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八話 にけんめ

 二番目は、103号室。

 102号室との間にある壁をとりはらって、二部屋分のスペースを使えるように改築されている。


「もとは102号室も独立してあったけど、そっちで神隠しが起きて……。あー神隠しって分かります? 人が急に行方不明になるの。102号室の入居者が続けて何人も行方不明になっちゃったんで、大家さんが壁をぶちぬいて103号室と合わせちゃったんですね。今でいうリノベーション? ああいうのって普通に家を建てるより割高って言いますけど、どうなんですかねー? 建てたことないからわっかんないや」


 メリアは饒舌じょうぜつに語りながら、蓮が照らす道を進む。


 間取りは、103号室分が広いリビングダイニングになっている。

 ダイニングから伸びる廊下の左右に個室があり、そちらが今は無き『102号室』のようだ。


「ここには仲のいいご夫婦と、可愛いお子さんが住んでいました。だけど、問題の102号室の方の子ども部屋で、お子さんがこつぜんと消えてしまったそうですー。ショックを受けたご夫婦は後追いで自死。こうなると怨念めいたなんかを感じるわー。こわいこわい」

「メリアさん、そちらは行方不明者が出る部屋です」


 廊下へ足を向けたメリアを、蓮は注意した。

 目の前で行方不明になられてはさすがに困る。


 歩みを止めないメリアは、カメラを動かさずに顔だけで振り向いた。


「ん、いいところなんだから邪魔しないで」

「入らない方がいいと思います……が」


 蓮は、ぞわりと怖気おぞけだった。


 メリアの後方、右手側にある個室の扉が、音を立てずに開いていくのが見えたのだ。

 部屋の中から壁伝いに伸び出てきたのは、黒い髪の毛。


 ぞわぞわと壁を侵食していく髪につづいて、女性の頭部が現われた。

 頭部は床を引きずられて、ずるずると音を立てる。


 首には、体がついていない。

 体があるべき場所には、自死に使ったと思われるロープが垂れている。


「メリアさん!」


 蓮は声を張りあげた。


「戻りましょう。ここには出ません」

「へいへーい。蓮花くんがそう言うんで、出ましょうかー」


 メリアが言うことを聞いてくれたので、蓮はひとまず安堵した。

 彼女の足下を照らして部屋の外へと導いた蓮は、ふと思い立ってライトを個室の方へ向けた。


 黒髪も頭部も消えていたが、かわりに、ぼろぼろのぬいぐるみを抱えた女の子が廊下の真ん中に立っていた。


「うるさくしてごめんね」


 蓮がつぶやくと、女の子はこっくり頷いてもとの部屋に戻っていく。


 その姿を見て、『彼らは行方不明ではない』と蓮は思った。

 生きる場所が、すこし違ってしまっただけなのだ。


 部屋の中から聞こえる楽しそうな団らんの『声』は、そちら側が不幸なんかじゃないと証明していた。

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