2.今日から俺は
ワールドクロスオンライン。
七つの大陸が空に浮かび、移動している世界。
プレイヤー(ユーザー)は、そのうちの六つの大陸から、自分が活動する大陸を選ぶ事になる。
まず、人族がNPCとして存在する大陸で、俺達運営側は第一サーバーと呼んでいるアウストロン。
次に亜人がNPCとして存在する大陸で、第二サーバーと呼んでいるエウロラ。
長くなるので略するけど、天使が第三サーバーでユートピア。
悪魔が第四サーバーでデストピア。
精霊が第五サーバーでスピリチュアル。
竜人が第六サーバーでドラゴンドレッド。
という具合に、それぞれ独立したサーバーで存在している。
で、各大陸は一定周期で、他の大陸と合わさる。
この状態になった時、サーバー対決に移行するシステムだ。
例えば、第一サーバーであるアウストロン大陸と、第二サーバーであるエウロラ大陸が合わさった場合、両サーバー同士で様々な競い合いが始まる。
競うのは戦いだけではなく、芸術などもあり、歌や踊り、果てはオリンピックのようなものまで開催されるのだ。
この合わさる事をクロスすると言い、このVRゲームの目玉となっている。
要は、サーバーで大規模なプレイヤー同士の戦いとなるからだ。
また、NPCも独自のAIを積んでおり、人間と同じように思考し、行動する。
NPCだからってなんでもして良いと考えるプレイヤーを抑制する為、プレイヤーとNPCの違いは分からないようにされている。
またNPCの中には、運営側の人間が多数存在しており、不正なプレイヤーがいないか見回っている。
NPCのAIからも情報は伝わってくるので、悪質なプレイヤーはアカウント凍結の措置をとる事になっている。
ちなみに、アカウントの登録には住所と名前、また体格の情報をインストールする為偽造もできなくなっており、一度凍結されてしまうと、二度とこのゲームをプレイする事はできない。
これも、健全にゲームを楽しんでもらう為の運営側の配慮だ。
長々とゲームの説明をしたけれど、問題なのは……そのゲームの中に、俺が自分で創った美少女として、過ごしていかなくてはならなくなった点だ。
ゲームからログアウトが出来ない。
そんな状況を想定できるわけがない。
姉貴は調査してくれるって話だけど、それもすぐには判明しないだろうし、これからサービス開始の忙しい時期だ。
それも分かってる。
「姉貴、俺の事は落ち着いたらで良いからさ。俺の体、頼むよ?」
「孝弘……。ええ、その点は安心しなさい。長くなりそうなら、提携してる病院に搬送しておくから。それよりも、孝弘のキャラクターなんだけど……」
姉貴が珍しく歯切れが悪そうに言う。
「何か問題があった?」
なので、俺から聞く事にした。
こんな事があったんだ、もう何を聞いても驚きはしない。
「その、ね。こちらからの操作を、受け付けないのよ。ほら、快適にプレイさせてあげようと思って、ステータスを最強にしてあげようと思ったんだけど……孝弘の、ミリアっていうキャラクターが、その世界に存在しないの」
「はぁっ!?」
ステータス関連はこの際どうでも良い。
だけど、俺が存在しないってどういう事だ!?
「だから、気を付けて。通常、プレイヤーは死んでも復活ポイントで復活できるけど、もしかしたら孝弘は……そのまま死んじゃうかもしれない」
衝撃だった。
確かに、俺という存在を運営側ですら把握できないんじゃ、ヤバイ気がする。
「姉貴、俺のステータスは見れる?」
「ええ、今はそこに映ってるから、見れるわよ。まぁバグ調査に作ったのが幸いしたわね。全部の『スキル』や『アーツ』、『アビリティ』を習得できるじゃない」
ああ、そういえば。
普通、『スキル』や『アーツ』、『アビリティ』といった項目は、職業毎に覚えられる物は決まっていて、必ず覚えられない物がでてくる。
一人で全ての事をこなせるプレイヤーはできない作りになっている。
だが、俺の創ったキャラクターであるミリアは、元々が遊ぶプレイヤーとして創ったわけじゃない。
バグを検証する為、全ての『スキル』や『アーツ』、『アビリティ』を習得する必要があった。
だから、なんでも覚えられる状態で創ったのだ。
ただし、この世界の『セット』できる『アーツ』は10個。
『スキル』も10個で、『アビリティ』は5個までとなっている。
都度目的に合わせて組み替えなければならないのだ。
「あー、それは助かるな。成長度ってどうなってる?」
「全部EXよ。魔王プレイが楽しめるわね孝弘」
おぅ……。
キャラクターには成長度が決まっている。
例えば人間だとこうなる。
力 B
魔 B
体 B
速 B
器 B
魅 B
まぁオールマイティって感じかな。
これが天使だとこうなる。
力 C
魔 A
体 C
速 A
器 C
魅 A
総合的な差はあまりないのだが、成長に差は出るようになっている。
これに、職業補正も合わさって、ステータスが完成する。
ちなみにレベルはキャラクターだけでなく、職業そのものもあり、ステータスはキャラクター+職業の合計値だ。
転職した場合、一度なっていた職業の10%のステータスを引き継ぐ。
要は、色んな職業のレベルを上げれば、どんどん強くなれるのだ。
この成長率も上げれるアイテムが存在し、転生をしたら転生する前のステータスを10%引き継げるなど、育成要素は多岐に渡る。
装備も色々な強化を施せるし、料理にも様々な効果を及ぼす物を作れる。
錬金術などももちろんあるから、武器を使わなくても道具で倒す、なんて事も可能なのだ。
自分のやりたいように楽しめる世界、それがワールドクロスオンラインの世界だ。
まぁ、自分がその世界から出られなくなるとは思っていなかったんだけども。
「それで姉貴、俺をこの大陸から移動させる事はできる?サーバーは別にどこでも良いんだけど」
死ぬかもしれないという可能性がある以上、この場でじっとしているのが正しいのかもしれない。
けれど、何もしないでただこの狭い空間でじっとしている、というのは……いつ出れるかも分からないのに、精神が死んでしまいそうだ。
それなら、まだこの世界を見て周っている方が良い。
「そうね、ちょっと待って。ええと……孝弘、というかミリアを選択は出来ないけど、その場にワープポイントを設置する事はできるわ。それで、孝弘の好きな大陸へ行きなさい」
好きな大陸、か。
正直、俺は運営側の人間として、ゲームを普通にプレイするなんて考えた事もなかった。
だから、別段何かに思い入れがあるわけじゃない。
ただ、自分達の創った世界を、どんな人達が楽しんでいるんだろう、という想いはあった。
確か、正式サービスは明後日。
それまでに、少しこの世界を見て周っておきたい。
人でごっちゃがえる前に。
「それじゃ、ワールドクロスオンラインの世界を、楽しんでね孝弘、いえミリア。グッドラック」
そう姉貴が言ってチャットを終えると、目の前に6つの黒いゲートが生まれた。
矢印とそれぞれの大陸名が文字で描かれている。
さて、行くとしますか――
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