なのである。しかし、萌夏は自分がお嬢様としてみられることをあまりよく思っていない。本人はその理由について父親以外に話したことはないが、いつか萌夏の口から話されるときが来るのだろうか――
そして車は高さにして車2台分はありそうな門を通過し、長い石段の手前で停車した。
「――――萌夏様、ご自宅に到着いたしました」
先ほどと同様執事が車のドアを開けてから、萌夏は車を降りた。
そして荷物を受け取り――執事は自分が持つと言ったが、萌夏が断った――石段を登って自宅の扉を開けた。
「ただいま帰りました」
萌夏は家に着くなり、自室へと向かい、制服を脱いで、自宅用の服に袖を通し、急いで父の書斎へと向かい、書斎のドアの前で一度座り、軽く3回ノックをした。
「お父様、萌夏です。ただいま帰りました。入ってもよろしいでしょうか?」
「うむ、入ってきなさい」
「失礼いたします」
萌夏は静かにドアを開け、中に入り、父の座るチェアの前に置かれたソファに腰を下ろした。
「お待たせしてしまい申し訳ありませんお父様。それで本日はいかがされましたか?」
萌夏の父は別段厳しいわけでもないが、自分の父であり、この佐々木原家の当主でもあるため、萌夏の態度も自然と身についたものだ。父以外の家族や使用人、友人には素の自分で接している。
「何年か前にお前がお嬢様としてみられたくない理由を私に話してくれたと思うが」
「はい。お父様以外には話したことはありませんが……」
「それでお前に会わせたい人がいるんだ」
「え? 突然ですね…… それは一体誰なのですか?」
「会えば分かるだろう」
「はあ、そうですか」
「うむ、なので明日は学校を休んでもらう。色々と準備があるからな。それにこれはお前の心に残った蟠りを晴らせるチャンスだからな」
「そ、それほどですか……。しかし、学校を休むほどなのでしょうか?」
「ああ、だからその時に備えておくこと。今日は早く寝るんだ。良いな」
「分かりました。それでは失礼しますお父様」
「うむ」
そして萌夏は書斎を後にし、自室へと戻った。最後に父が言った言葉――お前の心に残った蟠りを晴らせるチャンス――が気になるが、言われたとおり備えておくことに越したことはないと考えた。萌夏は学校の課題や準備などを済ませ――途中スマホの通知音が鳴ったが、確認することなく――お風呂に向かうのだった……
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