21.VSレッドドラゴン
バリア達とパーティーを組んだ俺達は、破竹の勢いで攻略を進められた。
群れで襲い来る敵を、全てバリアが引き受けてくれる。
流石に敵の数が多すぎ、効かない敵もいくらか出てくるのだが、それらはリーズの弓とガンツの銃で撃ち抜かれる。
バリアの方を向いたモンスターをモンドがタコ殴りにし、プリハドールがスキルで焼き払う。
これが、人数の多いパーティー戦。
それぞれが役割をしっかりこなして戦うのって、こんなに楽しいのか!
もちろん俺も何もしてないわけじゃない。
敵の居る位置を知らせて、こちらから先制を仕掛けるようにしている。
うむ、あの時受け入れて正解だったな。
☆☆☆☆☆
「って言ってるけど、どうするミリアちゃん?」
バリアに誘われたリーズは、俺に尋ねてくる。
後ろのガンツにモンドが、驚いた顔をしているのが分かる。
多分、リーズがリーダーだと思っていたんだろう。
「驚いたな、やはりリーズがリーダーじゃないのか?」
「うん、私よりミリアちゃんの方がずっと強いよ?ステータスの話じゃなく、ね。あ、多分ステータスも負けてると思うけど」
三人が物凄く驚いた顔をしている。いや一名分からんけど、多分。
「リーズがそこまで断言するとは……噂には聞いていたけど、本当に凄いんだなミリアちゃんは……」
そう言ってくれるけど、さてどうしたものか。
この3人は、このダンジョンの攻略法を知ってるみたいだ。
そして、リーズ達の友達みたいだし。
「うーん、俺は構わないけど、二人は良いの?」
だから、俺も聞いてみる事にした。
二人が嫌なら、断るつもりだ。
「ふふ、ありがとミリアちゃん。大丈夫、こいつらは信じられるよ。私達がピンチの時だって、見捨てずに一緒に戦ってくれた信頼できる奴らだから」
「ええ、その点は私も保証致しますわ。彼らほど安心して仲間に誘える男性は居ないですわね」
二人の女性に手放しで褒められた3人は、顔が赤くなっていた。いや一人は以下略。
「そっか。なら歓迎させてもらうよ。そっちのパーティーに組み込まれる形で良い?」
「いや、こちらから持ち掛けた話だし、俺達が入るよ。申請してくれないか?」
別に誰がリーダーになっても構わないんだけどな。
特にリーダーだからって何かあるわけじゃないし……。
あ、クロスアーツの繋げやすさが若干補正掛かるんだっけか、隊長のアーツやスキルに繋げる場合。
隊長からはないけど、俺の場合それは良い。
結構重要な補正があったか。
「それじゃ、よろしくね」
「「「ああ!」」」
こうして、気の良い奴らとパーティーを組む事になった。
☆☆☆☆☆
そうして、6人パーティーになってから、実にあっさりとボス前までついてしまった。
「凄いっスね、安定しすぎて怖いくらいっスよ」
「やっぱり『索敵』持ちが居てくれるのは助かるな」
「ヘイトを一身に受けてくれる人が居てくれるのも助かるよ」
「はは、そう言ってくれると嬉しいな」
皆で軽口を叩く。
今からボス戦だ、緊張を少しは解しておきたい。
「ここのボスの情報ってある?」
俺は知らないので、聞いておく事にした。
すると、バリアが答えてくれた。
「確か、エルダーグリズリーだな。名前から分かると思うが、でっかい熊だ。その攻撃力の高さから、ここまで引きつれたタンクでも即死する威力と聞いている」
おいおい、攻略にタンクが必要なのに、そのタンクを瞬殺するとか初見殺しすぎるだろ。
「だから、この熊の攻撃は避ける必要がある。俺も『パリィ』のアビリティは覚えているが、過信はできない」
『パリィ』とは、敵の攻撃に合わせる事で、回避するアビリティだ。
剣でも出来ない事は無いが、基本盾を使うアビリティなんだが……。
「そういう事なら俺に任せて。俺が熊の攻撃を全て引き受ける。皆は攻撃に集中して」
「うん、分かったミリアちゃん」
「ええ、お任せいたしますわね」
そう二人が言ってくれるが、残りの3人は慌てた。
「お、おいおいリーズ、プリハドール!正気か!?」
「ミリアちゃんに全て引き受けてもらうって、そんな非道な事出来ないっスよ!バリアならともかく!」
「っておい!?俺はともかくってなんだ!?」
野郎共がギャイギャイとやかましいが、俺の事を想って言ってくれたのは分かるからなぁ。
「大丈夫、俺は一撃も貰わないよ」
ま、こんな見た目ガキの俺が言っても、信じてはくれないわな……。
そう思ったのだが。
「……そうか。分かった、リーズにプリハドールが迷いなく信じているし……俺もその言葉を信じよう。だけど、無理だと思ったらすぐに俺の後ろへ下がるんだぞ?俺もミリアちゃんが下がる時間くらいは、耐えて見せるから」
そう言ってくれるバリアに、ああこいつ良い奴だなって思った。
「うん、了解。ありがと、信じてくれて」
ちょっと恥ずかしかったので、横を向いてそう伝える。
「「ミリアちゃん、可愛いっ!!」」
二人の女性の餌食にまたなった。
これからボス戦だって分かってる!?
それから気を取り直して、扉を開ける。
すると、周りから熱気のようなものを感じる。
奥へ進むと、そこには、赤い竜が鎮座してました。
はい、レアボスをまた引き当てちゃいましたね、知ってた!!
周りの皆が言葉を失っているのが分かる。
熊だと思っていたら竜でしたとか、シャレにならん!
運営、お前もうちょっと考えろや!!
差がありすぎだろ!!
「嘘だろ……マジで竜とか……」
「ミリアちゃん、アビリティに『不幸』とか持ってたりしない?」
リーズがそう言ってくるけど、そんなアビリティが実在するので困る。
そして、俺は実はそれも持っている。
レベルは1だよ、上げるかそんなアビリティ。
でも『幸運』だって持ってるので、相殺されてるはず、だよ?だよね?
そんな事を考えていたら、眠っていたであろう赤い竜、表記はレッドドラゴンか。
目を開け、こちらを見てくる。
ヤバイ、あの挙動は多分!
「皆、散れ!ブレスが来るぞ!!」
「「「!!」」」
俺の言葉にすぐに反応した皆は、左右に飛んで分散する。
その直後、俺達の元居た場所は炎に包まれた。
しかも、消えていない。
恐らく、あの炎の場所に行けば、継続ダメージを受けるな。
ブレスを吐かせ続けたら、俺達は身動きが取れなくなる。
早急に撃破する必要がある。
それを一瞬で理解したであろう皆は、行動を開始した。
「レッドドラゴン!お前の相手は俺だ!『挑発』!」
バリアが、ヘイトを取る。
レッドドラゴンの瞳がバリアに向き、その巨大な前足でバリアを薙ぎ払う。
「ぐはぁっ!?」
一撃で、バリアは吹き飛ばされた。
パーティーのHPゲージを見るに、HPを4分の3失っている。
これはマズイ!
「バリアに回復を!こっちだデカ竜!『挑発』!」
バリアからヘイトを奪い返し、レッドドラゴンの視線をこちらに向ける。
再度前足を振るってくるが、俺は『跳躍』を使いそれを避ける。
いわゆる避けタンクというやつだ。
バリアがどれだけの防御力を有しているかは分からないが、俺と滅茶苦茶な差があるとも思わない。
一撃を受ければ、俺もヤバイと判断した。
「撃つよミリアちゃん!『スラッシュアロー』!」
リーズの放つ弓アーツに、俺も武器を瞬時に持ち替え同じアーツを重ねる。
『スラッシュアロー』は『アローツイスター』へと昇華し、レッドドラゴンへと突き刺さる。
更に、モンドが格闘アーツ『チャリオット』を放とうとしているのを見かけたので、弓を解除して合わせる。
「これを喰らうっス!『チャリオット』!」
「こっちもだっ!『チャリオット』」
二つの『チャリオット』は昇華し、『フラッシュチャリオット』となり、無数の乱打を浴びせる。
モンドが驚いた顔をしているが、今は気にしていられない。
再度『跳躍』で距離を開けた所で、ガンツがアーツを放とうと銃を構えているのが視界に入る。
銃は流石に挙動が分からないので、合わせる事は難しいが……このタイミングで使うアーツは予想できる。
外れたらその時だ!
俺は銃を装備する。
「こいつも喰らいなっ!『クイックショット』!!」
移動しながらの早撃ち。
そうだよな、それを選択すると思ってた!
「『クイックショット』」
『クイックショット』は昇華し、『エクストリームショット』となってレッドドラゴンを貫く。
しかし、これだけのクロスアーツを受けても、レッドドラゴンに怯んだ様子は見られない。
ターゲットは常に俺を向いている。
敵の挙動を確認しつつ、仲間の動きも把握する。
バリアはどうやらプリハドールの回復のお陰で全快したようだな。
レッドドラゴンの攻撃を回避しつつ、戦況を把握する。
こいつを倒すには、6人全員のクロスアーツを当てるしかなさそうだが、そもそも皆職種が違う為純粋なクロスアーツにはできない可能性が高い。
となると、クロスチェインを仕掛けるしかないな。
クロスチェインとは、アーツとスキルの組み合わせを人数分で行う複合技だ。
クロスアーツと違い、その組み合わせは固定されている。
今この場には、剣、弓、銃、格、魔の5タイプが揃っている。
なら、あのクロスチェインが使えるっ!
俺はレッドドラゴンの攻撃を避けながら、戦術を組み立てていたのだが、やはり考えと戦いの両立は難しい。
レッドドラゴンの尻尾を避けられなかった。
「ぐっ!?」
直撃した俺は、端っこまで吹き飛ばされる。
ごろごろと転がる俺に、駆け寄るプリハドールの姿が見えたが、その後ろにドラゴンの前足が迫るのも同時に見えた。
「プリハドール!後ろ!!」
「大丈夫ですわ!」
「俺が、させるかぁぁぁっ!!」
ドラゴンの前足を、バリアが『パリィ』をして受け流した!
やるじゃないかっ!!
プリハドールが俺に駆け寄り、『ヒール』を掛けてくれた。
俺も合わせ、チェイン『ハイヒール』となり、一気に全快する。
「ミリアちゃん、このドラゴンを倒すにはやはり……」
「うん、クロスチェインしかない。タイミングは刹那だし、初挑戦だけど……乗る?」
そう言ったら、プリハドールは素敵に笑った。
「もちろんですわっ!」
はは、やっぱりこのゲームに登録するだけあって、そういうの好きなんだな。
俺は皆に呼びかける。
「皆!クロスチェインを仕掛ける!この6人での組み合わせだ、分かるよな!?」
「「「おおっ!!」」」
皆が呼応してくれる。
良かった、皆その知識はあってくれた。
こればかりは、いちいち戦闘中に説明していられないからな。
「バリア、交代だ!『挑発』!」
バリアが再度タゲを受け持っていてくれたのを、引き継ぐ。
「すまんっ!」
後退するバリアを見てからレッドドラゴンに対峙する。
相変わらず巨大で、その威風堂々とした姿に気圧されそうになる。
だけど、今の俺は一人で戦っているわけじゃない。
それが、気持ちを奮い立たせてくれた。
「皆!このドラゴンがブレスを放った後!同時に仕掛けるぞ!」
そう伝える。
先程のブレスの後、このレッドドラゴンが一時動かなかったのを見ていたからだ。
ブレスの後の硬直、その間に、全員で仕掛ける!
行動を注視し、見極める。
攻撃を回避し続けていると、ブレスの挙動を感じた。
「皆!くるぞ!」
「「「!!」」」
一瞬の後、ブレスが俺目掛けて放出される。
俺はそれを、『カウンタースラッシュ』で斬り裂く!
「そのブレスの威力も、上乗せしてやるよっ!!『カウンタースラッシュ』!!」
「行くよっ!貫け!『ペネトレイト』!!」
「風穴開けてやるぜ!『マグナムショット』!」
「喰らうっスよ会心の一撃を!『クリティカルブレイク』ゥゥッ!!」
「貫け閃光の刃!『アトミックレーザー』!」
「これが俺の本気の一撃だぁっ!『メテオインパクト』ォ!!」
全員のアーツとスキルが、今重なる!!
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ミリアはアーツ『カウンタースラッシュ』を発動しました。
リーズはアーツ『ペネトレイト』を発動しました。
ガンツはアーツ『マグナムショット』を発動しました。
モンドはアーツ『クリティカルブレイク』を発動しました。
プリハドールはスキル『アトミックレーザー』を発動しました。
バリアはアーツ『メテオインパクト』を発動しました。
パーティーメンバー6人のチェインを確認しました。
チェインは昇華し、クロスチェイン『ジェネシスドライブ』を発動しました。
レッドドラゴンに169,945,367のダメージを与えました。
レッドドラゴンを倒しました。
26,003,000の経験値を得ました。
ミリアのLvが11上がりました。
おめでとうございます!
ミリア・リーズ・プリハドール・バリア・ガンツ・モンドのパーティが
ダンジョン:火竜の森林 (レアボス)を最初にクリアしました!
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火竜が消え、システムログにそう表示される。
ふぅ、なんとか倒せたか……流石に疲れたな、そう思って俺はその場に座り込んだ。
そこへ、リーズとプリハドールが駆けてきて、また抱きついてきた。
「やった、やったよミリアちゃん!」
「ええ、やりましたわっ!!」
二人が嬉しそうにしているので、俺も悪い気はしない。
「嘘だろ、クロスチェインがまさか成功するんなんて……くぁぁぁっ!!今になって震えがきた!!」
「やったっスねっ!!俺、足がガクガクと震えてるっスよ……!!」
「ああ、俺もだ。つか、ミリアちゃんって本当に凄いんだな……」
3人の男達による羨望の眼差しには気付かず、俺はリーズとプリハドールにされるがままになっているのだった。