20.火竜の森林
「え、何そのボス戦で周りが火に包まれてフィールド継続ダメージ受け続ける事になりそうなダンジョン……」
俺が心底行くのを嫌がる顔をしたのがおかしかったのか、二人が笑いだす。
いやだって、火竜の森林って、名前を聞いただけで予測できるようなダンジョン嫌だよ!!
「あはは、確かにそう思うよねー。でも違うんだよーミリアちゃん」
「ふふ、そうですわ。確かお話では、過去に火竜が塒にしていたけれど、今は居なくなって森林になっているというダンジョンですわ」
ああ、そういう。
でも、あの仲間達が考える事は手に取るように分かる。
どうせレアダンジョンとして、火竜がレアボスで出るんだろ。
そんな事を考えながら、目の前に置かれたミックスジュースをストローでちゅーと吸う。
いつもならコップに口をつけて、そのままがぶ飲みするんだけど、同じやり方したら零れてしまったんだ。
小さい口が仇に……しょうがないので、ストローでちびちび飲んでいたら、リーズやプリハドールに異様にマジマジと見られているような、もっと言うなら周りにもかなり見られているような……流石にこれは自意識過剰かな。
「でもねミリアちゃん、そのダンジョンには火竜が集めた財宝が今も眠ってるってされててね!お宝がね、あるんだよ!」
リーズの口調が軽やかだ。
うん、次に何を言うのか分かるよ。
「だからね、行こうよミリアちゃんっ!」
ですよねぇ、知ってた。
何度も言うようだけど、俺はダンジョン探索に重きを置いていない。
というか、姉貴達が原因究明して、ログアウトできるようになるまでの間、適当に過ごそうとしか考えていない。
だからまぁ、付き合うのも良いと言えば良いんだけどね。
自分の家を買って、そこで錬金術とかで遊びたいと思ったりしてるけど、如何せんリルが高い。
5,000万リルをローンなしの一括払いですよ。
そんなとこまでリアルな数値にしなくて良いだろ。
現実世界と違って、リルの手に入り方は多いけどさ……。
そうそう、ギルドに入っても給料というか、リルが貰える。
ギルド拠点からお金が出るシステムだ。
ギルドマスターが資金繰りに応じて値段を設定できるので、大きいギルドほど給料が多い。
逆に小さなギルドでは、給料出なかったり……ギルド拠点にそもそもお金が無いからだ。
世知辛いね。
ちなみに、ギルドミッションなるものがあって、プレイヤーはリルと経験値とギルド資金とギルド経験値を入手するので、自然とギルド資金は貯まる。
つまり、所属するプレイヤーが多ければ多いほど、お金が貯まるわけだ。
ギルド経験値が一定値貯まればギルドレベルをアップでき、所属できる人数が増えたり、依頼の数が増えたりする。
ちょっと話が逸れたが、ギルドマスターになってみない?と言われてから、思い出していたんだ。
そんな、違う事を考えていたら、リーズが困った顔をしていた。
あ、やばい。
「やっぱり、ダンジョンは嫌かな……?ミリアちゃん、あんまりダンジョンは攻略するつもりないって言ってたのに、ダンジョンばかり誘ってごめんね……」
なんて悲しそうに言ってくるので、俺は焦った。
「ち、違う違う!ちょっとギルドについて考えてて!行くよ、行く行く!」
「ホント!?だからミリアちゃん大好き!」
そう言って、また抱きついてくるリーズ。
こやつは俺が男だという事を完全に忘れてやがるな!
いや今は確かに女の子の見た目だし女の子の体なんだけど!
「ふふ、それじゃ早速行きましょうか」
そうプリハドールが言うので、俺達は火竜の森林へと向かう事にした。
ちなみに、料理の代金は料理メニュー(現実世界で言うと商品が色々載ってるメニューブック)から商品をタップしたら、これを注文しますかって出てくるので、YESを押した時点で所持金から勝手に引かれるシステムだ。
食べた後にお支払いとならないので、おじさんツケ(今手持ちが足りないから、今度来た時に一緒に払うよ)でーとか、食べた後にお金を払わずに逃げられるとかいう心配のない安心システムだ。
まぁ日本でも、食券で買うとこあるけど、そんな感じだ。
そして、ダンジョンの入口に着いた。
コルグルスから歩く事30分ほどの位置にある転送ゲート。
この世界では、ダンジョンは別の場所にある為、毎回飛ぶ事になる。
その為、ダンジョンの転送ゲート前でアイテム類を売る商人をする人も居たりする。
これはNPCではないので、在庫が存在する為、値上がりもする。
転送の巻物は高額なので、わざわざアイテムを補充する為に戻るのに使ったりしないのが通常だ。
けれど、行き帰りの時間がやはり惜しい。
そういう場合に、こういう商人から多少割高であろうと、買うのだ。
街でNPCから買い貯めしておけば良いと思う人も居るだろうが、ところがどっこい。
回復アイテムは『纏められない』というシステムがある。
アイテムボックス欄には限りがあるのに、x1の回復ポーションで埋め尽くせる人がどれだけいるか、って話である。
あ、俺は無限だったから、やろうと思えばできるけどね。
なので、こういうダンジョンには行かないけど、アイテムボックスを回復アイテムで埋めた商人という存在が出てくるわけだ。
割と、これ儲かるのよね。
ダンジョンでレベル上げて、外に出て街に戻るのが面倒な場合、多少割高でも買えばすぐにダンジョンに戻れるから。
こういう、需要と供給が合ってる商売は儲かる。
どれだけ商人が居ても、挑む人が多いダンジョンなら余計にだ。
まだサービス開始から2日目の今日だというのに、すでにそういう事をしている人が居るんだから驚きだ。
攻略組とかは、徹夜でやってたりするんだろうか。
俺もガキの頃は、始まったばかりのアプリで1位とってやるぜっ!って気持ちで滅茶苦茶ゲームしてたな。
大人の力(課金)の前に、敗れ去った苦い思い出だ。
「もうここまで辿り着いてる人、こんなに居るんだ」
「ええ、前作で見かけた顔が多いですけれど」
そう二人が言うが、俺には分からない。
というか、俺もそうだけど、二人もかなり見られているな。
有名プレイヤーというのは伊達ではないらしい。
「さ、それじゃ私達も行きましょ!目指せ億万長者!」
「ですわね!」
いや、いくらなんでもそんなに儲かるわけ……。
とこの時の俺は思っていた。
このダンジョン、森林というだけあって、昆虫やら動植物が多数襲い掛かってくる。
フィールドを徘徊しているモンスターは、基本的にこちらから攻撃を仕掛けない限り、襲ってくる事は無い。
けれど、ダンジョンのモンスターは違う。
サーチアンドデストロイよろしく、こちらをすぐに攻撃してくるのだ。
なので、俺は途中からアビリティ『索敵』を起用する事にした。
これは、敵の位置が分かるアビリティなのだ。
ただ、このダンジョンの敵の多さに、情報量の多さで頭がくらくらした。
「だ、大丈夫ミリアちゃん?」
「ああ、うん。そこの木に近寄らないで。蜂の巣があるよ」
「うげ……」
リーズがげんなりした声を出す。
それもそのはずだ。
この世界の蜂は、普通のRPGみたいに一体とか、画面を5体くらいで覆いつくすような数しか出ないわけがなくて。
まるで黒い霧のように数えきれない数で襲い掛かってくるのだ。
しかも、嫌らしい事に速度が滅茶苦茶高いからか、見た目は命中させたとしても、システム上で回避されてる事も多いという、厄介な敵だ。
それに、人が蜂を嫌う心理的なものも合わさって、リアルで見るより怖い。
中には信じられないくらいデカい蜂も居たりする。
人の頭より大きいサイズの蜂に追いかけまわされるとか、軽いトラウマにならないだろうか。
俺はゾンビより蜂のが怖い。
ゾンビ、動き遅いからね、見た目的な気持ち悪さはあれど。
「ミリアちゃん。場所が分かっているのなら、スキルで焼き払うのはダメでしょうか?」
なんてプリハドールが勇ましい事を言ってくる。
うん、それが可能なら、俺もそうするんだけど。
「確かにある程度は倒せると思う。だけど、『索敵』で表示されてる数が、100を超えてるんだ。更に、その近くにも同数のグループがいくらか居る。攻撃しかけたら、それら全てが襲い掛かってくるよ?まず死ぬね」
二人が青い顔になる。
想像しちゃったんだな。
しかも、このダンジョンには割と人が居る。
最悪、巻き込んでしまうかも……なんて考えていたら、悲鳴が聞こえた。
「そ、そこの人達、逃げてー!!うわー!!」
複数の人達が走ってこちらへ来る。
後ろを見ると、黒い霧……じゃない!蜂の群れに追いかけられてる!!
「モンスタートレインとか冗談じゃないわよー!?」
「良いから、逃げるよ!あの数に襲われたら、流石に死ぬよ!!」
「なんて事をするのですかー!?」
「「ホントごめんー!!」」
皆でダンジョンを走り回る。
ダンジョンの中には安全ポイントがあって、そこにはモンスターが近寄らない。
そこまで逃げきれれば、なんとかなる!
流石に逃げながら『索敵』で場所を選ぶのは難しく、追いかけてくる蜂がどんどんと増えてくる。
おまけに道中様々なプレイヤーが巻き込まれ、蜂に追いかけられるプレイヤー達という異様な光景になってしまったのだった。
最大の敵は、プレイヤーとかシャレにならない。
「「「はぁっはぁっ……」」」
なんとか逃げきった俺達は、肩で息をしている。
どうやら最初の連中も逃げられたようだが、今は皆から叱られている。
可哀想だが、救う気は無い。常識を覚えてくれ。
モンスタートレインは、一番やっちゃいけない奴だ。
ただまぁ……意図的にやったわけじゃないのは分かる。
このダンジョンは、敵の配置構想上、起きやすい作りとなっているからだ。
「はぁー、酷い目にあったね。流石にあんな数、相手にできないよー」
「ですわね、よく逃げきれたものですわ……」
二人も言うが、途中プレイヤー達が色々と手を尽くしたお陰だと思う。
殺虫剤というアイテムを使って、蜂の進行を妨げたりね。
「ふぅ。このダンジョンボスまで行くのが厄介すぎない?大型の動物より、昆虫類が強すぎでしょ……」
「「本当に……」」
特に、昆虫は見るだけで嫌な人は多いだろう。
都会の子は皆苦手なイメージだ。偏見かもしれないけど。
「せめて、防御力が上回っていればなんとか……」
「でも、蜂って確定毒持ってるよミリアちゃん。刺されたらダメージと一緒に、毒になっちゃうの」
本当に厄介だな!現実世界の蜂より厄介だな!
「毒って継続ダメージだし、おまけに割合ダメージだし、それを連続で刺されたら倒されちゃう……」
そう、どんな異常ダメージも効果を受けた時に、最初にダメージを負う。それから時間で継続ダメージになるのだが、この最初にダメージを負うのが味噌なんだ。
例えば、毒のダメージが最大HPの1%ダメージだとしよう。
それを、毒を受けた時に必ず最初に受ける。
という事は、だ。
100回、毒という効果にされる攻撃を受ければ、死んじゃうのだ。
時間を待たずして。
あの蜂は100体を確実に超えている。つまり、人を確実に殺ろうと配置されているのだ。
この配置考えた奴、真島だな。
帰ったら説教してやる!!
「これは何も対策せずに攻略は難しいんじゃない?」
「そうだね……一旦戻ろっか、残念だけど……」
そう話し合って、俺達は戻ろうと思ったんだけど……。
「リーズ!プリハドール!それにミリアちゃんだよね!?」
なんて、話しかけてくる人が居た。
「あ、バリアにモンド、それにガンツじゃない」
「お久しぶりですわ」
どうやら、また二人の知り合いのようだ。
ってまぁ、俺に知り合いなんて居ないしな。
「お前達ももうこのダンジョン攻略に来てたんだな!流石だ!」
鎧に身を包み、恐ろしく重そうな姿をした、顔が見えない男が喋った。
名前が表示されてなければ、分からんぞ。
「それはお互い様よバリア。というか相変わらず、鎧に身を包んでるのね……」
どうやら、これは彼のこだわりのようだ。
「ああ。それにこのダンジョン攻略には、ヘイトを取るタンク役が必須だぞ?俺のこのフルアーマーなら、蜂の一刺しは効かないからな!」
「その間に、俺が撃ち抜くってワケさ」
西部劇に出てくるような、茶色いジャケットを羽織り、ズボンは青いジーンズの男。
こいつがガンツか。
武器は多分その名が示すように銃なんだろうな。
「俺の格闘術も、タゲがバリアに向いてるから安心してイケるッスよ!」
成程、この上半身裸の野郎は、武闘家か。
蜂が多く徘徊するこのダンジョンで、正気の沙汰とは思えないが。
俺は少なくとも、例え男の状態で登録出来ていたとしても、嫌だ。
そう思っていたら、そのパーティーのリーダーと思われる、バリアから提案を受けた。
「なぁ、リーズ。そっちも3人なら、俺達と組まないか?」
パーティーのお誘いだった。




