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七話 いっけんめ

 まずは101号室。


 メリアは、器用に片手でカメラをかまえながら、大家から預かったマスターキーを扉の鍵穴に差しこんだ。

 ライブ配信はもうはじまっている。


 助手である蓮は、画面に姿が映らないよう、メリアの後方に立っていた。


「ここでは殺人があったみたいですー。母親の介護に疲れた五十代の息子が手をかけたって、全国ニュースにもなりましたー」


 開かれた扉の先をライトで照らす。


 小さな三和土たたきは、大小さまざまな虫の死骸が散らばっていた。

 舞い上がった埃が光を反射して、室内はよく見えない。


「んじゃ、入ってみましょうー。あ、そうでした。今日は助手がいます。ライト少年の蓮花クン。いや、彼氏じゃないっすよ? でも可愛いんで、もし評判が良ければレギュラーありだと思います!」


 カメラの内蔵マイクに向けて語りつつ、メリアはつかつかと室内に立ち入った。


 そして、錆びついたキッチン台を。

 天井からつり下げられた裸電球を。

 床板がはげた部屋を。

 破れた障子を。

 順番に映していく。


「話題がそれた。んでね、殺した理由がひどくって。殺されたお母さんは足が不自由で車椅子生活だったらしいんだけど、『散歩に出たい』って言ったら『こんな雨の日にか!』って息子が激昂したんだって。あとは、手近にあった硝子の灰皿で、ガツンガツンと何度も何度も、頭蓋骨が陥没するくらい殴ったんだって」


 部屋の床板には、丸いへこみが四ヶ所あった。

 長い間、介護用のベッドを置いていたようだ。

 間取りは1Kだから、被害者と加害者は同じ部屋で寝食をともにしていたのだろう。


 蓮は、カメラの動きに合わせて辺りを照らしながら、ちらりとメリアを見た。


 彼女はとても生き生きとしていた。

 高揚状態で、心霊スポットに踏みこんでいる恐怖が吹き飛んでいるようだ。


(耳をそだばてる冷静さがあれば聞こえただろうに)


 雨音にまぎれて響く、母親の断末魔が――。


「蓮花、なにかいる?」

「いいえ。いません」

「んじゃ、次いこうか」

「はい……。っ!」


 異変は、次の部屋を目指そうとしたときに起こった。

 むき出しの壁に、突如として真っ黒い線がひかれたのだ。


 線は、ミミズのようにたわんだ後、ぎんと開く。

 露出したのは、大きな目玉だった。


 血走った眼球が、壊れたおもちゃみたいにグルグルと部屋中を見回す。


 見つかる。

 本能的な恐怖をおぼえた蓮は、ライトを下げて足早に101号室を出た。


 いささか乱暴に扉を閉じて、ドクドクと鳴る胸を片手でおさえる。

 一瞬だけ、視線が合ったような気がした。


 ――今のは、どちら(・・・)の目なのだろう?


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