第9話 再会
「昔話?」
「ああ、俺の小学生の頃の話だ」
そう前置きをしてから悠人は過去を語り出した。
「……今まで皆に言ってなかったと思うが、俺には父がいない。正確に言うと小学生の時に死んだ」
「え?」
萌夏たちは絶句した。確かに母親の話はよく出てきたが、父親の話はこれっぽっちもなかったからである。でもまさか亡くなっているだなんて。
「俺は父さんっ子だったからな。死んだときはしばらく立ち直れなかったよ。でもそれは母さんも同じだった。それで俺と母さんは話し合った結果引っ越すことに決めた。父さんのいない悲しみを少しでも和らげるために」
「そんなことが……」
「それでな、丁度その頃俺はクラスの女子に恋をしていたんだ」
「何だよ悠人。ませてんな~」
「うるせーぞ光輝。だがそいつは俺のことを見向きもしなかった。それどころか多分俺がいたことにも気づいてないだろうな」
「……どういうことだ?」
「そいつは学校でも有名なお嬢様だったんだよ。しかも、ことあるごとに家の名前を出すな。だから近づきたくても近づけないような奴だったんだ」
「うん」
「それからも俺は話しかけることもなくただ刻一刻と時間は過ぎていった。そしてとうとう俺が転校する日が来た。俺は仲の良かった友達に別れを告げて、特に送別会を開いてもらわずにいなくなる予定だった。だがその日はなぜかそのお嬢様が一段と強気でな。保護者の目の前なのにいつも以上のことをしでかすもんだから、父親に怒鳴られていたな」
「……何かその話さっきも聞いたような気がするんだが……」
「うん私もそう思った」「ああ」「ええ」
「そしてその日の夕方、俺は住んでいた街を歩いた。慣れ親しんだ街と別れるためだな。そしてふと公園に立ち寄ったとき出会ってしまったんだよ。泣いている女の子に。そのお嬢様に」
「ちょ、ちょっと待って悠人! それじゃあ」
「俺もたった今まで忘れていたよ。初恋は諦めたし、何しろ5年も昔だからな」
「じゃあ私が探してる男の子って言うのは――――悠人なの?」
「信じられない話だが、きっとそうだろう。あまりにも話が似通ってるし、状況も全く同じだ」
「じゃあ悠人なのね! 私を変えてくれたのは悠人だったのね! やっと、やっと会えたわ」
「ああ」
悠人と萌夏は5年越しの再会を喜んだ。それはそこにいる他の皆も同じで、2人の再会を大いに喜ぶ――――光輝がこんなことを言うまでは
「と言うことはよ。お前ら両思いだったってことか」
「「え!?」」
「確かにそうね。話を聞く限り、どちらもそれぞれに恋してたみたいだし」
「……なあ萌夏」「……ねぇ悠人」
「「ああ、ごめん」」
「萌夏から先に言って」
「うん分かったわ。それでだけど私たち付き合う?」
「俺もそれを聞こうと思ってた……でも友達のままでいないか?」
「……そうね。私たちは友達であるときの方が恋をしていたときよりも長くなってしまった。もう悠人に恋心がないわね」
「悪いが俺も同じ意見だ。俺たちは友達のままでいよう」
「2人はそれで本当にいいのか?」
「おう」「ええ」
「なら何も言わねぇよ。これからも俺たちと仲良くやっていこうぜ」
「そうだな」「そうね」
「まあ萌夏があのときのお嬢様だったとはな。全く変わっちまったから気づかなかったよ」
「私も変わらないと合わせる顔がないと思ったからね」
「……待って佐々木原さん。と言うことは明日会う予定の人と転校する話はどうなるの!?」
「あ、そうだよ!! 佐々木原。悠人がそうだと分かったんだからそいつに会いに行く必要なくないか!」
「そうね。今すぐお父様に電話するわ。私はまだここにいたいからね」
萌夏はそう言って階段の踊り場まで行って電話をかけ始めたようだ。
「……まさかこんな偶然があるなんて驚きね」
「俺が一番驚いてるよ。まあこれで萌夏の転校がなくなればいいんだがな……」
「どういうことよ!!」
そこで萌夏の怒号が聞こえてきた。どうやらそう甘くはないようだ。
「何でその男に会いに行かないと行けないのよ!!」
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