29.ワールドクロスオンライン
「というわけで、また復帰します。ご迷惑をお掛けしてすみませんでした」
いつもの部署に出勤し、姉貴が皆を集めてくれたので、そう挨拶をする。
ざわざわとしているが、それも仕方のない事だろう。
「あ、あの、部長。こここの子が本当に孝弘君、なんですか?」
恐る恐ると言った感じで、黒川さんが姉貴に確認をする。
「ええ、そうよ。皆はミリアとして見てきたでしょ?」
皆、衝撃を受けているのが分かる。
俺だってそうだけど。
「え、えっと孝弘先輩、なんスよね?」
「だからそう言ってるだろ山田」
俺がそう言ったら、山田が震えだした。
「た、孝弘先輩!結婚を前提にお付き合いして欲しいっス!!」
山田の言葉に俺はずっこけそうになった。
「おい、俺は男だぞ!!」
そう答えたのだが……
「おい山田抜け駆けすんな!孝弘君、いや孝弘さん!俺と良ければ付き合ってくれませんか!?」
「いや俺と!!」
……頭が痛くなってきた。
こいつら、超エリートな高給取りで優良物件のくせに、独身が多いんだよな。
まぁ、家庭を持つのが難しい、家庭の時間があまり持てない仕事柄、同じような仕事をしている人と結ばれる事が多いとは聞いているが。
パンパン!
「はーい、孝弘は高いわよ?まずは私から認められる事が前提だからね!」
「「「うっ!!」」」
姉貴が締めたけど、ちゃんと終わってないような締め方でげんなりする。
俺はこの中で今まで通りやっていけるのか?
「孝弘には、今まで通りミリアとしてしばらくログインしてもらうのが仕事になるわよ」
「へ?そんな事で良いのか?」
またバグ検証が溜まってるんだろうなって思っていた。
正直ひょうし抜けなんだが。
「いや、むしろそれが一番大事だよな」
「うん、マジで言えてる」
「一部の影響力のあるプレイヤーが、ここ最近めっちゃ嘆いてるしな」
「そうそう。影響されてるわけじゃないだろうけど、ミリアちゃんを見なくてプレイヤーが探しまくってるのを見かけるし」
マジでか。
少し居ないだけで、そんな事になってんの?
「ふふ、そういうわけでね。寮もすぐそこだし、なんなら寮でログインしていても仕事と見なしても良いわよ。皆も異存ないでしょ?」
「「「ないでーす!!」」」
なんだこの一体感。
まぁ、でもなぁ。
「いや、仕事中のログインはここでするよ。寮では、仕事関係なく遊ばせてほしい」
そう、仕事としてのログインと、遊びのログインはやっぱり分けたい。
もうこうなった以上、アカウントを消すとかできないしな。
なら、楽しめるだけ楽しもうと思う。
「オーケー、分かったわ。それじゃ早速、お願いね?皆も仕事に戻りなさいね」
「「「はいっ!」」」
そうして、俺はまたワールドクロスオンラインの世界へと旅立つ。
ログインして目が覚めた場所は、いつものアークスの宿。
階段を降り、外に出る。
すると、たくさんの視線を感じた。
「「「ミリアちゃんっ!?」」」
そうして、皆が集まってきた。
うぉい、驚くよ流石に!?
「今までどこに行ってたの!?他の大陸!?」
「たまにで良いから、アウストロンにも顔をだしてくれよぉ!おじさん寂しくて死んじゃうかと思ったよ!!」
「おじさんは言いすぎだけど、もうログインしてないんじゃないかって心配だったんだからね!」
等々、色々と言われる。
その全てに返事を返していたら、見慣れた姿を見つける。
そして、目が合った。
「ミリア、ちゃん?」
「よっ、久しぶりだなリーズ」
「ミリアちゃんっ!!」
俺の名を呼んで、抱きついてくるリーズ。
「良かった、探しても探しても居なくて、他の大陸に行ってるのかと思って、掲示板とか覗いても、皆見ていないって……心配、したんだからねっ!!」
そう言ってくれるリーズに、俺は姉貴のように頭をポンポンと叩いてから、言葉を掛ける。
「ごめん。ちょっと用事があって、片づけてたんだ。これからはまた、一緒にプレイできるよ」
そう言ったら、リーズは凄く良い笑顔をしてくれた。
「ホント!?なら、今はまだパーティ組んでないの!?」
「え?うん、まだだけど……」
そう言った途端、アークスの街で決闘の嵐になった。
「ミリアちゃんとパーティ組むのは俺だぁぁぁ!」
「何言ってやがる!俺に決まってるだろ!!」
「アンタ達、私を差し置いて何言ってるのよ!?」
「面白い、まとめてかかってきやがれ!」
「「「オーケー!!」」」
「お前ら本当に来るとか酷いだろっ!?」
……なにやってるんですかねぇ。
俺は皆を見ながら呆れつつも、つい笑ってしまった。
「にゃー、にゃん♪ごろごろ……」
久しぶりに会うクロも、なんだか甘えてきて可愛い。
しばらく見守っていたら、リーズとプリハドールが抜け出してきた。
で、こっそり申請が来たので、入る事にする。
「あは、それじゃ今のうちに行っちゃおっかミリアちゃん!」
「ですわね!次のダンジョンがきつくて困ってましたの。でもミリアちゃんが居れば、きっとなんとかなりますわ!」
ちなみに、今の俺は種族が文字化けしていたのが、天使になっていた。
成長率も天使のそれになり、ステータスは大分落ち込んだ。
けれど、スキルを覚えていたのはそのままだった。
姉貴も、どうせ転職したらSPに戻るし、良いんじゃない?という事で、そのままだ。
なので、俺にはもう強者のステータスはない。
俺も一般プレイヤーと同じだ。
アイテムボックスも、通常に戻ったし。
まぁ、これが普通だ。
与えられた中で、強さを上げていくのがゲームの醍醐味だしな。
「これだけ離れたら大丈夫かな。転送の巻物を使うね」
「ええ、お願いしますわ」
プリハドールが返事をし、リーズが転送の巻物を使う。
転送された場所は、俺の見た事もない街だった。
「ミリアちゃんはここ初めてかな?」
「うん、俺は初めてかな」
「それじゃ、先に街を案内しましょうか。アークスに居なかった方々も、ミリアちゃんを見たら喜びますわよ」
「うん!そうしよっか!あ、でもその前にガンツ達と合流しないと、またパーティ争奪戦にならない?」
「それもそうですわね……」
なんて二人が言う。
あれ?でも確か、ユリウス達って6人居たから、俺が居たら1人あぶれてしまうんじゃ?
そう考えていたら、リーズが答えてくれた。
「あ、ミリアちゃん、人数で悩んでるのかもしれないけど、基本ユリウスって1人で行動するから。それに今は、ミリアちゃんに勝ちたくて熱心に鍛錬してるみたいだよー」
その言葉に苦笑する。
ユリウスは、全プレイヤーの中でもトップ3に入るほど強いとされている。
そんな人に狙われている俺って一体。
俺も強さを磨かないと、すぐに倒されてしまうのは悔しいからな。
「あ、ミリアちゃんが戦士の顔してる」
「ふふ、本当に分かりやすいですわね」
そんなに俺は顔に出るのだろうか?
そうして歩く事少し。
バリアとガンツ、モンドと合流し、街の案内をしてくれる事となった。
途中の服屋で着せ替え人形になったり、ペット屋に寄って、クロを着飾ったりした。
ペットコンテストなるものが、あるようなのだが……参加者が少なくて開催延期となった模様。
せ、切ない!
「私、結構課金したのに、まだペット出ないの……ミリアちゃんが羨ましいよぅ!私も猫が欲しい~!」
「私はトラが欲しいですわ……でも、出ないですの……」
二人が沈んでいる。
そんな中で、バリアが悲しそうに言った。
「お前ら、当たっても使えないペットだって居るんだぞ……これ、何に使うんだ?」
そう言ってバリアが見せてくれたペット。
ぬりかべ?でっかいコンニャクがふよふよと立っていた。
「バリア、防御が滅茶苦茶高いとかじゃないの?」
俺の疑問に、バリアが悲しげに答えてくれた。
「いや、それなら俺も使えないとか言わないさ。こいつ、全ステータスが1なんだよ。どうなってるんだよこれ」
え?いや、ペットは全部高い能力を有してるはずだぞ?
おかしいな……そう思ってぬりかべをよく見る。
うん?なんかこれおかしくない?
「なぁバリア、値札みたいなのついてるけど?」
「え?なんだこれ?」
そう言ってバリアがその値札を引き抜く。
すると、ぬりかべはバフンッという音と共に、ハズレという字幕が流れた。
流石にこれには全員呆気にとられ……俺は我慢できずに笑い出してしまった。
「バフンッて!ハズレって!もう駄目、お腹痛い!」
笑い転げる俺に、皆もつられて笑い出した。
ハズレを引いたバリアも
「そりゃ全ステータス1なはずだよ」
って笑ってた。
ただ、これも用途次第では使えそうだよね。
見せかけの壁というか。
このワールドクロスオンラインには、一見無駄に見えるものも、実は使い道が存在する場合が多い。
今も笑っている皆を見ながら、気分は快晴のように晴れやかだ。
俺は、いつの間にかこの世界が好きになっていたんだな。
クロの頭を撫でながら、俺は思う。
これからも俺は、この世界を楽しもうと。
~FIN~
最後までお読み頂き、本当にありがとうございました。
初のジャンルでしたが、楽しく書けました。
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再度になりますが、ありがとうございました。




