58 彼女とお祝い
いつも有難うございます。
今回のテストは、日向のおかげで四百十九点を取り、十八位になることができた。
前回のテストの結果と比べてみると、とんでもない成長である。
勉強の猛者共が集う場所で、十八位を取れたという事実は、思った以上に嬉しいものだった。
感極まって涙も出てしまって、勉強関連で涙を流したのは鳴海高校に合格して以来だと思う。
この結果に満足していないで、更なる高みを目指していきたい。
だがそれとこれとは別で、頑張ったなら、頑張った分だけ称賛されるべきだと思うのだ。
日向は入学直後のテストに続いて、二回目の一位を取っている。
前回一位という追われる立場のプレッシャーなどもある中で、二位と大差をつけて一位になったのだ。
当然祝わなければいけないだろう。
そんなわけで、俺は近くの商店街に来ている。
日向にお祝いのプレゼントを買いに来たのだ。
彼女と一緒に帰ろうと思ったけれど 「ごめんなさい、ちょっと先に帰らせてもらいますね」 と覚悟を決めた顔で言われてしまったので、渋々一人だ。
俺と帰ることを嫌がってないことを願う。日向に限ってそんなことはないと思うけれど。
「さて…やっぱりあれにしようかな」
僕の金銭感覚的に、手持ちはまあまあである。
結構良いものが買えそうだ。
実は、今回買うものはなんとなく決めてある。
そのものとはズバリ、リップクリームだ。
最近、日向がお気に入りのリップクリームを何処かに無くしてしまったと言っていたので、それを参考にした。
日向の唇は常に瑞々しいけれど、本人はリップクリームが無いとキスをするときに不安らしい。
なんとも可愛い彼女である。
日向が使っているリップクリームの会社は知っているので、その会社の最新作を手に取った。
野口さんが二枚も消えてしまう高級品だが、彼女が自信を持ってキスをしてくれるなら安いものだ。
綺麗な入れ物に入れて貰って、早歩きで家に帰った。
☆
家に帰ると、まず違和感に気付いた。
普段はしない甘い香りが、家の奥の方から漂ってきている。
何だろうな、と内心わくわくしながら靴を脱いでいると、日向が小走りで出迎えに来てくれた。
「お帰りなさい、葵くん」
「ただいま、日向」
「私の方が先に帰りましたけど、ちょっと帰ってくるの遅かったですね。…寂しかったですよ?」
日向はそう言いながらぎゅっと俺を抱きしめて、俺の胸に顔を埋めた。
すりすりと匂いを付けるように甘えてくれるので、つい顔が綻んでしまう。
日向の頭を優しく撫でながら、帰るのが少し遅くなった理由を説明することにした。
「遅くなった理由はね、日向にプレゼントを買ってたんだよ」
「…えっ。ぷれぜんと、ですか?」
「うん。前、日向がリップクリームを無くしたって言ってたでしょ?だから、これを」
日向にプレゼントを差し出すと、彼女は遠慮がちに受け取ってくれた。
「開けて…いいですか?」
「うん、もちろん」
中のリップクリームを取り出した日向は、じっとそれを見つめると、花が咲くように笑った。
「覚えて、くれてたんですね。しかも、会社まで…」
「そりゃ、日向の事はね。いっぱい知りたいって言ったでしょ?」
「…嬉しいですっ。有難うございます。今度は絶対無くしません。大切にしますね」
ぎゅっと両手で包み込んで、無くしませんと表現している日向に笑みをこぼしつつ、気になっていたことを聞いてみる。
「大切にしてくれると、俺も嬉しい。…それで、この甘い匂いは一体?」
「ふふ、それはですねっ」
日向はリップクリームを片手に握って、空いた手で俺の手を取った。
彼女に連れられるままダイニングテーブルの方まで行ってみると、そこには甘い匂いの正体があった。
「…ケーキ、か」
「はいっ。昨日から準備はしていたんですけどね。私からのプレゼント、です」
「だから、今日は一人で帰ったんだ」
「…はい。葵くんのお家で会えると分かっていても、一人で帰るのはやっぱり寂しかったです。明日は一緒に帰りましょう?」
「俺も同じことを思っていたよ。明日は一緒に帰ろう」
「はいっ。このケーキは、デコレーションがまだなんです。一緒にデコレーションをしましょう!」
日向は机の上にあるフルーツなどを指さした。
「よし、可愛くやっちゃうか!」
そこから、日向と楽しくフルーツを乗せていった。
綺麗に苺を並べてみたり、お家なんかを作ってみたり。
チョコペンでチョコに字を書いたりもした。
あっという間にケーキのデコレーションは完成して、とても見栄えの良いものとなった。
「上手にできましたね。可愛いです。昨日、ピザを作っておいたんです。それを焼いて夜ご飯にしましょう」
「用意周到だな…。大変だっただろうに」
「葵くんのことを考えていたら、一瞬で終わっちゃったので大変では無かったです…」
「もう、ずるいな。それ」
日向は突然可愛いことを言い出す習性があるので、本当に油断ならない。
どきどきする気持ちを抑えるように、日向を抱き寄せて頭を撫でる。
「…葵くんに頭を撫でられるの、好きです…」
「日向の頭はいつもサラサラで、気持ちいいよ」
「…そう思ってもらえるよう、いつも努力しておりますので」
「有難うございます」
「ふふ…。もうちょっと、こうしていて良いですか?」
「もちろん」
そうして俺たちは、お互いが満足するまで抱きしめ合った。
それまでに結構な時間が過ぎていたのだけど、あまり気にしていない。
日向が作ってくれたピザは美味しくて、ケーキもまた絶品だった。
お腹も満腹になって、俺が彼女を家まで送っている途中。
「…日向。学年一位おめでとう。そして、俺に勉強を教えてくれてありがとう。日向のおかげで、こんな俺でも十八位になることが出来た」
「こんな俺、なんて言わないでください。確かに私は葵くんのお勉強のお手伝いをしましたけど、頑張ったのは葵くんです」
「本当に、日向には助けてもらってばっかりで頭が上がらないよ。…ありがとう」
「どんな時も助け合えるのが、か、カップルだと思います、し…。私も、葵くんにいっぱい助けられてますよ。…大好きです」
「俺も、大好きだ」
「…さっき、葵くんに貰ったリップクリームを使ってみました」
「そうなんだ。それは嬉しいな」
「はい。ですから…」
「言わなくても分かるよ。こっちにおいで」
「…はい。ん…」
日向を抱き寄せて、そっとキスをした。
確かに、リップクリームを塗ったほうが唇がぷるぷるで柔らかいかもしれない。
キスを終えると、日向は頬を桜色に染めて嬉しそうに笑った
「有難う、ございます…。分かってくれて」
「キスしよう、って言うの、恥ずかしいのは分かるよ」
「本当ですか?葵くんはいつも余裕そうですから…」
「全然そんなことはないよ」
そんな会話をしながら、二人笑い合いながら夜の道を歩いた。
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