51 彼女のお風呂
いつも有難うございます。
俺は立花を脱衣場まで運んで、バスタオルや着替えを置いておく。
「タオルはその棚にまだあるから。着替えは…。俺のシャツとかズボンを使って」
「は、はいっ…!ありがとう、ございますっ」
「それじゃ、ごゆっくり」
そう言って俺は扉を閉め、ソファーに戻った。
勉強でもして、気を紛らわせよう。
理科でもしようかなー、双子葉。
はい、すみません。
がちゃ、というお風呂の扉を開ける音が聞こえてしまったのが最後。
せっかくエンジンが掛かって動き出そうとしたペンは、ピタリと止まってしまった。
シャワーのじゃーという水の流れる音が、本当に今日俺の家に彼女が泊まろうとしている事を認識させてくる。
俺が普段裸で使っている場所を、異性が使っているだなんて。
しかも、その異性は皆の憧れの立花日向で、俺の初めての彼女になってくれた人。
なんかこう。余計なことを考えざるを得ないと言いますか。
あ、今シャワーの音が聞こえなくなったから、湯船に浸かったのかな、とか。
俺が普段使ってるシャンプーや、リンス、ボディソープの匂いが漂ってきて…って本当に集中出来てない。
こんなんじゃ先生に顔向けできないな…。
しょうがない。取っておきの技を使おう。
本気集中!
説明しよう!この技の持ち主である結城葵は、心の中にスイッチがあると思い込み、技名を心の中で唱えることで、スイッチを入れ無理やり自分の世界を作り出すことが出来るのだ。
いつもお世話になっている参考書を片手に、問題を解いていく。
解きまくってるせいで答え暗記してるくらいだし、そろそろ新しいの買おうかしら。
何十分か解いていると、肩を優しく揺すられた。
揺すられた方に顔を向けると、俺の服を着ている可愛らしい立花が居た。
これがいわゆる、彼シャツというやつだろうか。
どこかで聞いたことがあるだけだから、審議は分からないが、とにかく可愛いのである。
彼女はほのかに肌を赤らめていて、髪などはしっとりと濡れていた。
「お風呂、ご馳走様でした。とっても気持ち良かったです」
「なんというか、可愛い」
「な、なんですかっ、急に可愛いなんて…」
「彼シャツってやつだっけ。俺の服に身を包んでる君が愛おしいと思ってる」
「詳しく言わないでくださいっ。…でも、結城さんの匂いに包まれて、その…良い匂いで…。幸せですっ」
「…!こっちにおいで」
俺に呼ばれて、嬉しさを隠しきれずに近づいてくる立花。
俺の太ももの上に座らせて、頭を撫でる。
案の定少し濡れていて、右手に持っているものを立花に見せた。
「ドライヤー、ですか?」
「そう。乾かしていいかな?」
「は、はい!是非、お願いしますっ」
優しい風を出して、大事なものを扱うように、彼女の髪を乾かしていく。というか大事だ。
水気を帯びていた髪が、いつものサラサラな髪の毛に変わっていく。
キューティクルばっちりの髪になったわけだが、俺と同じシャンプーを使ったはずなのに、何故だろう。とてつもなく良い匂いがする。
美少女補正でもかかっているのだろう。深く考えるのはやめた。
「結城さん、上手ですね。とっても心地良いです」
「そう?ありがとう。いつも妹の髪を乾かしてたからかなあ?」
「えっ!?結城さん、妹さんがいらしたんですか!?」
「あれ、言ってなかったかな。八歳の妹がいるよ」
「聞いた事ありませんっ。そうだったんですね…ちょっとびっくりしました」
「お母さん似の可愛い妹だよ。後で写真見る?」
「はい!是非っ」
「わかったわかった、そんな食いつかなくても大丈夫だって。とりあえず髪乾かし終えたし、次は俺が入るね」
「乾かしていただいて有難うございました。その、良かったら、またお願い出来ますか…?」
恥ずかしさや照れからか、頬を赤く染めて甘えてくる。
あーもう。なんでこんなに可愛いんだろう。
断るわけ無いのに。
「もちろん。俺からお願いしたいくらいだ」
俺がそう言うと、彼女は幸せそうに目を細めてくれる。
彼女の綺麗な笑顔に、胸がドキッとしてしまった。
お風呂に入る前に、乾いたばかりの立花の頭を優しく撫でる。
「顔が赤いですよ?」
「君もね」
お互いくすくす笑って、俺はお風呂場に向かう。
男の入浴シーンなんて、要らないよね。
俺はササッと入って、出ることにした。
結城くんがお風呂に入っている間の立花
「結城さん、優しくて格好良かったぁ…」
彼女も大概だった。
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日曜に投稿しようとおもいましたが、遅れてしまいました。申し訳ありません。
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