10.運営側①
「部長、孝弘さん……じゃなかった、ミリアちゃんの画像がノノチャンネルに公開されてしまいました!」
「凄いですよ、今まで一番登録者数が少なかったアウストロンが、一気に一位になってます!」
運営側ももちろん、様々なユーザーの生の声が確認できるノノチャンネルは監視していた。
不穏な会話の流れがあれば、さりげなく他の話へ誘導するといった事もしなければならないからだ。
しかし、ミリアの話だけは、どうしようもなかった。
「はぁ、まさかこんな事になるなんてね」
溜息をつきながらそう零すのは、孝弘の姉である、麗子だ。
「これは何か手を打つ必要があるわね。このままだとユーザーが偏ってしまうし」
しかし、皆一様に沈黙する。
いや、いくらか案は浮かんではいるのだ。
しかし、それはミリア、いや仲間である孝弘の命が関わってくる為、言えないでいた。
「皆、私は少し病院へ行ってくるわ。その間に何か案も考えてくるから。それまでお願いね」
「「「はい、部長!」」」
部下達の頼もしい返事を聞いて、麗子は椅子から立ち上がり、その場を後にする。
向かうのは、孝弘の体が搬送されている病院だ。
「こ、これは冴木様!弟様のご容態の確認でしょうか?」
そう言うのは、グローバルスター株式会社と提携を結んでいる、大病院の院長である。
院長ともなれば、他の者に顔がかなり効くのだが、大会社であるグローバルスター株式会社の次期社長とも呼ばれる麗子には、頭が上がらないでいる。
というのが、表向きの形だ。
「おじ様、ここには私だけで来ましたから。昔のように呼んでくれると嬉しいです」
そう麗子が微笑むと、院長は表情を綻ばせる。
「ふふ、分かったよ麗子ちゃん。孝弘君の体は、私に任せてくれて良いからね。何があっても、守って見せるから」
「ええ、ありがとうおじ様。だからこそ、おじ様の病院に運ばせてもらったの」
二人は話しながら、孝弘の体が安置された病室へと向かう。
そして、辿り着いた場所では、人工呼吸器や体へ栄養を送る為の点滴等、まるで植物人間への対応のような処置がされていた。
「孝弘……」
麗子は、寝かされている孝弘の手を取り、優しく握り、言葉を零す。
「ごめんなさい……私のせいで……」
「麗子ちゃん……」
その瞳には、誰にも見せた事のない涙が浮かんでいた。
孝弘がログアウトできなくなってから、必死に原因を究明したのだが、バグは無く、おかしい所が見つからなかったのだ。
今も頭には、VRメットが装着されており、顔は見えない。
「だから……私が、今の間に孝弘を美少女に変えるからね!あのミリアのように!」
「はっ!?」
そういきなり宣言をする麗子に、流石の昔からの付き合いである院長も、素っ頓狂な声を上げてしまう。
「おじ様、このまま眠った状態が続けば、だんだんと体は骨と皮に近づいていくでしょう?」
「ま、まぁそれはそうだね……栄養は点滴で補えるけど、どうしても筋肉の衰えや脂肪が減ってしまうから……」
院長は客観的な事実のみを伝えるが、未だに麗子の言った言葉の意味が理解できないでいた。
美少女に変える、とは?頭に疑問符が浮かぶが、麗子が話を続けるので、そちらに耳を傾ける。
「おじ様、孝弘は今、VRゲームの世界で、孝弘の理想とする美少女になってるんですよ。だったら、現実世界もそう変えてしまえば、VRゲームで知り合った人達とも、現実で会えるでしょう?」
「れ、麗子ちゃん……」
言わんとする事は分かるが、言っている事は滅茶苦茶だ。
「それに、孝弘は元から体が小さい方だし、それがこれで更に細くなれば……あとはその道のプロを呼びまくりましょう!お金に糸目はつけないわ!」
物凄いやる気になっている麗子に、院長は溜息を零す。
「はぁ、麗子ちゃんはやると決めたら、本当にやる子だからなぁ。分かった、私もどこまで力を貸せるか分からないけれど、力を貸そう」
そして、そう折れる事にした。
麗子は、普段は見せないような無邪気な笑顔で答える。
「ありがとうおじ様!これで、VRゲームの中でも、多少の無茶が出来るわ!」
院長は、やれやれと言った表情をしているが、その心は嬉しかった。
孫ともいえる麗子ちゃんと孝弘君に、自分が何かをしてあげられる。
それが、親心のように嬉しかったのだ。
今も他の人には見せない笑顔を向けてくれる麗子に、院長は顔を綻ばせるのだった。
「皆、聞いて!」
部署に戻って一番、部下達に告げる麗子。
皆作業を止め、麗子の方を向いた。
「孝弘を、いえミリアを、ワールドクロスオンラインのイメージキャラクターにするわ!」
「「「え……えええええええっ!?」」」
その日、サービスを開始してから一番の驚きの声が上がったのだった。




