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0.プロローグ

孝弘(たかひろ)!ログアウトしなさいっ!」


「やってるよ姉貴!でも反応しないんだっ!!」


「なんですって!?」


 俺は今、VRヴァーチャルリアリティゲームの世界に居る。

 十分慌ててはいるんだが、緊急の案件とは思っていない。

 そう、この時は。バグだろう、と。


「姉貴、黒川さんに調整頼んでくんない?俺適当にスキル試しておくから」


「はぁ、そうね。まったく、ログアウト出来ないバグとかシャレにならないわよ。SA〇じゃないのよ?」


 姉貴の言葉に笑ってしまう。

 ゲームはゲームであるから楽しいんだ。

 命かけてまでやりたがる酔狂な奴は少ないだろう。

 姉貴はゲームにログインはしていない。

 俺達は運営側の人間なので、パソコンだけでは調整できない部分を、実際にログインする事で検証している。

 俺がログインしてデータを集め、姉貴が調査して、各部門へ伝達してくれている。

 今も会話していたのはボイスチャットで、姉貴はゲームの外から俺に指示を出している。

 で、昼飯にしたいから、ゲームから出ろって言われたのだ。

 まぁ、ログアウトできなかったので、システム担当の黒川さんのミスだろうと。


「『分身』」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


ミリアはアーツ『分身』を発動しました。

チーム数が暫定的にMAX(6/6)となります。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 システムログが流れる。

 ここまでは正常だな。


「姉貴、仮想敵を出現させてくれ」


「――急いでね!あ、孝弘?えっと敵の出現ね。オーケー、木偶で良いの?」


 他の人に指示を出していたんだろう姉貴が、俺の言葉に気付いて返答してくれる。

 豊聡耳(とよとみみ)もかくやという、色々な人の話を他の人と話していても聞いている姉貴は超人だと思う。

 木偶とは、攻撃や防御を行わない、いわゆるサンドバッグだ。

 検証する上で、敵の行動がないのは困るので、色々な動きをさせる場合があるのだ。


「ああ、今回はそれで良いよ。『クロスアーツ』の検証するから」


 この世界では、キャラ事に『アーツ』と呼ばれる技が覚えられる。

 VRゲームなので、体を動かすのは自分の体だ。

 けれど、『アーツ』に限り、発動すれば体を自動で動かしてくれるのだ。

 そしてこれがVRならではの拘りなのだが、その『アーツ』の軌道を自分自身が覚えれば、自動で動くよりも早く使えたりと、自身の腕前でいくらでも上手くなれたりもする。

 そんな中で、『クロスアーツ』とは、パーティメンバーが同じスキルを同時に発動した際に、昇華する『アーツ』の事を言う。

 例えば、『アーツ』の中の『スラッシュ』という技を、二人が同時に使った場合。

 『アーツ』は昇華し、『クロスアーツ』と成り、『クロススラッシュ』となるわけだ。

 これもパーティの人数で更に昇華し、3人同時なら『トリプルスラッシュ』、4人同時なら『クアドラプルスラッシュ』と昇華していく。

 威力も乗算していき、かなりのダメージを叩き出せるようになる。

 『スラッシュ』は比較的簡単な『アーツ』なので、『スラッシュ』を覚えられない職業であっても、自分で使えるようになるユーザーは多い。

 6人で放つ『スラッシュ』は、『サウザンドスラッシュ』となり、それぞれの攻撃力の合計から、人数分を割った数字に720倍するダメージ計算となる。(1x2x3x4x5x6の計算)

 故に、ソロプレイよりパーティプレイの方が凄まじく強くなれるのだが、救済策ももちろんあり、それがこの『分身』である。

 『分身』は自身の最大HPの5分の1しかそれぞれ持たないが、攻撃力は自分と同等だ。

 また、『アーツ』の発動も自分に合わせて自動で行ってくれる為、『クロスアーツ』に必ず昇華するという利点もある。

 ただし、パーティ人数の上限までしか『分身』は行えず、仮にパーティがMAXの6人居たら、『分身』を発動する事はできない。

 今はパーティは俺一人、要はソロなので、パーティ限界人数の5人の分身体が生まれている。

 また、この『アーツ』は30秒で消える上に、クールダウン(もう一度その『アーツ』を使う際に、必要な時間)が120秒かかる為、連発はできないようになっている。

 ただ、『アビリティ』によりこのクールダウンの数値を速める事もできるのだが、それは今は置いておこう。


「了解。耐久値は9999億で設定しておくわね。孝弘のキャラ、えっとミリアだったっけ?ぷふっ!」


「笑うな姉貴!!」


 そう、俺はバグ検証という一番誰もやりたがらない仕事をしている。

 来る日も来る日も残業して、プレイヤーから寄せられた不具合の検証をしているのだ。

 何度も何度も繰り返し。

 同じ現象が起きなければ、設定を変えて。

 それの繰り返し。

 連日連夜繰り返していた俺は、精神がおかしくなっていた。

 休日返上で働いていた俺は、クロスオンラインの次回作であるワールドクロスオンラインのバグ検証キャラの見た目を、それはもう考えられる最高レベルでクリエートした。

 本来、自分の体を動かすこのVRゲームでは、見た目の容姿をそこまでいじれなくなっている。

 要は、本来の自分とそこまで違いを出せないのだ。

 けど、俺は別に正規のプレイヤーというわけではなく、それも検証空間という運営専用の小さな大陸とでも言おうか。

 そこでのみ活動するキャラクターなので、もう見た目を俺の大好きな美少女にした。

 14連勤残業平均6時間という悪夢の勤務を終えた後の、久々に貰えた休日に。

 わざわざ会社に出勤して、美少女をキャラクターメイキングしている俺。

 皆から憐みの目で見られたけど、その時の俺は気にしなかった。

 で、憑りつかれたようにメイキングを終えた。

 金髪幼顔の縦ロール髪に、思わず抱きしめたくなるような可愛い容姿。

 天使の翼とか生やしてみたりなんかして。(着脱可能)

 昔懐かしのルーズソックスに、黒をベースにした、白とのコントラストが映えるゴスロリ衣装。

 そして可愛い赤色の靴を履かせて。


 完璧だ……!

 

 と感動に打ち震えた後、気付いた。

 どんだけ見た目美少女にしても、俺はそれを見れないじゃねーか!!

 四つん這いになって項垂れている俺に、姉貴と皆が、終わった後回転寿司を奢ってくれた。

 俺は休日を貰えたけど、皆は普通に働いていた。

 皆が働いている横で、必死にキャラクリしてる俺。

 今思ったら、めっちゃ異様な光景だったろうな、迷惑かけてすみません。

 そんな考えに至らないくらい精神が摩耗してたんです……。


「ごめんごめん。孝弘の妄想が具現化した可愛い子だもんね?」


「ほっとけ!俺のHP(耐久値)削って楽しいか姉貴!」


「うん」


 言いきりやがったよこの姉!!

 そして、目の前に木偶が召喚される。

 姉貴はすでに他の人と会話しているようで、小窓に何人か映っている。

 まぁ、黒川さん(システム担当責任者)だろうけど。

 俺は俺のできる事をしますかね。


「そらよっ!」


 ミリアは木偶に近づき、手に持った剣を下から上に斬り上げる。

 木偶は上空へと飛ばされたので、それに『アーツ』の『飛翔』を使い追いかける。

 分身体も同じように『飛翔』を使って追いかけているのを確認した。


「行くぞっ!『スラッシュ』」


「「「「「『スラッシュ』」」」」」


 俺が『スラッシュ』を空中で発動させると、分身体もすぐに『スラッシュ』を発動させた。

 『アーツ』は昇華し、『クロスアーツ』となって対象の木偶を斬り刻む。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


ミリアはアーツ『スラッシュ』を発動しました。

分身体A~Eの同『アーツ』の発動を確認。

『スラッシュ』は昇華し『サウザンドスラッシュ』を発動しました。

木偶Aに864,000のダメージを与えました。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 空中での動作も問題なし。

 ダメージは……俺の攻撃力が1,000だから、スラッシュの倍率が1.2倍で、『クロスアーツ』6人分の720倍を掛けると、うん合ってるな。

 この木偶は防御力0なので、ダメージはそのまま行く。

 軽減系『スキル』も『アビリティ』も何も覚えていない、本当の意味で木偶だからな。

 さて、何度か繰り返してみるか、と思っていた時に、姉貴の声が聞こえた。


「孝弘、落ち着いて聞いて。黒ちゃんに聞いたんだけど……何もおかしい所は、ないそうよ」


「は……?」


 いや、ログアウトできないのにおかしい所が無いって、どういう事だよ。


「孝弘の疑問も分かるわ。ログアウトできないのにおかしい所が無いってどういう事だよとか思ったでしょ」


 一字一句合ってるとか怖いわ!


「でもね、私もスクリプトを見せてもらったけど、おかしい所はないの。通常なら、ログアウト出来るはずなのよ」


「でも、押しても反応しないんだよ。姉貴、信じてくれよ!」


 俺が嘘を言っていると思われるなんて嫌だから、思わず大声で言ってしまった。

 でも、姉貴は俺の事を疑ってなんていなかった。


「分かってるわ。孝弘がそんな嘘をつかないって事くらい。少し、こっちで調査してみる。けど、時間がかかると思うわ。だからその間……ワールドクロスオンラインの世界、楽しんでみる?」


「へ?」


 こうして、俺のVR世界での生活が、始まってしまった。 

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れさまです。 どんな場合でもキリが良い所まで書く方がよろしいと思います。反応次第で続きを書く書かないというやり方だと、読者側に悪い印象を与えてしまいますし…… 実際、反応の良し悪しで…
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