6.サービス開始
サービス開始日当日。
最初の街であるアークスで宿を取り、起きた。
ワールドクロスオンラインの時間は、現実世界と連動している。
なので、ワールドクロスオンラインで朝なら、現実世界も朝なのだ。
ぶっちゃけ、HPとMPは街に居るだけで回復していくシステムだ。
いや、正確には武器を構えなければ、だ。
回復させる為に宿を利用する必要は無い。
なら何の為にあるのか。
それは……まぁ、こういう世界だからこそ、そういう事をする大人な方達も居るわけでして。
俺には縁のない事ですけどね。
気を取り直して宿の外に出る。
それと同じタイミングで、姉貴からチャットが届いた。
レイ"ミリア、起きてる?"
ミリア"起きてるよ。そっちは落ち着いた?"
レイ"ええ、後は開始時間まで待機するだけよ。今日は色々と忙しいから、あんまり連絡出来ないと思うけど、何かあればすぐに言いなさいよ?"
ミリア"うん、分かってるよ姉貴。ありがとう"
俺の心配をずっとしてくれる姉貴に、感謝を伝える。
仕事で忙しいのは分かってる。
だからこそ、その合間にこうして気にかけてくれるのが嬉しかった。
いつか本当の自分のアカウントが取れたら、実際にやってみるのも良いかもしれないな。
レイ"そういえばミリア、ペット当てたのね。凄いじゃない"
ミリア"ああ、現実世界でこの運を発揮したかったよ"
レイ"給料をどう使おうと、何も言わないけど……ほどほどにしておきなさいよ?使うならこのゲームに使いなさい、還元されるんだから"
そもそもこのゲームをプレイする気が無かったんですけどね!
ミリア"へいへい。後、今日ってイベントとか何かするの?"
レイ"流石に当日はしないわ。皆システムを把握するのに時間掛かるでしょ?でも、3日後には全ユーザーが楽しめるイベントを提供するつもりだから、楽しみにしておきなさい"
ミリア"それ、俺が参加しても良いものなの?"
俺のステータスは、他の人よりかなり成長率が高い為、いわゆるチートキャラだ。
そんな俺が、参加して良いとは流石に思えないのだ。
レイ"ああ、ミリアには敵側になってもらうわ"
はい?敵側?
レイ"詳しい事はまた後で話すから。それじゃ、気を付けてねミリア。貴女今美少女だって事、忘れないでね"
言いたい事を言って、姉貴はチャットを落とした。
美少女なのは分かってるけど?
なんせ俺が最高に可愛いと思うキャラクターをクリエートしたんだから。
ただ、この時の俺は、本当の意味で、美少女になっているという意味を理解していなかったのだ。
サービス開始の時間。
続々と、NPCだけだった広場に、プレイヤーが転送されてくるのが見える。
キャラクターメイキングを終えた人達が、所狭しと集まっている。
早速ガチャをしているのか、色々なアバターの人が居る。
俺はというと、皆を見渡せる位置のベンチで座っていた。
どれくらい人が集まるのか、興味があったからだ。
でも、それが不味かった。
俺は自分の外見を忘れていた。
いや忘れていたわけじゃないけど、自意識が低すぎたのだ。
VRゲームでは、現実の顔がアバターのベースになる。
つまり、美少女アバターをしてる奴は中身も美少女って相場が決まってるわけだ。
俺は例外中の例外なわけだが、それを知る事は普通できないわけで。
「君可愛いね!もし良かったら、フレンドにならない?」
「お前、抜け駆けすんじゃねぇよ!俺、俺とフレンドになろうよ!俺前作でもソコソコ有名なプレイヤーでさっ!ガゼルって言うんだけど――」
等々、さっきから周りが五月蠅い。
俺はどちらの方も向かず、下を向いて聞き流していた。
それが周りの目にどう映ったのかは知らないが、女の子が気付けば目の前に立っていた。
「アンタ達!その子困ってるじゃないのよ!その見た目よ、まだ幼い子だって分かるでしょ!?そんな子が私達と同じようにゲームを楽しみにきてくれてるのに、嫌になって来なくなったらどう責任取ってくれるのよ!?」
耳が尖った、正義感の強そうな顔をした子に大声で言われ、周りの男達は謝りながら、この場を去って行った。
悪気があったわけじゃないんだろう。
それは、何も言い返さずに去って行った事から分かる。
「いきなりごめんね。困ってるように見えたから……」
そう困ったように言ってくれる女性に、こちらも礼を返す事にする。
「いえ、ありがとうございます。俺も何か言えば良かったんですけどね」
「可愛い見た目で、俺っ子なんだ……!」
なんか驚いた顔をしている。
ってしまった、つい姉貴に話すのと同じ癖で俺って言っちまった!!
しかし、一度言った以上、もう通すしかないだろう。
小生意気な少女と思ってもらおう……。
「えっと、お姉さんは……」
多分、見た目的に高校生くらいだろう。
確実に俺より年下だが、それを言っても絶対に信じてもらえないだろうから、もうお姉さんで通す事にした。
「あ、私はリーズって言うの!種族は亜人のエルフを選んじゃった!」
そう笑顔で言うリーズは、ファンタジーのエルフそのままの見た目をしており、髪の毛は薄い緑で、服も森の民のような、ローブを着ていた。
横から素肌が見えていて、ちょっとエロイ気がするのは、俺の心が穢れているからだろう。
「俺はミリア。えっと、多分人間です?」
俺の返答に、リーズは笑い出した。
「あははっ!天使の翼が生えてるのに、人間って言うのは無理があるよー!」
しまったぁぁぁ!キャラクリで創ってたの忘れてたぁぁぁっ!!
ど、どうしよう、そうだっ!
シュン!
背中の翼を取る。
そう、着脱可能なのだ、この翼は。
「これ、アバターだから」
「そういえば、天使は普段翼を仕舞っておけるんだよね!」
ダメだ、信じてもらえない。
まぁ、もう良いか……翼を再度取り付ける。
「ミリアちゃん、もし良かったら、これも何かの縁だし、一緒にプレイしてみない?私も来たばかりだから、ストーリーも一切進めてないんだー」
そう笑顔で言ってくれるリーズ。
まぁ、どうせ当てもない。
「うん、良いよ。よろしくリーズ」
その言葉に、ぱぁっと更に笑顔を深めるリーズ。
「ありがとうっ!私前作も同じ名前でしてて、結構勝手を分かってるから、頼りにしてね!」
こうして、俺はリーズとパーティを組む事にした。