49 彼女
いつも有難うございます。
「重症って程でも無いけれど、安静にしていた方が良いね」
「そう、ですか…」
保健室に立花を連れてきて、先生に彼女の足を診てもらった。
重症じゃないらしいけど、動くと痛そうだ。
先生は湿布を貼って、器用にテーピングをしている。
綺麗に巻き終えると、ぱんっと手を叩いて口を開いた。
「よし、これでいい。もう体育祭も終わっただろうから帰っていいよ。親御さんは今日此処にいらっしゃる?」
「いえ、両親は来ていません」
「そっか、じゃあ私が車を出そう。ついでに結城くんも乗せようか」
先生は、親という話題に立花の雰囲気が変わったことが分かったのか、深く言及せず車を出すと言ってくれた。
立花の両親については詳しく知らないが、迎えに来て貰うという選択肢は、恐らく無かっただろう。
あのまま、両親の話を続けていたなら。
いつぶりか、彼女の冷たい表情を見ると思うと、ぶるりと背筋が震える。
今も、気にしていないという表情だが、それは諦めたが故の気にしていないといったもので、俺はそっと立花に近づいた。
俺は彼女の頭にそっと手を置いて、優しく撫でる。
「ゆうき、さん?」
「じゃあ、俺も乗せて頂きます。立花、荷物とかどこに置いたか分かる?」
「え、えっと、教室の私の机に」
「じゃあ、急いで取ってくる」
「え、あ、はいっ、有難うございます」
俺は彼女の頭を撫でる手をそのままに、先生を一瞥した。
「そういうことなので、僕の荷物も一緒に取りに行ってきます」
「ふふふ、そういう関係なのね」
「まだ違いますよ」
「なるほどねえ。結城くんが帰ってくるまで、私とお話してましょうか」
「あまりいじめないで上げてくださいね」
俺はそういうと、保健室から出て急いで荷物を取りに行った。
先生の明るい声が聞こえて来たような気がするけど、頑張ってくれ立花。
☆☆☆☆☆
「それじゃ、しっかりと面倒見てあげるのよー」
「「は、はい」」
「あ、あと結城くん、ちょっと」
先生が手招きをするので、素直に近くに行く。
俺にしか聞こえない声量で、とんでもない発言をしてくれた。
「避妊はしなさいよ」
「はあ!?」
「はあ、って。出来たらどうするのよ」
「いやなんでする前提なんですか!しませんし、せめてそういうのは順を追ってからですよ!」
「ふーん。順を追ったらするんだ」
「ああもう!早く行ってください」
「ほいほい、じゃあねー」
先生はケラケラ笑いながら車を走らせて、すぐに居なくなった。
「本当に、何なんだあの人は…」
「結城さん、何のお話をしていたんですか?」
「いや、なんでもない…。早く家に上がろう。ほら」
俺は立花の前で背中を向けて屈んで、ちらりと視線を送る。
なんで、こんな事になったんだっけ。
確か先生が「立花さんの家に誰もいないなら、結城くんが面倒を見るしかないわね」とか言い出して、彼女の家に向かう所を、俺の家に二人行くことになったんだ。
先生は、俺がいない間に立花から話を聞いていたらしくて、帰ってきたときにはニヤニヤしていたから嫌な予感はしていた。
青春だの、恋愛だの、そういった類の物好きなんだよな、この人。
ロマンチストというか。
立花は頬を赤く染めて、覚悟を決めたように息を吐いてから、俺の肩へ手を置いて体重を掛けてくれた。
「よいしょっと。動くよ」
「うぅぅ…。重くないですか?」
「全然重くない。軽すぎてもっと食べたほうが良いんじゃないって感じ」
「あまり甘やかしてしまったら、太ってしまいます」
「俺はどんな立花も好きだから、太ってくれても構わないよ」
「は、はぇっ。す、好きって!えっと、そのっ…うぅぅ」
余裕ぶっているが、実は先程の先生の発言が原因で、彼女の事を意識しすぎて心臓がばくばくなのである。
気にしないようにしてるが、背中に当たる柔らかい感触とかそのえっと。
その時点で気にしてるような気がするので、適当な会話で誤魔化しているのである。
「じゃあここに座ってて」
「あ、有難うございました」
ゆっくりと立花をソファーに下して、俺は台所へと向かう。
「結城さん、今から料理をなさるんですか?」
「そうする予定。何か食べたいものとかある?」
「ゆ、結城さんが作ってくださるのなら、なんでも嬉しいですっ。って、そういう事じゃなくて、私も手伝います」
「駄目だよ動いたら。簡単なのを作るから安心して座ってて。というか簡単なのしか作れないんだけど」
そう言って自分で笑って、冷蔵庫を開ける。
うーん。今日は、豚の生姜焼きにでもしようかな。
材料を出して手を洗っていると、視線を感じた。
彼女が座っているソファーの方を見てみると、頬を赤くして俺を見つめていた。
「どうした?」
「い、いえ、昨日見られなかった、結城さんが私のために料理してくれている姿を目に焼き付けておこうと思って…」
「そんなの幾らでも見れるでしょ。まあ、楽しいんなら良いけれど」
「じゃあ、楽しませて貰ってますね」
立花の視線を感じながら料理をするのは、なんでか緊張してしまうが、いつも通り冷静に挑んだ。
だが、途中あまりにも恥ずかしくて、りんごの皮むきをお願いしたが、一瞬で終わらせてまた見つめ出したので、諦めることにした。
☆☆☆☆☆
「結城さん、美味しかったです。私は今、幸せです!」
俺は洗い物を済ませて、手を拭きながら立花の隣へ座る。
「はいはい、何回も聞いたそれ」
「本当にそう思っていて、溢れる感情を言葉にしないと爆発しそうなんですっ」
「ありがとう」
右手で立花の頭を撫でる。
さっきまで元気そうにしていたのに、俺が撫で始めると可愛い顔をしながら静かにそれを受け入れてくれる。
ここがタイミングだと思った俺は、ずっと言おうと思っていた言葉を言う。
撫でる手を止めて、立花を見つめた。
雰囲気が変わったことに気付いたのか、真剣な表情で見つめ返してくれる。
「立花」
「はい」
「俺は、君のことが好きだよ」
「…!はい」
「最初は、仲良くなれると思ってなかった。俺は平凡な高校生で、俺にとって君は高嶺の花だったから。だけど、君と関わっていく内にどんどん仲良くなれて、沢山の君を知れた。只々君と友達になれただけで、本当に嬉しくて、満足してた」
俺はそっと彼女の頬に右手を当てる。
左手で彼女の手を取って、優しく握った。
「でも何時からか、友達という関係では満足できなくなってた。君の飾ってない、可愛らしい笑顔を隣で見るのは、俺で居たいと思うようになった。俺じゃつり合わないからと、君に対する好意や、君からの好意から目を逸らしていたけれど。そんな時、君から好きだと言ってくれた。可笑しいよな、普通こういうのは男から言うべきなのに」
彼女は目の端に涙を溜めて、俺の話を聞いてくれている。
そんな愛おしい彼女の涙を、そっと指で拭う。
「それで俺は決めたんだ。自分に正直になって、真剣に君と向き合おうって」
お互いが、お互いの瞳から目が離せない。
数秒にも、数分にも、数十分にも感じる間、立花と見つめ合って。
俺はついに口を開いた。
「好きだよ。立花。大好きだ」
「わ、私も、あ、あなたのことが、だ、大好き、です」
ボロボロと涙を零しながら、立花は勢いよく俺に抱き着いてきた。
彼女は、俺の胸でぐすぐすと泣いている。
愛おしい気持ちが湧いてきて、壊れそうなくらい細くて、でも柔らかい彼女の体を抱きしめ返す。
「好きですっ。結城さん。好き、好き…す、き…」
俺は彼女の両頬にそっと手を置いて、顔を上げてもらい至近距離で見つめあった。
「俺も、君のことが大好きだ。俺と、付き合ってくれますか?」
「うん、喜んでっ」
そう言って立花は俺の肩に顎を乗せて、再び抱きしめてくれた。
この腕の中に居る、愛おしくて、可愛らしい彼女を、絶対に幸せにする。
そう俺は心に誓う。
熱く心地よい抱擁は、いつまでも続いた。
「…大好きです。…結城さん」
ついに結ばれましたね!良かったです。今後も二人のラブストーリーは続いて行きますので、ブクマ、感想、評価等、やる気に繋がりますのでよろしくお願いします!
最近評価が多くて嬉しいです(﹡ˆ﹀ˆ﹡)♡