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53 彼女と添い寝

いつも有難うございます。

あれからハグをしたり、キスをしたりしていたら、十一時になっていた。


俺は普段十二時などに寝ているから、ちょっと眠いな、というくらい。


だが立花は眠そうだ。


話しかけても返事が曖昧で、俺の体に抱き着いたまま首をこっくんこっくんとしている。


そんな可愛らしい彼女に笑みをこぼしつつ、俺は心を鬼にして立花を優しく引き剥がした。


なんたって布団の用意とか寝る準備が出来ないから…。


「あうぅ…?あれ、ゆうきさん?」


俺が寝室に行こうとしたら、服の袖をちょんと摘まれた。


振り返って見ると、立花が上目遣いで目をうるうるさせていた。


まるで捨てられた子猫が温もりを求めて甘えてくる時のような目に、胸がドキっとしてしまう。


そんな顔をされたら、布団を準備するだけなのに行きたくなくなるじゃないか…。


でも立花は眠そうだしなあ。とりあえず歯磨きでも誘ってみようか。


「立花、もう眠そうだから一緒に寝る準備をしよう?歯磨き持ってくるよ」


「わかりました…。でも、立花って呼ばれるの。やです」


そんな甘えた顔で言われても、可愛いくて愛おしいだけです。


「さっき君も結城って言ったじゃないか」


「く、癖です…。今から、名前で呼ぶようにしましょう?」


「わかった。ひ、日向。これいい?」


「…!ふふっ。何でしょう、葵くん?」


彼女の花が咲くような笑顔に、胸がきゅっと締め付けられる。


思わず抱きしめてしまいそうになるが、恐らく永久に動きたく無くなるので、頭を撫でるだけに留めて洗面所に向かった。


恥ずかしい話だが、俺は一般の歯磨き粉は辛いと感じてしまって、あまり使いたくない。


だから辛くないグレープ風味の歯磨き粉を使ってるんだが…。


どうか気にしませんように。


俺は引き出しから歯ブラシを新しく取り出し、例のブツを塗って立…日向の元へ戻った。


「さっさと歯磨きして寝よう。これ」


「はい、有難うございます。って…」


「ど、どうかした?」


彼女は決して人の悪口なんて言わないし、凄く優しい性格なのは重々承知している。


だけど俺が辛くない歯磨き粉を使っていると知ったら、子供っぽいと思われてしまうのではないかと、内心とてもびくびくしている。


男たるもの、彼女の前では格好良くて大人なところを見せたいものだ。


緊張した面構えで日向の続きの言葉を待っていると、予想外の言葉が聞こえてきた。


「これ、普段私が使ってる歯磨き粉と一緒です」


「え、そうなの?」


「はい。普通の歯磨き粉だと、辛くて使えないんです。…葵くんも、一緒ですか?」


「うん、俺も苦手でさ。日向もそうだったなら、なんか嬉しい」


「ふふっ。お揃いって、一緒に時間を刻んでいるみたいで素敵ですね。これから、沢山お揃いにしましょう?例えば、ペアルックとか」


「うん、そうしよう。楽しみだ」



ああ、もう。


何を危惧していたのか忘れるほど、彼女が可愛い。


彼女の提案が素敵過ぎて、妄想が膨らんで微かにあった眠気が消えてしまった。


そして俺達は歯磨きを終え、一緒に洗面所でうがいをした。


コップにそれぞれピンクと水色の歯ブラシが置いてあるなんて、同棲してるみたいだ。


顔に熱が集中しているのを感じながら、何事もないかのように彼女を寝室に誘った。


「寝ようか」


「は、はい」


「別に何もしないから安心して」


「い、いや緊張してるとかそういうのでは」


いや緊張してますやん。やっぱり交際開始したとはいえ、初日から一緒に寝るとか嫌だよな。


襲うつもりなんて毛頭ないが、大事な彼女が眠れないとかそういうのは嫌だ。


布団は二枚用意するつもりだったけど、一枚にして俺はソファーで寝ることにしよう。


まあ同じ家に居るから確実に大丈夫っていう訳ではないんだけど、少しは安心してくれるだろうか。


いや何があっても手は出さないから安心安全なんだけどね。


「やっぱり俺はソファーで寝るよ」


「…えっ」


「さすがに付き合ってその日に、布団が別だけど一緒に寝るのは日向は嫌だろう。緊張してるみたいだし。部屋が違ったら少しは大丈夫なんじゃないか?」


俺がそう言うと、日向は食い気味に返事をしてきた。


「全然嫌じゃないです!私はただ、葵くんと一緒に寝るってことに嬉しい意味でどきどきしてただけです!私は一緒に寝たいですよ?葵くんこそ、嫌なんじゃないですか?」


「嫌な訳ない」


「なら何の問題もありません!…葵くんが何処にも行かないように、ずっと引っ付いておきます」


「え、それはちょっと」


「嫌ですか?」


「幸せですけど」


即答だった。


なんか気づいたら、日向と一緒に寝ることになっているけど、まあ彼女が良いならいいんだ。


俺の言葉を聞いて、日向は頬を赤く染めて上機嫌に「なら一緒に寝ましょう」と布団まで連れて行ってくれた。


あれなんか俺が連れられてる。家主俺なんだけどな。まあいいか。


寝室まで行って、布団を二枚出す素振りを見せると、ぺしぺしと妨害が入ったので一枚の布団に二人で寝る認識で間違い無いらしい。


敷布団掛け布団を用意したので、もう電気を消して寝るだけだ。


なのに心臓がえらいことになっている。


まず俺が、布団全体を一とすると三分の一程度の範囲で布団に入った。


正直肩とか足とか出てます。


俺が入ったのを見届けると、日向も遠慮がちに入ってくる。


一枚ではどうしても狭いので、体が接触してしまう。


内心気が気でならなかった。


「葵くん、もっとこっちに来てください。体が出てます。風邪引いちゃいますよ」


「いや、でも」


「風邪を引かれると心配してしまいますが、それは一応建前で、本当はただ甘えたいんです。駄目ですか?」


「…ほら、日向もこっちにおいで」


「…!はいっ」


俺が体を寄せて、日向を招くと嬉しそうに寄ってきた。


可愛すぎるのも問題だなあ。



ふと、腕枕というのを思い出した。


今は肩と肩が密着して、くっついているけど何か物足りないといった感じ。


腕枕というものをしてみれば、その物足りなさは解決するのではなかろうか。


「日向、腕枕してみたい」


「う、腕枕ですか?こっちからお願いしたいくらいですけど…痺れませんか?」


「ハネムーン症候群ってやつだっけ。まあ大丈夫だと思うけど…」


「それじゃあ…失礼しますね」


日向がいそいそと俺の二の腕の辺りに頭を乗せる。


あー確かに。これは痺れるかも。


でも肌が触れ合っている安心感があるから、そんなの気にならない。


「葵くんに包まれてるみたいで、落ち着きます」


「そっか。俺も日向を近くに感じられて安心するよ」


「今とっても幸せです。…寝る前にっ」


「どうし」


言葉の続きは、日向のキスによって遮られた。


甘い彼女とのキスも、今はグレープの味がする。


可愛らしい彼女の頭をそっと撫でて、俺からもキスをした。


日向は嬉しそうに笑って「おやすみなさい、葵くん」と言った。


「おやすみ、日向」



彼女といる安心感と、いつもより暖かい布団に、俺の意識はすぐに消えていった。












一応これで第一章完でございます。次からは第二章なんですが、第二章のタイトルを何にしようか悩んでおります。


皆様のおかげで2700ポイントに到達することができました。本当にありがとうございます。


これからも頑張っていきますので、ブックマーク、感想、評価等宜しくお願いします!(^^♪


特に☆☆☆☆☆を★★★★★にする評価はして頂きたいですっ(ボソリ



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