55 彼女は女教師?
いつも有難うございます。
彼女が俺に勉強を教えてくれるらしく、俺も「是非お願いします」と言ったら、嬉しそうにリビングを出て行った。
勉強道具でも取りに行ったのかな。お勧めの参考書とかかも。
最近、この家に日向の私物が増えつつある。
増えつつあるといっても量としては全然だけど。まあ日向のマンションより、俺の家に居る時間の方が長いもんなあ。
でも勉強道具とかは無かった気がする。
もしかして俺のために、マンションに一度帰ろうとしてる?
だとしたら一人で彼女のマンションまで行かせるのは…。
そう思って立ち上がり、彼女の後を追おうとすると、たったったと足音が聞こえてきた。
日向が戻って来たみたいだ。
なんだ、家まで戻る訳じゃないんだな。
そう思って机の方へ戻ろうと思っていたら、衝撃的なものを見てしまった。
「それでは、勉強しましょう。葵くん」
なんでもないように俺の手を取って机の方へ誘導する日向。
何が衝撃的なのかといえば、それは彼女の格好である。
先程まで可愛らしくて似合っている私服を着ていたはずの日向は、突如として女物のスーツに眼鏡を掛けて入ってきたのである。
何かをしに行ったんだろうと思ってはいたが、それがまるで「女教師」みたいな格好に着替えていると思わなかった。
いや予想できないだろ。まあ似合っているけど。
普段の日向は、可愛い系と美人系の良いとこ取りの完璧美少女なのだが、女教師バージョンだと美人寄りになって、凛々しさが増している。
それでも雰囲気に彼女本来の可愛さがあるのだから破壊力抜群である。
普通に眼福と思って受け入れ、勉強を教えてほしい所ではあるんだけど…。行動の意味が気になりすぎて聞かざるを得ない。
「ひ、日向?どうしたのその格好」
俺が解いている問題の文章を真面目な顔で読んでいらっしゃる彼女の邪魔をするのは申し訳ないけど、気になるんだ。ごめん。
「この格好ですか?これは以前佐藤さんに『勉強を教える時とか、この格好をすると男性は喜ぶと思うよ。結城くんの喜んだ顔、見たいでしょ?』って教えていただきまして」
なんてことを教えてるんだあの女は!
明日ジュースを奢ってあげようかしら。
って違うよ。日向の純粋さに付け込んで、けしからんことを教えよって!
日向と佐藤は、体育祭の後からどんどん仲良くなった。
佐藤は人見知りな所があるみたいだけど、一度話してみたら、根は優しくて面白い子だ。
一緒に下校して、お店に寄ったりとかしてるみたいだけど…。日向の笑顔とかは、俺の特権だと思っていたから、少し残念…いやとても残念だ。
まあ、彼女が笑えば世界が平和になると思えば、仕方ない。
最近は佐藤に恋愛相談なんかをしているらしくて、この格好は恋愛相談の影響なんだな。
日向が俺の喜ぶ姿が見たくてやってくれていると思うと、嬉しくて体温が上がる。
けどなんでそうも落ち着いてるんだろう。
「な、なんでそうも平然としているの?」
「…これが普通じゃないんですか?」
日向は佐藤から「カップルが勉強をするとき、女の子はこの格好をするのが当たり前」と教えられたらしい。
全然普通じゃないわ!嘘を教えるな!
俺が佐藤の話に頭を抱えていたら、日向が不安そうな顔をしていた。
「に、似合ってませんか?可愛く、ないですか?」
「いいえ、似合っています。可愛いです。世界で一番可愛いと思います」
「ひゃっ!?あ、葵くん、な、なにを言ってるんですかっ?」
「思ったことを口にしただけだよ。あと日向、佐藤の話だが…」
俺は日向に、本当のことを教えてあげた。
話を聞いていくうちに、彼女はどんどん赤くなって、話の終わりには可愛い林檎になっていた。
「そ、そんな。私は佐藤さんに揶揄われていたんですねっ。は、恥ずかしいので着替えてきます」
そう言って立ち上がろうとする日向を、俺は優しく引き留めた。
「いや、似合ってるし、せっかくだから今回はこれで教えてください」
「い、いや…でも」
「だめ?」
「うぅぅ…葵くんに、お願いされたら断れないじゃないですか…。こ、今回だけですよ」
「やった!嬉しいよ」
「そ、その代わり、終わったらいっぱい好きって言ってくれないと許しません…」
顔を赤くして、日向がぼそりと言った台詞を俺は聞き逃さなかった。
もちろん、言わせていただきます。普段からいっぱい気持ちを伝えているつもりだけど、その普段よりいっぱいとなると、どれくらい言えばいいんだろう。
まあ、彼女がふやけるくらいまで言うことにしよう。日向に対する想いは、いくら言っても足りないからな。
そこからずっと勉強を教えてもらったけど、あんまり集中できなかったのは言うまでもない。
それでも彼女の教え方はわかりやすくて、通常の俺の全力集中より、勉強になった。
理解しづらかったところも、日向のおかげで理解できた。
日向様様です。
約束通り、終わった後に「も、もう大丈夫です!これ以上言われると、溶けちゃいます…」とストップがかかるまで気持ちを伝えさせて頂きました。
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それでは、今週からも頑張りましょう!




