15.運営側②
「ぶ、部長、まだやるんですか?」
「当然でしょう。ユーザーからの報告は、きちんと調べるのよ。何十、何百と試行を繰り返して、データを精査しなさい」
社員の悲痛の叫びが木霊する。
それも当然と言えた。
一つの挙動が変だと言うユーザーからの不具合報告に、何度繰り返してもおかしな所がない。
社員達はただの勘違いだろうと思ったからこそ、もう終わりにしても良いのではないか、と伝えたかったのだ。
「良い、皆。ユーザーは私達の対応を見ているの。自分達の言葉をちゃんと受け止めてくれるのかどうかをね。そしてその言葉を受け取れる私達は、期待されているという事なの」
「期待されている、ですか?」
社員の一人が言った言葉に、真摯に向き合い、穏やかな口調で答える。
「そうよ。もし、改善してほしいという思いが無ければ、不具合かな?と思った事も、わざわざ報告などしてくれないわ。ただ、黙って去っていくだけよ。けれど、こうして報告してくれるという事は、もっと楽しみたいと思ってくれているという事でしょう?」
「「「!!」」」
社員達は、皆ハッとしたような表情をした。
それを見渡し、麗子は続ける。
「何度も検証して、おかしい所がこちらで見つけられなかったなら、再度その報告をしてくれたユーザーに詳しい内容を聞きなさい。きっと答えてくれるわ。仮に、その内容がおふざけのものであったとしても、それに対応した時間は決して無駄にはならない。だって、これは不具合が無い、と確認がとれたのだから」
社員達は、麗子の言葉を真剣に聞いている。
そこには、ゲームを皆に楽しんで貰いたいと言う想いが、態度となって表れていた。
「さ、分かったら続けなさい。もう五百回して何もなければ、休憩にして良いわよ」
「「ごひゃっ!?」」
やる気に満ちていた社員達も、今バグ検証を行っているグループは驚きの声を上げる。
「孝弘さん、こんな大変な事をずっとしてたんだな……そりゃずっと残業してるわけだよ……」
「ああ……それに、アーツの正しい挙動がまず覚えられないんだけど俺……」
「俺も……それに、敵の動きも入るし、味方の動きも混ざるとわけわからなくなるよ……」
社員達は一様に溜息をついた。
「「「孝弘さんって、凄かったんだな……」」」
孝弘の知らない所で、仲間達からの株が上がっているのだった。
そしてそれは、麗子が孝弘を起用していた最大の理由だった。
本人は気付いていないが、何度も同じことを繰り返し行える忍耐力。
そして、敵味方の動きをきちんと把握する視野の広さ。
また、ゲーム内のアーツやスキルを完全に覚えている記憶力の高さ。
その能力の高さを、姉である麗子が一番に理解していたのだ。
『ふぅ、孝弘の代わりは居ない。皆には頑張って貰わないとね……それに、ミリアにはゲーム内でも頑張ってもらうつもりだし……』
そう心の中で呟き、ミリアが映っている画面を確認する。
そこには、死の砂漠を、それもレアボスの方をクリアしたというログがアウストロン大陸全体に流れた所だった。
「ちょっと!?デュラハンを初日から倒すとか、ミリアは何をしてるの!?」
「「「えええええっ!?」」」
デュラハンの強さは、ゲーム開始初日から倒せるようなステータスではない。
パーティ人数6人でのみ行える強力なクロスアーツを、かなりの攻撃力を持った6人で直撃させるでもない限り、削りきれないほどのHPがあった。
それ故に、ボスがレアボスに変わる確率はわずか0.1%という設定なのだ。
まさしく、レアボスだったのだ。
「えっと……あぁ、ミリアちゃんレベルの攻撃力が4人分合わさって、更にデュラハンの攻撃力までプラスしてますね……なんて無茶な方法で……」
映像をリプレイして見た社員が答える。
皆、一様にその映像を見て感嘆していた。
「流石孝弘さん……『カウンタースラッシュ』とか、タイミングが刹那すぎるアーツを使いこなしてる……」
「あれ、敵の攻撃とジャストタイミングで発動しないと、ただの『スラッシュ』になるよな……攻撃を受けたら痛みだってあるのに、凄いな……」
「この二人の子も凄いよ。ミリアちゃんの『カウンタースラッシュ』に完璧に近いタイミングで合わせてる。デュラハンに攻撃されたら、多分即死だって気付いてるはずなのに……」
「ああ、迷いなくデュラハンに向かって駆けてるな。ってこの子達、クロスオンラインのトッププレイヤー達じゃないかっ!」
社員達が驚いているが、麗子は別の事を問題に思っていた。
それは、ミリアが不正を行っているのではないか、と思われる事を懸念したのだ。
一撃で倒せるアイテムを使ったとか、運営側の人間という事で贔屓しているのではないか、と思われる事は避けたかった。
麗子は考え、一つの案を思いついた。
「皆、この映像を公式サイトで流すわよ」
「「「えっ!?」」」
「こんな戦い方もある、と皆に公表するの。そして、これからもこういう難易度の高いダンジョンの最速クリア者パーティを公式サイトで流すようにするわよ。皆公式サイトに映りたくて頑張る気も起きるでしょうし、我が社の宣伝にもなる。一石二鳥でしょ?」
麗子の言葉に、社員達が湧き上がる。
「「「おおおおおっ!!」」」
「さぁ、早速取り掛かりなさい。今日は皆残業だからね!」
そう伝えてから、ミリアが宿に移動しているのを確認する。
すでにチャットは飛ばしてある。
後は、この事を伝えるのと、イベントについて話す事がある。
今日は会社で泊まるかな、と思う麗子だった。




