60 彼女と届け物
いつも有難うございます。
夏休みが始まって、数日が経った。
宿題はほぼ終わったし、日向のおかげで更に理解が深まった。
今日も今日とて、学生の模範の様に日向と宿題を消化していると、インターホンが鳴った。
「はいはーい」
軽快に走らせていたペンを止めて、立ち上がり玄関へ向かう。
配達員さんから大きくて縦長なダンボールを受け取り、サインを書いてお礼を言う。
「ありがとうございました」
「はい、あざした!」
ガチャっと扉が締まり、後ろから日向がやってきた。
「なにか頼んだのですか?」
「いや、頼んでないよ。…これは、お母さんからだな」
「あら、お母さまからこんなに大きい届け物なんて、なんでしょうか」
「リビングで開けてみようか」
「はい!」
何が入っているか気になるのか、駆け足気味でリビングまで移動する日向。
なんだか持ちなれた重さなんだよな。
もしかして、これって…。
カッターを持ってきて、ガムテープの部分をざしゅざしゅと切っていく。
恐らく、中に入っているものはあれなので、傷つけないように丁寧に。
段ボールをぱかりと開けると、ぷちぷちの梱包材で包まれている例の物が見えてきた。
「これは…」
「ギターだね」
「葵くんは、ギターを嗜まれていたんですか?」
「まあちょっとね、お父さんによく教えてもらってたんだよ」
「そうだったんですね!また一つ葵くんについて知れました。…あら、他にも何か入っているみたいですね。これは…楽譜?」
「おお、これは昔お父さんに買ってもらったミスチルの楽譜だね」
「あ、葵くん、ミスチルが好きだったんですか?」
「うん、そうだよ。他にも色々楽譜とか持ってるけれど、これはお父さんに初めて買ってもらった楽譜なんだよ」
「懐かしいなあ」と言いながら、ボロボロになっているミスチルの楽譜集を見る。
コードとか頑張って覚えたんだよなあ。
スムーズに弾けるようになるまで結構な時間を要したけど、お父さんは熱心にギターを教えてくれた。
だから楽譜さえあれば、だいたいの曲は弾けるくらいまでにはなったんだけど…。
「…弾かないだろう、と思って実家に置いてきたのに。どうしたんだろう」
他に何か入ってないか段ボールを漁っていると、まあ色々出てきた。
チューナー、ピックが入ったピックケース、ギターの台、ギターを拭く布、ギターメンテナンスに使う物など、ギターをやってくださいと言わんばかりに一式がそろっている。
いやー、新品の弦まであるし。
最後に張り替えたのは半年前だったかな?
よし、今弦を張り替えるか。
そう思い作業に取り掛かっていると、日向の視線を感じた。
なんだろう、そう思って日向の方を向くと、頬っぺたを赤く染めて、嬉しそうに瞳をキラキラとさせていた。
「ど、どうしたの?」
「…あ、葵くん、ミスターチルドレンが好きなんですよね?」
「う、うん。知ってるバンドの中では、一番好きだよ」
「私もなんです!」
急にがばぁっと抱き着いてきたので、慌てて日向を受け止める。
おお、まじか。日向もミスチルが好きだったんだ。
「…同世代の人で、ミスチル好きの人が全然いなくて…。初めて出会えたミスチル好きの人が、よりにもよって葵くんだったなんて!とっても嬉しいです!」
俺に抱き着いたまま、俺の胸に優しくと額を押し付ける彼女。
そういえば、同世代にミスチル好きっていうやつがいなかったな。
まあ、高校では陰キャをかましていて新しく友達ができないから、皆の音楽事情を知らないっていうのもあるんだけど。
嬉しそうに甘えてくる日向の頭を撫でながら、ある提案をしてみる。
「日向、歌うことは好き?」
「はい、好きです。葵くんは?」
「俺も好きだよ。せっかくここにギターもあることだし、何かミスチルの曲でも歌ってみる?」
「良いですね!あ…だったら、HANABIとか、どうですか?」
「うん、弾けるよ。とりあえず弦を張り替えたらやろうか」
「手伝います!」
「ありがとう」
日向が手伝ってくれたおかげで、すぐに弦を張り替えることができた。
チューニングも終わって、ざっと楽譜に目を通す。
暗譜はしてるんだけど、一応ね。
「よし、じゃあ行くよ?」
「はい!」
リズムをとって、イントロ弾きだす。
幼い頃に弾きまくったから、イントロはさすがにミスらない。
日向が歌いやすいよう、安定したリズムでストロークをしていく。
俺も歌いつつ、弾き間違えないように集中して、なんとか演奏しきった。
「ふぅ、なんとかできた。…日向、お世辞抜きで本当に歌がうまいね」
「あ、有難うございます。葵くんも、本当に上手でびっくりしました」
「音程も完璧だし、透き通った綺麗な声で、本当に良かった」
「あ、ありがとうございます…」
日向は照れて顔を伏せてしまったが、本当に上手なんだよな。
普通に感動してしまって、涙が出るのを我慢しているくらいだ。
そういえば、悠斗が「文化祭のショーケースはいっぱい枠余ってるらしいぞ」なんて言ってたけど、二人で出れたら楽しそうだよな…。
そんなことを思いつつ、顔を赤くしている日向が可愛く思えて、愛でたくなってきた。
「日向、ギターを教えてあげたくなったから、こっちにおいで」
「…!は、はい!」
日向は伏せていた顔を上げ、嬉しそうにこちらへ近づいてきた。
ぽんぽんとあぐらの間を叩いて、ここに座りなと合図をおくる。
そこに日向はすっぽりと埋まり、自然と日向を後ろから抱きしめている形になる。
彼女の良いシャンプーの匂いや、柔らかい体などを意識しつつ、ギターを教え始める。
「よし、じゃあとりあえず、コードでもやろうか。Cはこう抑えるんだよ」
密着した状態で教えるので、お互いがどきどきしているのがわかる。
後ろからでも、日向が赤くなってるのがなんとなくわかるな。可愛い。
「こ、こうですか?」
「そうそう、それで…」
この後、何時間もギターを練習したのだけど、日向はめきめきと成長して才女過ぎると少し焦ったのは内緒だ。
投稿が遅れてしまい申し訳ありません。
今後とも頑張っていきますので、応援のほどよろしくお願いいたします…!m(__)m
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それでは、来週からも頑張っていきましょう!




